いよいよ日本版「緑の党」が旗揚げへ -脱原子力発電、脱経済成長をめざして-
- 2012年 2月 24日
- 時代をみる
- 安原和雄緑の党
日本にもようやく「緑の党」が7月に誕生することになった。2013年参議院選挙に立候補し、初の国会議員を登場させることをめざしている。具体的な政策として脱原子力発電(即時全面停止)を正面に掲げるほか、脱経済成長など、民主・自民党のような既成大政党とは一線を画す姿勢を打ち出している。
「緑の党」は今では多くの国や地域で活動しており、ドイツ、フランスなどでは連立政権に参加し、環境政策の転換などで実績を挙げている。日本版「緑の党」は出遅れ感が否めないが、やがて存在感のある政党に成長していくことを期待したい。(2012年2月24日掲載)
全国の地方議員や自治体首長ら有志の政治組織「みどりの未来」は、2012年2月第4回総会を東京で開き、7月に「緑の党」を結成することを決めた。同時に2013年7月の参院選挙に挑戦し、「緑の党」として初の議員を国会に送り込もうという基本方針を確認した。
なお共同代表に八木 聡(長野県大町市議)、中山 均(新潟市議)、須黒奈緒(東京杉並区議)、松本なみほ(兵庫県)― の4氏を再任した。
「緑の党」の理念や具体的政策は何か。「日本にも緑の党をつくろう!」と呼びかける「みどりの未来ガイドブック」(2011年11月「みどりの未来」発行)を参考にしながら、その概要を紹介しよう。
(1)どういう世界や日本をめざしているのか
世界や日本の現状をどう認識し、何を実現しようとしているのか。次のように述べている。
・現代社会は、もう何十年も危機的な状態が続いている。
・地球は有限であるのに、人間が無限の経済成長を求めた結果、自然を破壊し、資源を収奪し、モノを作り続けることを繰り返してきた。
・物質的な豊かさが増す一方、格差が広がり、人と人との結びつきや社会のあり方は冷たく貧しいものになり、多くの人々が将来への底知れない不安を抱えながら、時間に追われて暮らしている。
・今こそ本当の「豊かさ」を見直す時にきている。
・経済成長に依存しなくとも、環境と調和したゆったりとした生活を享受することで、地球にも人間にもできるだけ負荷をかけない社会のしくみを創りたい。
・一人ひとりが尊重され、人々の生活が、競争ではなく、自治と協力によって営まれる、あらたな経済社会のかたちを実現したい。
・世界の不公平と貧困、紛争を解決するために、日本が先頭に立ち、公正な国際社会へ転換していく。
・さあ大胆に進路を変えよう。ともに新しい未来の1ページを刻もう。
(2)理念は何か
次のような「6つの理念」を掲げている。
1.エコロジカルな知恵=世界のすべてはつながり影響し合っている・・・知恵のあるライフスタイルとスローな日本へ!
2.社会的公正/正義=「一人勝ち」では幸せになれない・・・弱肉強食から脱却する思いやりの政策を!
3.参加民主主義=納得できる政治参加・・・利権・腐敗をなくし、一人ひとりの元気と幸せのためのプロセスを!
4.非暴力/平和=誰にも殺されたくない、殺したくない・・・戦争に至らない仕組みを提案し実現する!
5.持続可能性=脱石油、脱原発、脱ダム・・・子どもたちの未来と自然環境を食いつぶすシステムから脱却を!
6.多様性の尊重=私の知らない苦しみや悩みがある・・・「誰もが幸せになる権利」を尊重する、生きやすく楽しい社会を!
