佐倉市の国民健康保険~現状は?改革案は~
- 2012年 2月 7日
- 評論・紹介・意見
- 佐倉市国民健康保険財政醍醐聡
私たちが住む街の国民健康保険は?
2月4日、佐倉向日葵会の主催で「佐倉市の国民健康保険~現状は?改革案は?~」と題して講演をした。同じ向日葵会が昨年11月20日に市民フェスタ2011にエントリーされた企画として「佐倉市の財政」について講演をさせてもらったが、その時、時間不足で話せなかった国民健康保険について続きの話をという趣旨で企画された講演会である。
国民健康保険、特に市町村が運営主体になっている市町村国保の財政危機について、このところ連日、全国紙で記事が出ている。それだけにやりがいのあるテーマだし、私の目下の研究テーマでもあったので、なおさら準備も張り合いがあった。
この1週間ほどの寒波のせいもあって、参加者は50名少しだった。主催者代表のUさんは気にされていたが、地元で開いた、深刻ではあるが地味なテーマにこれだけの方が足を運んでいただいたことを嬉しく思っている。市会議員も3人聴きに来ていただいたが、そのうちのT議員は初対面の方で有難かった。
この場を借りて、企画の準備、大量の資料の印刷、当日の会場設営などに尽力いただいた佐倉向日葵会のUさんはじめ、会員の方々に厚くお礼を申し上げる。
当日使った資料
以下は、当日、使ったパワーポイントのスライド原稿(4コマ版を配布)、別紙資料(3枚)である。
パワーポイント原稿「佐倉市の国民健康保険~現状は?改革案は?~」(ブログにアップロードするにあたって容量制限のため4つに分割)
No.1
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_koensiryo_no1.pdf
No.2
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_koensiryo_no2.pdf
No.3
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_koensiryo_no3.pdf
No.4
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_koensiryo_no4.pdf
別紙資料
表1医療保険制度間の財政調整(西沢和彦『税と社会保障の抜本改革』2010年、198ページより転載)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_t1.pdf
表2 国民健康保険の加入状況・保険料とその収納状況(佐倉市と類似規模の県内7市の比較表)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_t2.pdf
表3 7市の国民健康保険特別会計の財政状況
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kokuho_t3.pdf
(注)県内7市とは、佐倉市、野田市、成田市、習志野市、流山市、八千代市、浦安市
講演の中で強調したことは
1.わが国では医療保険が5つの制度(①組合健保、②協会けんぽ、③共済組合、④市町村国保、⑤後期高齢者医療制度)に分かれているが、上記の表1からわかるように、①~③の毎年度の支出額の4割強は市町村国保と後期高齢者医療制度への支援金と介護保険への納付交付金に充てられている。逆からいうと、市町村国保の収入のうち保険料が占める割合は約30%(佐倉市の場合、約28%)で、残りを国・都道府県からの支出金(約40%)、他の医療保険からの支援金(約30%)が占める構造になっている。
2.市町村国保がこのような財源構造になったのは、①被保険者の過半が退職者、被用者医療保険への加入条件を満たせない短期雇用労働者が占めていることから、平均所得が低く、所得割の保険料部分が低い水準にならざるを得ないこと。②その反面、被保険者の平均年齢が相対的に高いことから、疾病率が高く、保険給付費が他の医療保険と比べて多くなる、ためである。
3.それでも現在の市町村国保の保険料は被保険者の負担力との対比で高すぎ、低所得層にとって「払えない」水準になっている。に会福祉推進千葉県協議会の調査によると(上記表2、3)、保険料(税)を半年~1年滞納したため、有効期間が半年の短期保険証に切り替えられた世帯と1年以上保険料(税)を滞納したため、保険証の返却を求められ、窓口でいったん全額を自己負担しなければならない資格証明書に切り替えられた世帯が加入世帯数に占める割合(2010年度:ただし、日々変動がある)は八千代市で12.0%(3,582世帯)、野田市で10.7%(2,946世帯)に達し、佐倉市でも8.1%(2,303世帯)に上っている。
4.このうち、資格証に切り替えられた世帯の所得階層を見ると、八千代市(1,402世帯)ではその85.2%が未申告世帯+年間所得200万円以下の世帯となっている。佐倉市でも、資格証世帯(541世帯)の84.1%が未申告世帯+年間所得200万円以下の世帯となっている。
こうした状態を放置すると、窓口で医療費の全額を負担できる目途がない世帯で、受診抑制 → 健康悪化 → 失職 という貧困のスパイラルが待ち受けている。これは、とりもなおさず、国民皆保険のほころび、更には瓦解へとつながる危機と言わなければならない。
5.以上のような実態を見ると、今日の市町村国保はもはや社会「保険」という呼称からは程遠い実態になっており、社会「福祉」として医療制度を捉え、財政のあり方を再構築する必要に迫られている。
6.その場合、組合健保や共済組合は、①自らの被用者保険への加入資格を制限していることから、その医療保険に加入できない非正規雇用の労働者が市町村国保に加入することを余儀なくされていること、②組合健保や共済組合への加入者の大半は退職後、市町村国保に移動すること、を考えれば、市町村国保を国民皆保険の最後のよりどころとして維持するよう、これらの医療保険に市町村国保の財政支援を求めることにそれなりの根拠はある。しかし、自己の医療保険の年々の支出額の4割もが他の医療保険への支援金に充てられているという現実はこうした根拠を以てしても負担の限度を超えていると言わざるを得ない。現に、こうした過度な負担を返上することを理由の一つに挙げて組合健保を解散する動きが出ていることは黙過できない。
