大惨事を偶然回避した4号炉‥‥その3
- 2012年 3月 17日
- 交流の広場
- 原発事故諸留能興
前回に続き、『朝日新聞』2012[H24]年3月8日(木)朝刊第一面記事
http://digital.asahi.com/articles/TKY201203070856.html
「危機一髪で大惨事を回避した福島第一原発4号炉」
で起こったことの、続き(その3)です。
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【 2 】偶然に重なった2つの幸運のおかげで4号炉使用済み核燃料プールの大爆発、大惨事には至らなかった!それは、全くの幸運でしかなかった!!
前回の【第一の幸運】に続き、もうひとつ、偶然の上に、更に重なった偶然を、確認します!
【 2の2 第二の幸運! 】
前回述べた「第一の幸運」とは全く別に、
更にもう一つの「第二の幸運」も、
たまたま、同時に重なったのもラッキーでした!
前回説明したように、「原子炉ウェル(well)」と、
「使用済み核燃料用プール」の両方に、水が満たされていたのですが、
この両者の間には、それを仕切る形で、
「仕切り壁」という可動式の「壁(衝立のようなもの)」があります。
この「仕切り壁」が(おそらくその下端部であったろうと想像されますが)、
水圧で外れるか、
あるいは、破壊や亀裂などの損傷の可能性もあるが、
予想もしなかった、偶然の事故も、
たまたま、「空焚き状態のその時にタイミングを合わせるかのように」
発生したのです!
この「仕切壁」の下端部の「外れ」は、
炉心上部の「原子炉ウェル」のプールのある方向から、
「使用済み核燃料用プール」のある方向へと向かう形で
損傷(破壊または亀裂、隙間が発生する)という形で「外れ」ました。
何故、「原子炉ウェル(well)」から
「使用済み核燃料用プール」の方向に向かって
「仕切り壁」が「外れた」のか?
以下が、考えられるその原因です。
【仕切り壁が外れた原因 その1】
地震の振動で仕切り壁が壊れるか、
あるいは、仕切り板を固定していたボルト類に
「緩み」が発生したのかも?
【仕切り壁が外れた原因 その2】
3月15日の4号機の火災に伴って生じた爆発の際の衝撃
(爆風や3号炉の機材の破片などの衝突かも?)で、
「原子炉ウェル」と「使用済み核燃料用プール」の間の
「仕切り板」が壊れたのかも?
【仕切り壁が外れた原因 その3】
定期検査(定検)開始に伴って
「原子炉ウェル」に水を満たす際の「仕切り板」設置の際に、
現場作業員の単純作業ミスで、
キチンと仕切り板を閉鎖しなかった可能性も考えられる。
閉鎖したとしても不十分な閉鎖に留まったためかもしれない。
高濃度汚染した、高温の巨大な物体を、水中で移動したり、
開閉する作業は、限られた時間内で迅速に処理しなければならない
過酷な作業であることからも、これは十分あり得ることだ。
【仕切り壁が外れた原因 その4】
「DSピット部」と「原子炉ウェル」の2つの空間に
合計で1440立方メートル(1440トン)もの
大量の水で、たまたま(設計上のミスの影響で)満たされていました。
「仕切り板」の隣の「使用済み核燃料プール」が、
通常なら水で満たされておらねばならない筈なのに、
それがカラッポ状態だったため、
「仕切り板」を境として、
その水圧で「原子炉ウェル」側から「使用済み核燃料プール」側へと向かう
強烈な「水圧の差」が生じました。
この「原子炉ウェル」側から「使用済み核燃料プール」側の方向へと働いた
「強烈な水圧」が加わったことで、
「仕切り板」の底部の破壊されたか、
あるいは破壊までは至らなかったとしても、
隙間やズレや歪みが発生したか・・・の、
いずれかが発生したことも、十分予想できます。
水深が深くなるほど水圧は大きくなることを考えれば、
恐らく水圧の一番大きく加わる「仕切り板の底部」、
プールの底に近い部分の「仕切り板」が破壊された模様。
【仕切り壁が外れた原因 その5】
あるいは、以上の原因【1】~【4】のそれぞれの原因が幾つか複合したことも、考えられる。
