食品衛生審議会の新規制値を巡る問題
- 2012年 2月 26日
- 交流の広場
- 新規制値諸留能興食品衛生審議会
今月2月24日に、食品中の放射性物質セシウム(Cs)に関する厚生労働省薬事・食品衛生審議会が新規制値案が了承されました。これが小宮山洋子厚労相に答申され、今年春の4月1日から放射能汚染食品の新基準原則として適用され、一部施行されようとしています。
従来の、暫定値及び今回の新規制値の対象一覧表は以下のURLを参照下さい。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/dl/120117-1-03-01.pdf
この、放射能汚染食品の新基準の内容を、以下、箇条書きで列挙すると、
○放射性セシウム(Cs)を基本とする
○コメ等の穀類や肉、魚、野菜、粉末茶や抹茶等の一般食品 : 100ベクレル/Kg【←500】
○粉ミルクやベビーフード(粉ミルクやベビーフード)などの「乳児用食品(菓子や飲料【新設項目】)」と「牛乳(低脂肪乳や加工乳も含む)」 : 50ベクレル/Kg【←200(暫定値。以下同様)】
○飲料水及び飲用茶(茶葉をお湯に入れた飲む状態で検査されたお茶) : 10ベクレル/Kg【←200】
○内部被ばくの上限を、現行暫定値の5ミリシーベルト(mSv)/年から国際基準の1ミリシーベルト(mSv)/年に引き下げ、より少ない被曝量の基準値へと厳しく計算し直された。
[◆註:1]荒茶で100ベクレル(Bq)/Kg以下が農家、問屋の目安となるであろう。
[◆註:2]今回の改定かた、粉ミルクなど、「乳児用食品」の分類が新設された。
[◆註:3]この厚生労働省の新規制値案に対し、文部科学省放射性審議会が「必要以上に厳しい」と異例の注文が付けられた。農林水山産業側からの抗議が背景に有ると思われる。
[◆註:4]新規制値案に見合った検査体制の整備充実が不可欠
[◆註:5]コメや牛肉等一部食品を除き2012[H24]年4月1日から出荷停止の目安となる
[◆註:6]欧州と比べ、飲料水で100倍。一般食品で10倍の厳しさである、と厚労省は自賛している。
[◆註:7]コメと大豆・牛肉の品目の場合は「経過措置」が設定せれた。コメと大豆は2011[H23]年産には改定前の暫定基準値を適用。H24年産の収穫、流通時期を踏まえコメはH24年10月1日以降から、大豆はH25年1月1日以降から新基準値を適用。牛肉はH24年10月1日から、加工食品はH24年4月1日以降に製造、加工されたものから適用される見込み。
米コメや大豆、牛肉等一部食品に経過措置が設けられた理由は、 コメや大豆は収穫が年1回で、牛肉はいったん冷凍保存後に出荷する等の事情からの配慮からか!
[◆註:8]乾燥シイタケやワカメなど(水戻しを行う食品)は、原材料の状態と水戻しを行った状態で一般食品として検査する。
[◆註:9]煮干し、干しブドウなど、乾燥させたものをそのまま食べる食品は、乾燥加工された状態で、一般食品として検査する。
[◆註:10]暫定基準値に比べ4分の1~20分の1と大幅に厳格化。
[◆註:11]文部科学省放射線審議会も2012[H24]年2月16日「差し支えない」との答申を出す
[◆註:12]品の国際規格を決めるコーデックス委員会の食品基準を踏まえたもの。
[◆註:13]コーデックス委員会 : 消費者の健康保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAO及びWHOにより設置。国際食品規格の策定等を行う国際的な政府間機関。日本は1966年より加盟。
[◆註:14]参考資料
『朝日新聞』2012[H24]年2月24日(金)夕刊
産経新聞 2月25日(土)7時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120225-00000088-san-soci
http://www.komei.or.jp/news/detail/20120225_7405
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco&rel=j7&k=2012022400043
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20120225/CK2012022502000139.html
以上を踏まえ、食品の放射能汚染測定に関する、問題点を列挙する。
【問題点】
(その1)
今回新設された乳児用食品(菓子や飲料など。10ベクレル(Bq)/Kg)を使用して離乳食を作る場合より、一般食品(100ベクレル(Bq)/Kg)を使って離乳食を作る家庭の方が圧倒的に多い。従って、乳児用食品の基準値を一般食品の基準値より、より厳しく設定しても「尻抜け」する危険性が大きい。