(3)理念実現のための具体策は
「6つの理念」を実現するために以下のような12の具体策を打ち出している。その骨子を紹介する。
1.脱原発(即時全面停止)と再生可能エネルギーへの全面的な転換
すべての原発を廃炉へ、2020年までに再生可能エネルギーを30%に増やし、温室効果ガスを30%削減
2.地域の人々が担う共生経済(地産地消)のすすめ
農林水産業(第1次産業)、加工業(第2次産業)、消費(第3次産業)を、すべての地域で循環させる第6次産業(注)の育成
(注・安原)2011年3月、略称「6次産業化法」(正式名称は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出および地域の農林水産物の利用促進に関する法律」)が施行された。農林漁業者(1次)が地域資源を活用し、生産・加工(2次)、販売(3次)を一体として手掛け、所得増をめざすのが6次産業の基本的な考えである。農林漁業者が同法の認定を受けると、資金、ノウハウなどで支援を受ける。政府は6次産業化事業の年間売上高を10年後に10兆円にする目標を掲げている。
3.食は自給率向上で安心確保
食糧自給率(現在40%)を80%に倍増させ、フードマイレージ(食糧輸入に必要な「重さ×距離」)を3分の1に削減。遺伝子組み換え食糧は輸入・生産禁止
4.すべての人に生存権の保障
月10万円のベーシック・インカム(すべての個人に給付される最低所得保障)の導入。医療、介護、子育て、教育、住まいなどの公共サービスを思い切って拡充
5.雇用の分かち合いでスローライフ
現状では2000時間(サービス残業を含む)を超える年間労働時間を1300時間に短縮し、雇用を分かち合い、自由時間を増やす。男女の均等待遇と最低賃金の引き上げ
6.公正な税負担で社会保障の充実
社会保障充実のために所得税の最高税率を70%に戻し、金融・資産課税の強化と環境税の導入。租税特別措置の全廃。消費税は逆進性をなくして引き上げ
7.シングル社会と多様な家族(説明は略)
8.他文化共生のフェアな社会
移住労働者に日本人と同等の労働条件、定住外国人の地方参政権、アイヌ民族に議席を―などの発想で社会制度を設計し直す
9.誰でも立候補できる選挙制度と小選挙区制の廃止(説明は略)
10.住民自治の徹底と「市民自治法」の制定(同上)
11.共に生きる北東アジア
「軍事同盟」としての日米安保の見直し。アメリカと対等・友好な関係を築き、米軍基地の撤去と防衛予算の大幅な削減へ。北東アジア非核地帯を実現
12.公正と連帯のグローバル社会
国際連帯税・通貨取引税を創設。国際連帯税は環境対策や途上国支援、感染症などのグローバルな課題に取り組む資金を調達。通貨取引税は投機マネーのコントロールが狙い。
(4)既存の政党との違いは? 二大政党による政権交代は?
これまでの政党のビジョンは富の再分配の考え方に違いはあっても、富を生み出す経済成長を前提としている。私たちは、分配の公正とともに持続可能性を重視し、エネルギー政策、環境政策を中心に先駆的、抜本的な政策を推進する。
組織体制は中央集権ではなく、地域や具体的な課題によって集う自立的なグループによる連合を志向する。採決が必要な場合は多数決で決めるが、、メンバーは決定に従わない権利をもち、少数意見は留保され、尊重される。
政権交代は、これまで政官財の癒着を断ち切るなど、一定の効果を挙げる可能性があり、そのことは歓迎すべきことである。しかし現在の二大政党はともに経済成長を追い求め、原発や憲法9条改定への容認論が根強いなど、私たちのめざす社会ビジョンとは異なるところが多い。
既存の政治勢力とも、政策的に共通する部分については連携を図っていく。経済成長至上主義からの脱却を基本にすえて、右か左かではなく未来へ向けて前へ進むべく「新しい政治」をめざす。
<安原の感想> 脱原発と脱経済成長の姿勢堅持を
「緑の党」の発足に期待したいことは多いが、なかでも脱原発(即時全面停止)と脱経済成長の姿勢は堅持して欲しい。この二つを抱き合わせの政策として世に問いかけている政党は日本ではやがて誕生する「緑の党」のほかにはない。日本版「緑の党」のいわば専売特許ともいえる。
ただ問題は脱経済成長が世論にどこまで受け容れられるかである。脱原発は今なお「原子力村」(原発推進複合体)の執拗な抵抗が陰に陽に続いているが、すでに広範な世論は脱原発で足並みを揃えつつある。しかし脱経済成長については楽観できない。なぜなら多くのメディアをはじめ、経済成長期待派が今なお勢力を誇っているからである。
私自身は、どうかといえば、1990年代半ばに脱経済成長派に転じた。「成長至上主義から脱成長主義へ」という見出しで次のように書いている。
貪欲の経済学のキーワードは、経済成長至上主義である。これに対し、地球環境時代の知足の経済学のキーワードは脱成長主義である。
成長至上主義とは、GDP(国内総生産)、GNP(国民総生産)が増えることによってのみ豊かさを保証できるという考え方である。一方、脱成長主義とは、GNPが増えなくても、つまりゼロ成長(経済規模が横ばいに推移)あるいはマイナス成長でも、そこに真の豊かさを見出すことができるという発想である。言い換えれば、環境や生活の質の低下を招きかねない量的成長よりも質の向上をめざす質的発展を重視する発想である。
例えば病人が増えると、GNPも増える。なぜなら病院通いをする人が多くなって、医者や病院の所得収入が増えて、それがGNPを押し上げる要因となるからだ。成長率が高くなったとしても、病人の多い社会が豊かな社会といえるだろうか。(安原和雄著『知足の経済学』・ごま書房・1995年4月刊から)
以上のような脱経済成長のすすめにかかわる拙文を書いてから、すでに20年近い歳月が流れ去った。脱経済成長派も増えつつあるが、多数派の地位を獲得するのはいつの日か。「緑の党」の活躍に期待したい。
初出:安原和雄のブログ「仏教経済塾」(12年2月24日掲載)より許可を得て転載
http://kyasuhara.blog14.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1839:120224〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。