私の意見・提言
7.私が当面、佐倉市独自の財政対応として提言するのは、
①類似規模の他市の保険料(税)の計算体系と比べて、応能分(所得割・資産割)の比重が低い(応能分53.3%:応益分46.7%)のを改め、資産割をあらたに創設することも含め、応能分の比重を他市並み(浦安市75.3%対24.7%;習志野市67.8%対32.2%;流山市63.0%対37.0%)に引き上げること、それによって保険税を低所得層にも「払える水準」に近付けること。
②2010年度の国保特別会計で決算剰余金8,735万円を処分して積み立てた国保内の基金積立金4,367万円の一部(私の試算では約1,850万円)を取り崩して、当面、保険税の滞納を精算できる目途がないと考えられる資格証世帯541世帯の保険税滞納分を補てんし、これらの世帯に保険証を戻すこと。
(注)「基金積立金を取り崩して低所得層の滞納分の補てん」と書いたが、こうした表現が正しいかどうか、次の点を確認したうえでないと断定できない。なぜなら、1年以上の滞納者で資力に欠けるとみなされる世帯の保険税の現年分と滞納分も次年度の歳入予算の保険税収入に計上しているのかどうか? 次年度の歳出予算において資格証世帯(高校生以下の分を除く)に係る保険給付費は計上を見合わせるといった措置が取られているのかどうか? を確かめる必要があるからである。もし、1年以上の滞納者で資力に欠けるとみなされる世帯の保険税の現年分も滞納分も次年度の歳入予算の保険税収入には計上せず、次年度の歳出予算において、資格証世帯(高校生以下の分を除く)に係る保険給付費も計上しているのであれば、資格証世帯に保険証を戻すにあたって新たな財源措置を講じる必要はない。担当課に問い合わせればわかることなので、早い時期に確認したい。
8.しかし、今日の市町村国保の財政の危機的状況に照らして国は市町村国保を都道府県単位に再編する「国保の広域化」を推進しようとしている。それによって国保の財政調整を都道府県レベルに集約し、国保財政の均霑化を図ろうとしているのである。
しかし、
①都道府県内でも都道府県間でも財政力に大きな開きがある現状の下で国保の財政運営を本当に都道府県単位に集約できるのか?
②国保の財政を都道府県単位に集約しただけで、国保の財政が安定化する保障はどこにもなく、国からの財政支援が欠かせない実態は変化しないと考えられる。むしろ、滞納者への対応や資格証・短期証の交付事務など日常的な窓口事務は住民と近い存在の市町村にとどまらざるを得ない。そうなると、広域化する財政運営と市町村単位の窓口事務が隔離され、両者の連携・意思の疎通が弱くなって、そうでなくても民間委託で滞納者との距離が疎遠になりがちな行政にますます拍車がかからないか懸念される。
9.結局、市町村国保の財政問題を辿っていくと、国全体の社会保障財政のあり方、特に財源問題に行きつくことになった。そのため、講演の後半3分の1程は目下の「社会保障と税の一体改革」に及ぶことになった。この点で、家計の負担力に逆進的な消費税の増税に社会保障の財源を求めることに同意しない私は、今回の講演では、①所得税の累進性の回復、②特別会計に存在する活用可能な剰余金の運用、③医薬品製造業に異例の高利益をもたらしている、国際比較で際立って高い薬価を引き下げて医療保険内部で増税に頼らない財源を確保する、という構想を説明した。
ただ、①②③とも時間が押し詰まった中での説明だったのと本題のテーマから大きくはみ出るテーマにどこまで踏み込むのか、迷いがあったこと、私の構想自体にまだまだ具体的な裏付けが不足していることから、説得力のある説明ができたとは思っていない。この点は目下、手掛けているさなかのテーマなので、今回の講演を機にもっと自分の提言を固める作業を加速させなければと思っている。
講演の後の討論では
この機会に盛りだくさんのことを話そうとしたため、講演は予定の時間を大幅に超えてしまい、主催者代表のUさんをやきもきさせたことと思う。講演のあと、椅子を円形に並べ変えて自由討論になった。そこでは、
①薬価を下げて財源を生み出すことと診療報酬の見直しはどう関係するのか?
②成田市や浦安市では国保特別会計の赤字補てんに必要限度以上に財政調整基金を取り崩しているが、これ保険給付を充実させるとか、保険料の滞納者を救済するとかいった積極的な財政運営を意味すると考えてよいか? 佐倉市の国保では平成20年度までの数年間、一般会計から1億円を超える赤字補てんの繰入をしていたとのことだが、その後、こうした繰入が必要なくなったのはなぜか?
③国保はなぜ特別会計なのか、一般会計と一緒にしてはいけないのか?
④各市町村に在住している外国人は国保に加入できるのか? 彼らの医療費負担はどうなっているのか?
など、さまざまな意見・質問が出た。
一口では答えられない質問が多く、④などは私の現在の知見では答えられなかったが、②の後段についていうと、佐倉市では平成22年度の決算では一般会計からの赤字補てん繰入はないものの、出納整理期間に国保内財政調整基金を2,081万円取り崩して療養費に充てている(健康保健課からの聞き取り)ことを紹介した。出納整理期間中に取り崩したいきさつを確かめる必要があるが、国保特別会計内の基金とはいえ、経常外収入といえる基金の取り崩しで財源を補充するのは単年度ごとの収支均衡の点からいえば、一般会計からの法定外繰入れに似た性格のものといえる。
ただ、上記②の前段の質問・意見にあるように、基金をため込むだけが財政運営の成果と言えるわけではない。先に述べたように、その一部を活用して保険証の返還を余儀なくされた低所得層の世帯を医療保険の安心網に復帰できるようにするのは意義深い財政政策だと私は考えている。
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0768:120207〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。