American Dream の行く末は?
- 2012年 1月 26日
- 評論・紹介・意見
- グローガー理恵
「The New York Times」で大変興味深い記事がありましたので、是非ご紹介したいと思いました。
記事は、毎年アメリカで一月の第三月曜日に祝われる「Martin Luther King Day(キング氏の誕生日は1月15日)」に因み、ノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマン博士が「The New York Times」に寄稿したものです。
賛否論はありますが、かってのアメリカは成功を掴めるチャンスのある国家と見なさせれ、長い間、謳われてきた「アメリカン・ドリーム」は多くのアメリカ人の心を捉えてきました。 しかし、現実のアメリカは、国民の1%を占めるスーパーリッチと残りの99%のノンリッチ間の貧富格差が、容赦なく広がり続けている国です。 クルーグマン博士は、「アメリカ国民は、マーティン・ルサー・キングのように沈黙することを拒否し、今、立ち上がるべきだ。そうしなければ、『アメリカン・ドリーム』は単なる夢で終ってしまう」と、警告しています。
原文へのリンクです。
http://www.nytimes.com/2012/01/16/opinion/krugman-how-fares-the-dream.html?scp=2&sq=krugman&st=cse
概説: The New York Times― 2012年1月15日付
*夢の状態はどうなっている?
コラムニスト、*ポール・クルーグマン氏寄稿
「私には夢がある」と、マーティン・ルサー・キングはスピーチの中で宣言した。このキング氏の言葉は、今も力強く、人々にインスピレーションを与えている。そして、その中には実現した夢もある。 キング氏がスピーチした1963年の夏、何百万人のアメリカ市民は、皮膚の色が違うというだけの理由で、基本的権利を否定されていた。今日、人種差別は法律に組み込まれてはいない。そして、人種差別は決して人々の心から払い除けられたものではないが、その把持力はかってのものよりも遥かに弱くなった。
一目瞭然な事を言えば、オバマ政権スタッフメンバーの写真である。-スタッフには、異なった人種、女性が混じっている。-これは、1963年には殆ど想像する事もできなかったような事であり、人種別・性別を超えて人を受け入れるという意思には、ある種の寛大さが窺がえる。-我々が、マーティン・ルサー・キングの誕生日(Martin Luther King Jr. Day-米国の祝日)を祝う時、真に心から祝福すべき価値ある何かがある。公民権運動はアメリカが経験した最も素晴らしい時間の一つだった。公民権運動は我々を、我々独自の理想に対して、より誠実である国民に創り上げた。
しかし、もしキング氏が、現在のアメリカを見ることが出来たとしたら、彼は失望するであろうと私は思う。 キング氏は、彼の子どもたちが皮膚の色によってではなく、彼らが持つ各々の性格の中身によって判断されるアメリカを夢みた。 我々は現に、皮膚の色で人々を判断する国民ではなくなった。-少なくとも、過去ほどの差別感はなくなった。- そして、今の我々は「個人の給料支払小切手のサイズ」で、その人間を判断する国民となった。
グッドバイ、**ジム・クロウ! こんにちわ、階級制度!