(その2)
この疑問に対し、厚労省は「一般食品も乳児にとって十分に安全な数値で設定している」「乳児は体が小さく食事量そのものが非常に少ない」「一般食品を食べさせても安全は十分確保される」と説明している。
今回の改定基準では、食品中の規制の対象とする核種放射性物質(核種)を、福島原発事故により放出した放射性核種のうち、原子力安全・保安院が放出量の試算値リストに掲載した核種で、半減期1年以上の放射性核種全体
【セシウム(Cs-134)、セシウム(Cs-137)、ストロンチウム(Sr-90)、プルトニウム(Pu)、ルテニウム(Ru-106) の5種類】
としていながら、実際の測定では、これら5種類の核種のうち、セシウム(Cs)だけを検出対象とし、セシウム(Cs)以外の他の放射性物質は検査対象になっていない点も問題。
(その3)
仮に、基準値上限の食品を一定割合(飲料水、乳児用食品、牛乳、コメは汚染割合を100%、一般食品の汚染割合を50%と仮定する場合)で1年間食べ続けた場合の被ばく量は、厚労省の試算では最大で0.94ミリシーベルト(mSv)/年と推計。更に、基準値上限の食品を食べ続ける状況は考えずらく、実際の被曝線量はもっと小さくなると推定している。
しかし、ここでも、食品など経口摂食を通じて体内に摂取される放射性汚染物質だけに注目しているだけで、呼吸器経由での大気中の放射線汚染物質の気管経由摂取や皮膚や肌経由で浸透、体内摂取する場合も全く無視している点も問題である。
(その4)
厚労省は昨秋、東京、宮城、福島の1都2県で購入した食品放射性物質を測定し、平均的食生活を行った場合の年間被曝量の推計では、放射性セシウム(Cs)被曝は
▽東京0.0026ミリシーベルト(mSv)/年
▽宮城0.0178ミリシーベルト(mSv)/年
▽福島0.0193ミリシーベルト(mSv)/年
であるのに対し、食品に元来含まれる自然放射性カリウムの被曝が
▽東京0.1786ミリシーベルト(mSv)/年
▽宮城0.2083ミリシーベルト(mSv)/年
▽福島0.1896ミリシーベルト(mSv)/年
と、セシウム(Cs)よりカリウム被曝が多い、と指摘することで、平均的食生活での年間被曝量の方が少ないから「問題なし」と断定している。
しかし、個別家庭や個人的にも食べる分量や種類には個人的バラツキが大きいから、「平均」を取って推定することには無理がある。更に、食品の放射性物質の測定方法にも大きな疑問がある。厚労省の測定方法では、例えば鮮魚の場合、頭と鰓部、尻尾を切り捨て、内臓も除去した後の魚の肉部だけを測定対象としているが、一般家庭でも、それらを全く食べないということは、有り得ない。
直接食べることはなくても、煮出し汁などの具材として、それらを調理に使用することも珍しくない。鮮魚一匹丸ごと計測対象とするか、肉部だけを計測対象とするかでは、測定値は大きく変わってくる。
(その5)
移行濃度や線量係数をどのような値の「定数」に設定するかについても、食物連鎖など自然界や人体のおける、生態学的、生理学的状況や分布を、どう理解するかでも、科学的見解として必ずしも統一されているわけでない。ベクレル(Bq)/KgをSv(シーベルト)/hに換算する計算式も、明確に定まっている訳ではない。
(その6)
放射線検出器には、ほとんどの場合、「ゲルマニウム半導体検出器」と、簡易型の「NaI(沃化ナトリウム)シンチレーション・スペクトロメータ」が使われている。
「ゲルマニウム半導体検出器」の方が、より精密でより確かな測定結果を得られやすいが、800万円以上と、非常に高額であるため、企業や自治体などを除く、個人や一般市民の少数グループで、この「ゲルマニウム半導体検出器」を購入使用することは、費用的にも実際問題として、無理である。
そのため、価格も150万円~200万円と、比較的安価で、置き場所や計測操作方法もより簡単な、簡易型の「NaI(沃化ナトリウム)シンチレーション・スペクトロメータ」を使う場合が多い。
しかし、今回2月のの放射線汚染基準値の改定勧告で、4月から基準値がより厳しく改定されることとなった。そのため、計測には、暫定基準値の時のような短時間(20~30分程)の測定時間では検出は困難になりそうです。更にもっと長時間(2~3時間)をかけて計測することが必要となった。
自治体が検査機器を購入する際には、厚労省が購入費用の一部補助することを決定した。しかし、自治体に頼らず、独自に計測を広めようとする市民で、改定前の暫定的基準値の時に簡易型測定機を既に購入した市民(個人や団体や企業)の場合、計測に工夫と注意を払って、より効率の良い、より確かな測定結果を得られるように、検査計画・体制の見直しすることを余儀なくされている。
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