壊れる温度計で「冷温停止」と主張するの怪 / 東電も保安院も、温度計以上に「壊れて」いる
- 2012年 2月 15日
- 時代をみる
- 「冷温停止」山崎久隆温度計
炉心の破壊された燃料と瓦礫の溶融物(これをデブリという)は、常に核燃料に含まれる放射性物質の崩壊により、熱が出続けている。これを「崩壊熱」と言うが、その熱量は、東電の評価でも冷却水が補給されなくなると数日で再溶融にいたり、大量の放射能を拡散させるとされる。
そのため今でも冷却水を炉心に投入しており、毎時1トンほどの量になる。破壊された燃料を掛け流ししているわけだから、放射性物質が大量に出てくる最大の原因になっているが、止めるわけにはいかない。
通常、原子炉が停止しているならば、圧力容器内にある燃料は冷却水につかっている。使用済燃料プールの中の燃料も同様だ。水の循環が止まれば沸騰する可能性はあるが、水の補給が続く限り、燃料が溶けることは無い。
ところが福島第一原発1~3号機の圧力容器には燃料のデブリが崩れ落ちており、この状態では燃料を冷やすための冷却水が十分に行き渡らない。
溶けてしまった状態では、燃料棒もチャンネルボックスも原型を止めておらず、水を流しても固まっている部分の中心には届かないだろう。もし固まりそのものが水につかっているならば、冷却能力は維持できていると考えられる。けれども圧力容器の水位計はダウンスケール状態、つまり測定不能となっている。おそらく水は入れるそばから燃料デブリであいた穴を抜けて流出しているとみられる。これでは冠水ができず、露出しているデブリがあった場合は冷却不能となる。
圧力容器表面の温度計は、冷却が維持できていることを知る唯一の方法だ。
この温度計は本来は原子炉圧力容器内部の水温を測定する装置だったが、冷却水が抜けてしまったため、おそらく圧力容器の表面温度を測っているに過ぎないと考えられる。
そのため本来は健全な原子炉で100度以下を意味する「冷温停止状態」であるかどうかを、この温度計で80度以下になることで判断している。もともと温度計が原子炉破壊の過程で高温に晒されて破損した可能性と、水の温度では無く雰囲気温度を測っているためと、燃料が何処でどうなっているかも分からないために、正確性に欠けることを考慮したものとみられる。
水位も温度も不明
その温度計の一つが、ついに破壊された。これは原子炉内部を知る方法を失うことを意味する。
圧力容器の同じ高さには120度の角度を経てまだ2個、それより約15センチ低い場所には3個の温度計が生きているとしても、圧力容器の一角の温度が分からないのだから事態は深刻と言わねばならない。
もともと、原子炉破壊の経緯を考えれば、温度計の健全性や性能は期待できなかった。全損していても不思議では無い。もともとは運転温度273度から0度くらいの間の原子炉圧力容器温度を測定するために付けられている。最高使用温度は400度。これ以上になると破壊される可能性がある。特に燃料が溶けた場所に近い温度計は内部が数百度になってしまい、導線や溶接部に損傷があるかもしれない。
こんな状態になった温度計は普通ならば直ちに全部交換する。それが出来ないから不安定なままに使い続けているのが実態だ。指示値が合っている保証もない。これから次々に計測不能になってしまうだろう。
水位も温度も不明では、冷却が十分出来ているか確認する方法が無くなる。あとは放出される放射能量、特にキセノンなどの希ガスが突如増大して「臨界」と判断するかどうかといった事態になる。
代替計測装置を早急にと、経産省が指示したと言うが、いまさら温度を測定する方法など他にはほとんど考えにくい。
燃料体が整然と立ち並んでいる原子炉ではない。メチャクチャに壊れて、さらに圧力容器をも突き抜けて溜まったデブリを含めて、温度を管理するなど到底出来ない状態だということを改めて思い知らされている。
再度放射能放出の危機
冷却能力が低下し、デブリの一部が高温になった場合、直ちに爆発することは無いにしても、放射性物質の大量放出になるだろう。
特にセシウムは噴出する蒸気に付着して拡散してしまうと考えられる。一定の割合でストロンチウムも放出される。
環境への放射の放出を繰り返すことになれば、汚染地域がさらに拡大する危険性もある。
原子炉内部からの放出を止めるための、根本的な解決を早急に考えるべきだろう。
たんぽぽ舎「地震と原発事故情報 その333」より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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