社会現象/老 人 虐 待
- 2012年 2月 24日
- 交流の広場
- 加藤義郎老 人 虐 待
10日ほど前、養護施設のベッドに横たわる女性(73歳)の頬を手で叩く介護福祉士のビデオ映像をテレビで見た。〝高齢者虐待事件〟として3名の容疑者と、神戸市内のその施設の名前も報じられた。ボカシで顔は分らないが被害者が哀れだ。力の衰えた、抵抗もできない老人に、誰も見ていないところで暴力を振るうとは卑怯な奴だな、こいつ ! と強い怒りで頭に血が上った。ビデオに撮られた1名は虐待を認めたが、他の2名は否認しているらしい。
入所後いつからか虐待された被害者が見舞いに訪れた親族に救助を求め、親族が隠しカメラを設置したのだという。カメラをどこに隠したのか、素人とは思えないほど良く撮れた映像で確実な証拠物件となった。そのビデオ映像は1月2日に撮影されたというが、それにしては容疑者逮捕まで日数が掛かりすぎた感もある。しかし親族がビデオで虐待を確認し、直ちに被害者をその施設から退所させ、同時に警察に届け出たものだろうと、この件については一安心したが…。
老人に対する養介護士等による虐待に対しては「高齢者虐待防止法」があり、 厚生労働省で統計を取っているが、それには加害者側を「養介護施設従事者等(96件)」と「養護者によるもの (16,668件)」(平成22年度)とに分けている。介護者による虐待も少なくないが、親族または知人による家庭内での虐待の件数がこれほど多いとは…。厚労省では虐待数や加害の動機なども調べて統計に示しているが、それを考察し対処方法を見付けるのは本稿の目的ではない。
冒頭の事件で被害者となった高齢者(と言っても私より1歳だけ上)の受けた恐怖と悔しさを思うと、どうにもやりきれない。子どもの「いじめ」に対しても同様な感情を抱く。「やられたらやり返せ ! 」と叱咤したという親の自慢話も聞くが、これが老齢者で、気力体力衰えては何も出来ない。虐待する者がいる限り、それを受け続けるしかなかった件の73歳の女性は、生き地獄の中から親族に救いを求める事ができて良かった。しかし他方、近所のNさんから3年ほど前、「隣の区に住む高齢の叔母が施設で虐待されているらしい。警察に幾度も話したが動いてくれない」と相談されたことがあった。
Nさんの叔母は身寄りがない。民生委員の世話で施設に入ったが、定期的に見舞いに行くNさんに、待遇に不満があることや貯金通帳と実印を民生委員に預けていると話していた。次に叔母の施設に行った時、その施設の同系列の病院に入っていると言われた。三浦半島にあるその病院にNさんが見舞いに行くと、診察するでもないのに医師と看護婦が叔母の傍にいて、叔母はおびえた風に「足を骨折して…」と言った他には何も話そうとしなかった。そこでNさんは弁護士に相談したいと思い、彼女の弟の地方公務員にこれまでの経緯を時系列にまとめさせた。わたしはNさんと一緒に弁護士事務所に行った。
Nさんが民生委員を疑っていると知った弁護士は、「自分の妹も民生委員をやっているが、この仕事は人格のすぐれた者しかできないのだ」と怒り、それ以上Nさんの話を聞こうとしなかった。幾日か経ってNさんは、兎に角こうなったら叔母を退院させて家に連れてこようと決心し、「明日迎えに行く」と病院に電話した。次の日、三浦半島のその病院に行くと、叔母は「今朝亡くなりました」と受付で言われ、呆然となった。火葬は手早く済まされ、Nさんは叔母の死に顔も拝めなかったと悔やんだ。その後、道で会うと「叔母は病院で殺された」と悔しがるが、それを証明する証拠がないので、なんとも仕方がない。
(2012.2.23)
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