参院選・民主党敗北と政治不信 メディアの報道姿勢も検証
- 2010年 7月 31日
- 時代をみる
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鳩山由紀夫首相退陣から約一カ月半、菅直人新首相は第22回参議院選挙(7月11日)で起死回生の勝負を挑んだが、予想外の敗北を喫してしまった。民主党は昨年夏の衆院選挙で圧勝し自民党から政権を奪取したものの、拙劣な政治手法によって政局は大混乱、政治不信を増幅させただけでなく、国際的信用失墜をもたらした責任は重い。この際、民主党は国民の厳しい審判を謙虚に反省し、政治姿勢を建て直さないと、社会の混迷が続き、閉塞感は募るばかりだろう。
「日本はあまりにも一党支配が長く続いたため、国民は政治的にとても消極的になり、改革意欲を失っているようにみえる。…対外的にみて、存在感や信用など国として大事なものを失っているのは確かだ。しかし、日本人が失った最大なものは国民の生活水準と国民の安全であり、何よりも日本人自身の希望だ。強力なリーダーがいないと、経済成長を回復する政策が立てられず、生活水準が下がっていく。かといって、改革にはジレンマがあるから、なかなか強力なリーダーが出現しない。日本はこうした悪循環に陥っており、この移行期を脱する兆しはまだ見えていない」と、米国の日米関係研究者、リチャード・カッツ氏が指摘(月刊誌『選択』7月号)していたが、〝混迷・日本〟の姿を見事に捉えた視点に感服した。この警告を踏まえ、参院選の総括とメディア報道の問題点を探ってみたい。
「消費税」だけで、「普天間」を争点にせず
09年総選挙と10年参院選挙での「民主党vs自民党」の獲得議席を比較して、わずか十カ月後の〝民意〟激変に驚く。この逆転現象を引き起こした選挙結果は、先行き不安な国民感情を反映したと言えようが、政治の混迷がさらに深まらないか、気懸かりになってきた。
昨年の総選挙開票時の議席数は民主308(選挙前115)、自民119(同300)の大逆転で民主党が政権を奪取した。ところが、今回の参院選挙での獲得議席は民主44(選挙前54)、自民51(同38)と、自民が巻き返した。非改選を加えての議席は民主106、自民84だが、国民新党を含めた与党の議席が過半数を割り込み、再び〝衆参ねじれ現象〟となった。各メディアが選挙分析を行っているので、気懸かりな問題点に絞って指摘しておく。
政治資金疑惑、普天間基地移設、消費税増税問題が、民主党敗北の要因と総括できるが、最大の争点が消費税となり、「政治とカネ」「普天間の米海兵隊グアム移転」の論議が埋没した印象が強い。沖縄県紙など一部メディアを除いて、「消費税」に的を絞り過ぎた報道が気になった。野党はそろって〝民主党攻撃〟に終始、メディアも政治的駆け引きを報じるだけで、〝消費税の本質〟を考えさせる材料を有権者に提供しなかったように思う。このため、単純な〝増税反対→菅政権批判〟の世論が形成された気がする。もちろん、菅首相の唐突な発言が混乱の元凶だが、「消費税10%」を同様に主張していた自民党が矢面に立たず、結果的に議席を回復した経緯は摩訶不思議だ。
これと同様なことは「普天間問題」にも当てはまる。鳩山前首相が就任早々、「普天間基地移設を含む沖縄米軍縮小と日米安保再構築」を提起したことに注目したが、多くのメディアの取り上げ方は、当初から一部を除いて冷ややかだった。岡田克也外相、北沢俊美防衛相の「沖縄県内移設発言」などがあったにせよ、日米関係見直しの本質論に踏み込まず、「米海兵隊の抑止力」を理由に、「辺野古移設」に逆戻りした鳩山氏の豹変にびっくり仰天した。しかし、大多数のメディア(沖縄など一部を除く)は、知日派・米外交評論家や米主要紙の酷評を繰り返し報じ、「日米同盟の危機」との過剰報道に走り、日米安保の将来像や米軍基地縮小に向けての〝本質論〟を避けた感が深い。権力の監視に徹するジャーナリズム精神に照らして、独自の主張も示さず、現状追認(対米従属)的姿勢に流れたとの感想は、思い過ごしだろうか。
沖縄選挙区に候補者を立てなかった民主党