いずれにせも、「仕切り板の破壊(ズレ?あるいは歪み?)」の原因の確認は、
最終的には、使用済み燃料を搬出し終えた後の、
現場検証で、より真実が分かってくるであろう。
今後も、東電や政府の報告でも注目しなければならないポイントのひとつである。
ちなみに、私(諸留)は、
この【第二の幸運】の「仕切り壁が外れた原因」は
【 その4 】が、真相だろうと思っている。
そう判断する理由は、
「原子炉ウェル」側から「使用済み核燃料プール」側の方向へと
力が加わることは、原子炉の設計思想や、
定期検査(定検)時の「仕切り板」の操作上からも、
「起こりえないこと」として理解され、
設計されているからです。
なぜかというと、福島第一原発4号炉に限らず、
他の原子炉でも、全て「使用済み核燃料プール」には、
使用済みの核燃料棒が、常時保管されている場合が、ほとんどです。
青森県六ヶ所村での再処理工場での保管場所が、
ほぼ満杯に近い状態に達している為、
全国各地の原発の「使用済み核燃料プール」も、
使用済み核燃料が貯まっている状態が、
24時間、日常化している。
そんなわけで、「使用済み核燃料プール」には、
常時、使用済み核燃料が格納されているわけです。
高濃度放射能を放射し、被曝する危険から防御するため、
「使用済み核燃料プール」も、常時満水状態にしておくことが、
前提となっている。
事実、福島第一原4号炉の場合も、
「使用済み核燃料プール」の内には、
1535本(原子炉2基分相当)もの
使用済み核燃料が保管されていた。
出力の違いや、原子炉の型の違いなどで、本数は異なってくるが、
一般的には出力が100万キロワット前後の原子炉1基で、
通常は約400体~800体ほどの、
「燃料集合体」が原子炉内に装荷される。
「原子炉ウェル」と「DSピット部」との間には、
「仕切り板」はありませんから、両者の水深は、
「使用済み核燃料用プール」よりは浅いのです。
しかし、そこに蓄えられる水の量は相当の量となる。
それは、以下の東京電力の「DSピットの説明図」
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110620_02-j.pdf
の図を見ることでも確認できる。
水は「流体」ですから、
その水を蓄えている容器の内壁面に一様の圧力が加わります。
水深が浅くても、蓄えられている水の量が大きい(水の表面積が広い)ほど、
容器の内壁面に加わる圧力も大きくなる。
「DSピット」および「原子炉ウェル」に満たされている
大量の水(約1500トン)が、事故当日の3月11日に、
たまたまの「偶然で」蓄えられていたことは、
前回既に、指摘した。
これに対し、「使用済み核燃料プール」の方は、
様々な原因から震災直後から「空焚き状態」となって、
文字通りプール内は、
ほどんど水の無い「カラッポ」状態になっていた。
普段は、使用済み核燃料が格納されている「使用済み燃料プール」は、
常時水で満たされている「満水状態」にある。
それに対し、「原子炉ウェル」や「機器貯蔵プール(DSP)」は、
定期点検や作業時など、一時的にしか利用されず、
その一時的な時だけ水で満たされる。
それ以外は、通常は、原子炉稼働中の普段は「カラッポ」状態となる。
このため、水圧は隔離板を隔てて、
「使用済み燃料プール側」から「原子炉ウェル」側へと、
常に働くことになる。それ故隔離板は、
特に隔離板の深い位置ほど(つまり隔離板の下部の方に)、
より大きな水圧が加わることになる。
この隔離板は、プールの上部の移動式クレーンを使って、
上下方向に引き上げたり、釣り下げたりして
開閉する仕組みになっているのであろう。
原子炉ウエルや使用済み核燃料保存プールの
限られた狭いスペースでは、隔離板を水平方向に
(戸障子式に)水平に開け閉めしたり、
ドアのように90度回転させたりするよりは、
上下方向にクレーンで仕切り板を上げ下げするほうが、便利だから!
今回の4号機建屋の爆発崩壊で、
そのクレーンも「使用済み核燃料プール」に落下していることが、
ヘリコプター飛行から観察されている!
