イラク戦争を忘れられた戦争にしてはならない(3)(4)
- 2012年 3月 9日
- 評論・紹介・意見
- 三上 治
イラク戦争を忘れられた戦争にしてはならない(3)
アメリカのイラク侵攻時に掲げた「イラク自由化」「中近東自由化」という政治理念が一面であり政治経済的理由が詮索されたのは当然であった。これはイラクや中近東の石油支配であると言われた。アメリカがイラクに仕掛ける戦争の政治経済的な理由としてはそれしか見当たらなかったというべきである。ただ、この場合にアメリカがかつての帝国主義的な領土支配による石油《資源》支配を目指したのでないことは留意して置く必要がある。アメリカがイラクで目指したのは資源としての石油の直接支配ではなく金融商品化された石油市場の支配維持である。この点は1990年代後半のアメリカの金融帝国化と関連する。
それならば何故にイラクのフセイン大統領はアメリカに狙われたのであろうか。それはフセインが石油の決済をドルからユーロに切り替えると発言しそれを画策したからである。ユーロは1999年に決済用仮想通貨として導入され、2002年に正式に通貨として誕生した。これはアメリカのドルに対抗する第二の基軸通貨といわれた。当時は国連管理下におかれていたイラクの石油の決済であるが、この決済の通貨をドルからユーロに替えることはアメリカにとって許し難いものだった。これはドルが石油市場での支配力を失うことにつながるし、またドルの基軸通貨としての力を失うことを意味したからである。1990年代後半以降にアメリカは第二次産業経済(製造業)での衰退を金融経済《金融立国、あるいは金融帝国化》乗り切ることを加速させていた。ドル基軸通貨の基盤は第二次経済産業でのアメリカの衰退で必然化したが、これに対して経済の金融化で対応しようとしたのである。軍事力とドル基軸通貨がその場合いの要であった。僕はアメリカのイラク戦争が半分はドイツや日本に向けられたものであると書いた。ドイツというのはユーロ圏という意味でもいいし、日本とはドル離れとアジア接近をはかろうとする部分に対してという意味でいいのだ。アメリカはイラクに侵攻してフセインの動きを封じ込めるとともにヨーロッパや日本でのドル離れを封じ込めようしたのである。アメリカイラクに対する侵攻はアメリカが冷戦体制崩壊後の地域紛争とテロの発生を組み込んだ戦略とともに金融経済を軸にする経済的支配力の再編の戦略に基づくものであった。アメリカは世界の護衛官であるとともに、世界の経済的発展を牽引するというのが理念だった。冷戦体制後の地域紛争も含めた政治的な再編、高度経済成長を経てきた諸国の経済的停滞の中でのアメリカの戦略的再編に基づく行動といえた。イラク戦争とアメリカ金融投機経済の破綻はこの帰結であり結果を示した。
イラク戦争を忘れられた戦争にしてはならない(4)
イラク戦争で記憶に残ることしてブッシュ大統領がイラク戦争後の統治として日本やドイツを例にしたことがある。これは敗戦後に日本やドイツがファシズム体制から「民主的体制」になったことを言ったのかもしれないが、無意識まで含めれば戦後のアメリカ支配が続いている統治ということも含んでいるように思えた。アメリカの戦後の対日支配の巧妙なやり方を考えるとそこまで想像力を働かせて見るべき発言で、これに誰も屈辱を感じなかったのは変だった。
アメリカはイラク戦争を冷戦後の世界支配戦略に基づいて展開したのであり、これは地域紛争やテロを含めた軍事戦略であると同時に、金融経済による経済支配という政治経済戦略の展開だった。これらはイラク戦争の勝利なき終結や金融経済投機《バブル》となって帰結し、政治的にはオバマの登場となった。だが、オバマはチェンジの期待にもかかわらず、ブッシュ路線を転換できなく少しの修正をほどこしながら踏襲している。そこに矛盾を深めるだけでアメリ危機からの脱却が見えない根拠でもある。そしてブッシュ路線を受け入れたそれで自国の再編も行ってきた日本やEU諸国の危機もある。ユーロの危機はアメリカの金融帝国化を受け入れてきた結果である。また、これらの諸国での政治的な不透明さの原因になっている。小泉―安倍路線といわれた時期の政治が形を変えつつ踏襲されているところに日本の現在の政治経済的な不透明さがある。民主党の政権交代後の混迷と小泉―安倍路線への回帰はそれを現わしている。オバマ政権は確かにブッシュ政権の政治経済戦略を修正はしている。アジア支配に世界支配の戦略を変えたこと、実体経済の再生で金融経済立国化を緩めている。だが、この修正は転換ではない。ブッシュの戦略は踏まえられているのであり矛盾の解決にはならないのである。これは日米関係でいえば日米同盟論の上に対中国戦略強化が加わっただけであるのだ。アメリカのアジア支配には中国包囲の強化があり、中国のドル離れの阻止がより戦略化されてある。かつては円のドル離れを阻止することが課題であったが、その軸が元のドル離れ阻止に移ったのである。アメリカは日中の接近によるドル離れを警戒することに変わりはないが、その場合の軸は移っている。日本は小泉―安倍時代に強めたアメリカ追随を踏襲していて、日米関係の見直しという民主党政権交代時の政策は反故にされている。円高対策に金融緩和策しか打ち出せず、根本的な円高問題の解決策はない。大震災にもかかわらず、産業構造の転換を含めた復興政策を提起しえてはいない。イラク戦争と日本政治の検証が今、必要だ。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0794 :120305〕
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