「昨夏の総選挙での鳩山代表による普天間飛行場返還・移設問題での『最低でも県外』との公約が、迷走の果てに反故にされた。 そればかりか元の名護市辺野古沖案に回帰し、日米共同声明まで発表するという暴挙に、県議会での決議を含め猛反発を買った。結果として民主党は今参院選では全国で唯一、沖縄県選挙区での独自候補の擁立を見送らざるを得なかった。その沖縄選挙区では、現職の島尻安伊子氏(自民公認、公明県本支持)が、新人で無所属の山城博治氏(社民、社大推薦)、伊集唯行氏(共産党推薦)ら3候補を破り再選を果たした。最大の争点は普天間問題となるはずだったが、かつて県内移設を容認していた島尻氏も今選挙では『県外移設』を訴え、争点とはならず、知名度と実績で勝る現職が経済・雇用、子育て支援などを訴え支持を集めた。自民党の沖縄での唯一の国会議席を守り当選した島尻氏は今後、普天間問題で『県内移設』を進めてきた自民党内で『県外移設』の公約をどう実現するか。手腕と公約に対する責任を問われる」との指摘(琉球新報7・12社説)は尤もだ。
さらに加えれば、沖縄選挙区の投票率が全国最低の52・44%、比例区で喜納昌吉氏(民主)が落選したのは、沖縄県民が民主党〝背信〟への抗議と推察できる。また、沖縄県内の比例区得票のトップが社民党(22・7%)だったことも付記しておきたい。全国比例区得票トップの民主党は、沖縄では2位、自民党が公明党に次ぐ4位という投票結果に、差沖縄県民の怒りが込められている。
過剰な世論調査報道に惑わされた?
冒頭に引用した米国人学者・カッツ氏は「確かにメディアの報道は偏向していた。まるで倒閣こそが自らの使命と思い込んでいるかのような報道に、国民も易々と躍らされた。例えば普天間問題では、メディアは鳩山由紀夫首相がどれほどこの問題をしくじったかに集中砲火を浴びせたが、一方で米国が同じく普天間問題の扱いにしくじったことは全く注目しなかった。米国はせめて、参院選後まで待てたはずだ。ここにも日本メディアの偏向が表れている」との辛口論評にも注目した。
また五十嵐仁・法政大教授は、7・12付ブログで「有権者の眼の恐ろしさ」を取り上げ、「『世論』は大きく乱高下したが、それは菅首相の消費税発言に、有権者が敏感に反応したからです。このような民意の急激な変化は、例えば、05年総選挙での自民党勝利、07年参院選での自民党敗北、09年総選挙での民主党勝利、10年参院選での民主党敗北というめまぐるしい選挙結果に、如実に示されています。それには、世論調査が容易になったという技術的背景があります。マスコミは、頻繁に世論に問うことができるようになり、有権者は『空気を読んで』、自分の意見や態度を決めるようになりました。これには、プラスとマイナスの両面があるように思われます。政治が民意によって動くようになってきたというプラス面と、それが必ずしも『熟議』によるものではなく、一定の方向が出ると付和雷同的に加速され、政治を歪めるというマイナス面です」と指摘していた。
「『ヨロン』には、時の空気や私的な感情に流される『世論』と、責任ある公的意見としての『輿論』の二つがある」――。世論調査の功罪についての佐藤卓己京都大准教授と菅原琢東京大特任准教授の「ニュース争論」(『毎日』7・10朝刊)の鋭い指摘の一部を紹介しておきたい。
「各紙は、毎月実施する内閣支持率報道など世論調査数字をニュースとして製造している。調査すれば1面に見出しがつくような記事ができあがる。そういう報道姿勢はお気楽ではないか。ファストフードと同じように即時の充足を求める政治(『ファスト政治』)いわば次の内閣支持率に反映する対価、つまり即時報酬だけを追求する政治になっているんじゃないか。遅延報酬的な、例えば10年後を見据えた負担は内閣支持率に結びつかないから、おざなりになる」(佐藤氏)…「メディアは世論調査という形で有権者の情報を伝えようとしているが、実際には情報を歪めてしまっている」(菅原氏)と、世論調査の乱用、過剰報道に警告を発していた。固定電話主体のRDD調査精度の難点も指摘されており、この際「世論調査」の在り方や過剰報道など全般の再点検を望みたい。
出典:「メディア展望」8月号より著者の許可を得て転載
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