本来なら「DSピット」および「原子炉ウェル」の両方の空間がカラッポ状態でも、
「使用済み核燃料プール」がカラッポ状態になることは、
原子炉設計上からも、想定されていないのだ。
まして、「DSピット」および「原子炉ウェル」の両方の空間に
水が大量に満たされた状態の時に、
「使用済み核燃料プール」がカラッポ状態になるなどという「異常事態」は、
設計段階でも考えられていないのだろう。
両者を仕切る「仕切り板」の耐圧強度も、
常時満水状態になっている筈の「使用済み核燃料プール」方向から
「DSピット」および「原子炉ウェル」方向へと向かって働く圧力には
強固に設計されていても、
その逆、つまり、「DSピット」および「原子炉ウェル」側から
「使用済み核燃料プール」の方向へと向かって働く圧力には、
十分耐えるような設計になっていなかった可能性が十分考えられる。
その証拠に、先に前掲の、東京電力の「DSピットの説明図」
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110620_02-j.pdf
の図の、とくに「原子炉ウエルWELL」と
「使用済み核燃料プールSFP」の境界にある「仕切り板の下部」を、
もう一度見て下さい。
「仕切り板」の下部を支える「出っ張り(溝)」が、
明らかに「原子炉ウエルWELL」側では無いか(あっても浅い高さ)で、
逆に、「原子炉ウエルWELL」側のそれが、
高い溝の構造になっているのが分かる。
これはあくまで略図だから、軽々しくは断言は出来ないが、
他の原子炉の「使用済み核燃料プール」の仕切り板でも、
似たり寄ったりの構造であることは、ほぼ、間違いあるまい。
これは、水圧が「使用済み核燃料プール」側から
「原子炉ウエルWELL」側へと働くことを考慮した、
設計思想に基づいた設計構造になっていることを、物語っている。
この仕切り板を、定期検査(定検)の際に、
どのようにして仕切り、仕切った後、
どのように、しっかり固定させるのかまでの詳細な工程は、
今の私(諸留)には分からない。
少なくとも、 「原子炉ウエルWELL」側に水を貯めたり、
カラッポにさせたりして、
頻繁に仕切り板を開閉させる
(おそらく上からクレーンで釣り下げ、釣り下ろす作業だろう)
必要上から、この「仕切り板」を閉鎖した後の、
最終的な「締め作業」は、
それほど強固な「締め」ではないことは、容易に想像できる。
高濃度放射能汚染している「仕切り板」からの、
無用の被曝(ひばく)を避けるための短時間の作業とならざるを得ないし、
それも、水中での開閉や「(ボルトなどの)締め付け」作業であること、を合わせ考えると、
「仕切り板」採取的「締め付け・密閉作業」が
不完全な作業を続けてきていた可能性は、十分予想できる。
不完全であっても、水が「原子炉ウエル」と「使用済み核燃料プール」の両者の間を、
たとえ漏れ流れ伝わることが発生しても、
「水がある限り、どっちみち、大した問題ではない」
と、東京電力も現場作業員も考えていたとしても、おかしくはない。
上記の東京電力の2011年6月20日の
「1F4原子炉ウェルおよび機器貯蔵プールへの注水につて」
の説明図に続く下段の
「使用済み燃料プールの事故後(注水開始前)」の水位の動向」の図
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110620_02-j.pdf
の(3)シール減圧→ウェルからプールへ水流入、の図でも、
「仕切り板」下部に「青矢印」で、
「使用済み核燃料プール」側への「流入事故」の図が掲載されている!
例によって、東京電力は、この「突発事故」の原因は一切述べていないし、
「仕切り板」の外れも、それを「事故」とは一切言っていない!
東京電力の「事故隠し」「隠蔽主義体質」は、事故後も全く変わっていない!
大震災発生4日経過した後の、3月15日午前に
4号機の原子炉建屋で水素爆発
(あるいは再臨会による小規模の核爆発の疑いも、現時点では、完全に否定できない)が
発生した時以降から、急速に「使用済み核燃料プール」が「空焚き」状態となったことで、
「使用済み核燃料プール」側から仕切り板に加わっていた圧力も急激に低下した。
それに対し、逆に、
「原子炉ウエル」側から「使用済み核燃料プール」側に加わる
大きな水圧が加わっていたため、仕切り板を境にして、
両者の側での仕切り板に加わる圧力に、
著しい違いが発生することとなった。
こうした圧力容器の相違は、
「使用済み核燃料プール」の設計上では、
最初から想定されていなかった筈であることは、
今までの記述から分かるだろう。
その結果、「仕切り板」の下部付近を中心として破壊
(あるいは損傷・歪み・亀裂・隙間発生など)の異常事態が生じた。
そしてその亀裂(損傷・隙間)から、約1万トンもの大量の水が、
一気に「使用済み核燃料プール」内へと流れ落ちことが、
今回の報道から分かった。
さらに、3月20日からは、これに加えて、
外部からの放水(あの象の鼻のクレーン式のホース使用)で、
「使用済み核燃料プール」内に、
更に追加の冷却水注入も加わったこともあって、
「使用済み核燃料プール」内の核燃料の溶融を、
かろうじてくい止めた!という結果となった。
もし、この「仕切り板」の破壊(損傷)という
【偶然な出来事】が起こらず、
「原子炉ウエル」側から「使用済み核燃料プール」への
水の大量流れ込みが生ぜず、
「象の鼻」による放水注水追加の始まった4日後まで、
冷却水の追加が間に合わなかったら、
「使用済み核燃料プール」内の使用済み核燃料棒の露出、溶融が始まっていた筈!