本質的に、経済の不平等性は人種に関わる問題ではない。しかし、アメリカ社会というのは、そういった人種的要素も含まれている社会であるから、我々の所得格差が広がってきたことに人種的な意味合いが掛かり合っていることは否定できない。 いずれにせよキング氏は、今日のアメリカ社会で激増している不平等性を確実に、「対抗すべき悪である」と見なした事だろう。-キング氏は暗殺された時、「もっと賃金引き上げを!」とキャンペーンしていた。
1960年代には、公然たる、あからさまな人種差別を終らせる事が、経済を向上させ少数派の法的地位を改善させるものと、遍く推測されていた。そして最初のうちは、そういった現象が起こっているように思われた。1960年代、1970年代の過程では、相当な数の黒人所帯が中流階級や中流上層階級の中に入り込んでいった。その結果、トップ20%の所得分配を占める黒人所帯のパーセントが、これまでの二倍近くとなった。
しかし、1980年頃、黒人の相対的な経済的地位の改善が止まった。どうしてか?その理由の一つとして、1980年頃のアメリカにおいて、所得の格差幅が劇的に広がっていって、アメリカを1920年代以来なかったような不平等社会にしていったという事が挙げられる。
所得分配を、個人の所得の高低によって、其々違った高さの段に置く「梯子」として考えてみよう。: 1980年頃に、梯子の各段の距離が更に広まっていき始め、黒人社会の経済進歩に不利な影響を及ぼしていった。先ず、未だ梯子段の下方に居る多くの黒人の所得は沈滞状態で、梯子の天辺に位置する者の所得が急上昇し、黒人たちは取り残されてしまった。それから、梯子の段々の間の距離がもっと広がった為に、梯子を上る事がずっと困難になった。
我々は、アメリカが成功を掴む機会のある国家と見なしている。しかし実際には、アメリカにおける世代間の経済移動性は、他の先進国に比べると少ないのである。それは即ち、低所得家庭に生まれた人間が、最終的に高所得者になれるチャンスや、その逆で高所得者が最終的に低所得者になる可能性が、カナダやヨーロッパに比べると著しく少ないという事を意味している。
アメリカの経済移動性が低いのは、アメリカの著しい所得不平等と大いに関係がある。
先週、大統領経済諮問委員会・会長***アラン・クルーガー氏が所得不平等についての重大なスピーチをした。クルーガー氏は、「不平等性が高い国は移動性が低い。社会が不平等であればあるほど、個人の経済状態はその個人の両親の経済状態によって決定される度合がより強くなる」と述べた。また、クルーガー氏は、「2035年には、我が国の経済的移動性が現在よりももっと減少するだろう。そして、アメリカは、子供達の将来への経済見通しを、その子供達が生まれた家庭の階級によって大きくは決定してしまうような国になるであろう」と指摘した。
このような進展を我々は甘んじて受け入れるべきではない。****ミット・ロム二ー氏は、「仮に所得不平等について議論するとしても、議論は静かな部屋でやるべきだ」と言った。過去においても、人種的不平等に関して同じような事を言われた時があった。しかし幸いにもアメリカには、静かにしていることを拒絶したマーティン・ルサー・キングのような人々がいた。今日、我々はそのような人々を模範とすべきである。何故なら、増大する不平等性がアメリカを、過去のアメリカとは異なった、いっそう悪いアメリカにしようと脅かしているのが事実なのだ。-我々は、我々の価値観と夢を維持するために、このような動向を逆転させていかねばならない。
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(注)
-*ポール・クルーグマン(Paul Krugman): アメリカの経済学者。コラムニスト。現在、プリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授を兼任。2008年、ノーベル経済学賞受賞。
-*夢: 「アメリカン・ドリーム(American Dream)」を示唆している。
アメリカン・ドリームとは、アメリカ合衆国における成功の概念。均等に与えられる機会を活かし勤勉と努力によって勝ち取ることの出来るものとされ、その根源は「独立宣言」に記された「幸福の追求の権利」による。
-**ジム・クロウ法(Jim Crow laws): 1876年から1964年にかけて存在した米国南部の州法。 主に黒人の、一般公共施設の利用を禁止制限した法律を総称して謂う。しかし、この対象となる人種は、「アフリカ系黒人」だけでなく、「黒人の血が混じっているものはすべて黒人とみなす」という人種差別法の「一滴規定」に基づいており、黒人との混血者に対してだけでなく、インディアン、ブラックインディアン(インディアンと黒人の混血)などの、白人以外の有色人種も含んでいる。
-***アラン・クルーガー(Alan Bennett Krueger):アメリカの経済学者。プリンストン大学の教授。全米経済研究所(NBER)のリサーチ・アソシエイト。現在、オバマ大統領の大統領経済諮問委員会 (President’s Council of Economic Advisers) 委員長。
-****ミット・ロム二ー(Mitt Romney): アメリカ合衆国の実業家、共和党政治家。2003年-2007年、マサチューセッツ州知事。現在、共和党大統領候補者予備選挙でキャンペーン中。
(Wikipedia参照)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0759:120126〕
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