事実、東京電力も、
冷却水がたっぷり入っていたとしても、
追加注水による冷却が行われない場合は、
3月下旬には、使用済み核燃料棒の露出が始まると計算していた。
カラッポ状態の「使用済み核燃料用プール」内へと、
工期予定では3・11日当日には、存在する筈のなかった
「原子炉ウエル」側の大量の水が、一気に流れ落ちたことで、
使用済み核燃料の冷却日数を伸ばし、
「象の鼻」による追加給水へと、繋ぐことが、たまたま出来たのだ。
それが結果的に、溶融・大爆発を防いだのだ。
しかし、以上は、東京電力側の調査だけで解ったことである。
本当に事実がその通りだったか?そうでなかったのか?
その、最終確認は、まだ誰も出来てていない。
3月15日の4号機の火災に伴う爆発の衝撃が原因で
「仕切り板」が壊れた、というのも、
現在までの仮説
(考えられ得る幾つかのケースの一つかもしれない)という程度でしかない。
「使用済み核燃料プール」の損傷で、
その中の冷却水が急速に減り、
核燃料が露出・過熱していたら、
圧力容器も格納容器も全く無い、
「丸裸状態」であるから、
大量の放射線と放射性物質が環境中に放出されていただろうということは、断言できる。
もし、そうなっていたら、人は誰も近づけなくなり、
福島第一原発の全原子炉のみならず、
福島第二など、近くの原発も次々と放棄せざるを得なくなっていただろう。
ナガサキ・ヒロシマに撒き散らされた放射能の2000倍もの大量の放射性物質が
首都圏はおろか、日本列島の大半に撒き散らされていても、
当たり前だったのだから!
そうなっていたら福島県どころか、
首都圏住民もふくむ膨大な数の人が避難対象になるという、
最悪の事態に至っていたことは確かだ。
【参考までに】
いわゆる「応力腐食割れによる漏洩」について
原子力発電推進者は、
「シュラウド」の素材のオーステナイトステンレス鋼は、
応力腐食割れを起こし易い性質を持っていることは認めつつも、
仮に「シュラウド」の一部から割れが貫通してしまったような場合でも
(A)通常運転中、原子炉圧力容器が内圧を保持しているので、
原子炉冷却水を外部に漏らす心配はない。
(B)シュラウドを通しての漏洩は内外の圧力差が僅かな上、
燃料チャンネルの外側にはバイパス流を流しているから全く問題はない。
(C)非常用炉心冷却系が作動するような非常時でも、
水を貯めるだけのシュラウドの内外差圧は殆ど無く、
たとえ漏洩しても、漏洩量は非常用炉心冷却系からの供給量と比べ
極僅かなので問題はない。
・・・・
などと説明している。
http://www.engy-sqr.com/kaisetu/topics/shroud.htm
しかし、例え僅かでも漏水があったばあい、そ
れが超高温に触れた場合、
水蒸気爆発を引き起こさないという保証は無い。
今回の4号炉の「使用済み核燃料プール」の場合のように、
「設計思想上想定外」の出来事の、それも偶然の積み重ねによって、
起こる筈がないと考えられていた現状が、起きることも考慮すれば、
「漏洩量は非常用炉心冷却系からの供給量と比べ極僅かなので問題はない」
とする考えも、
「使用済み核燃料プール」内の水がカラッポになるようなことは有り得ないから、
仕切り板の閉鎖が多少不完全でも、問題は無い!」とする考えと
全く同じレベルの、粗雑な
「安全軽視論」でしかないことが分かるだろう!
「安全である」ということは、
個々の部品や品質管理や現場の
組み立て作業段階だけの精度(や安全)確保・向上だけで、
済む話ではない。
「これなら安全だ!」と思う、
まさにその「安全(設計)思想」そのもの故に、
逆に、その安全思想が仇となって、
危険を誘因の原因へ転化してしまう例は、
世間には枚挙に暇ないほどある。
今回の福島第一原発4号機の
「使用済み核燃料プール」事故では、図面設計上の単純ミス、
現場作業上での、ソロバン勘定最優先の手抜き・おろそか作業、
「これくらいの僅かなトラブルなら、かえって安全度を高める方向に寄与するから・・」といった、
安易な安全論などなど・・・が総合した結果であった。
そうした様々な要因と偶然の積み重ねによって、
99・9999%、確実に惨事となる筈だったのが、
たまたまそうならなかっただけ・・・の偶然の「いたずら」の結果であった。
「我が国の科学技術の高度さ、確かさ、その優秀さ故に、
この程度の規模の事故で済んだのだ!
我が国の科学技術水準の世界的高さは健在であり、確かなものだ!」
という、田原総一朗氏のような、科学技術論が、
いかに愚かな間違ったものでしかなく、
「科学技術信仰論」でしかないことを、思い知るべきである。
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では、現在の福島第2原発4号炉の、
核燃料プールの危険性は全く無いのか?以前として危険なのか?
それについては、次回に詳述する。
*****転送/転載/拡散歓迎*****
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