青山森人の東チモールだより 第214号(2012年5月27日)
- 2012年 5月 27日
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インドネシアの娯楽番組から想うこと
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
東チモールとインドネシアの新しい関係を期待する
インドネシアの娯楽番組をたまに見ると、昔の日本の雰囲気を感じます。それは“勢い”といってよいかもしれません。スハルト体制後の混乱期を経て、大統領も民主的な選挙で選ばれるようになり、新しい政治体制も軌道に乗ってこれから成長していくインドネシア経済を反映しているのかもしれません。日本の娯楽番組からわたしは衰退を感じます。
最近、インドネシアのテレビ番組から、日本で大人気の女の子集団アイドルグループの歌がよく流れています。たぶんコマーシャルで使われているのだと思います。そしてこれも「たぶん」で申し訳ありませんが(わたしはあまり詳しくないので)、歌っているのは日本の姉妹版であるジャカルタ版の女の子集団アイドルグループだと思います。ともかく東チモールの茶の間からも日本のアイドル産業をごく普通に見ることができるのは興味深いことです。
この前、東チモールは初めてというインドネシア人の若い女性が家に来たとき、ジョゼ=ベロ君の次女・アダシちゃんが「あのお姉さんとお話したい」というので、わたしがアダシちゃんを彼女のところへ連れていくと、恥ずかしがって下を向いてしまいました。その近くにいた男の人が、「毎日毎日テレビでインドネシアの番組を見ているんだろう。いま、インドネシア語を使うときだぞ」というと、アダシちゃんは「わかんない」といい下を向いたままで、インドネシア人のその女性は微笑んでいました。インドネシア軍が撤退してから初等教育を受けた東チモールの子どもたちにとって、インドネシア語は強制された侵略言語ではなく、テレビによって耳と目で親しむ言語となり、使ってみたい言語となっているのです。十数年前には考えられなかったことです。
東チモールもインドネシアも、それぞれ国内問題は山積するものの、これから未来に大きく飛躍していく国であり、市民レベルでの交流が深まっていけば、両国間にこれまで想像もできなかった新しい時代が訪れるかもしれません。
想像しやすいは、チモール島内で活発に展開される人の人との交流です。10年前までは西チモールから民兵が東チモールに入って破壊活動をすると懸念されたものですが、いまやそんな気配はまるでありません。1999年に西チモールへ逃れたまま帰還していない東チモール人はパスポートがなくでも特別パスがあれば東チモールへ入れるようになっています。今年3月の大統領選挙運動のさい、東チモール人の選挙運動の一行が飛び地オイクシに行ったとき、インドネシア領を車で通過しました。今度の総選挙のときも東チモール人はそうすることでしょう。インドネシア軍占領時代にわたしを西チモールのクーパンから東チモールへの移動を助けてくれた地下活動家は現在、オイクシ地方の消防署所長になっていますが、かれはしょっちゅう車でオイクシと首都デリ(ディリ、Dili)を往復しています。そしていわずもがな物資の移動も、いまのところ西から東への一方通行の感がありますが、さかんに行われています。しだいに“東西の壁”は低くなり、チモール島の人的交流はさらに活性化していくことでしょう。
かつての侵略国と被侵略国とが良好な関係になっていく将来を想像するとき、想像を現実にしていくうえで欠かすことのできない作業があることをわたしたちはすぐ気がつきます。両国間に何が起こったかを見据え、過去に向き合うことです。これなしでは未来に翔ぶことはできません。未来志向とは過去と向き合うことです。過去を忘れる未来志向とはニセモノで、それは「目先の利益志向」であり、自分さえよければあとは野となれ山となれ、次世代の子どもたちのことは知らんという「身勝手志向」です。
インドネシアの娯楽番組を見て、このようなことを想ってしまいました。
ジョゼ=ラモス=オルタ前大統領の消極姿勢
今度の総選挙に参戦する26の政党は、以下のように政治連合3組を形成する21の勢力となりました(番号は抽選で決められた。なお、この『東チモールだより』ですでに何度もとり上げた政党名については頭文字のままとし、はっきりわからない政党名は頭文字のままとした)。
Partido União Democrático Timorense=UTD
Partido Republicano=PR
Partido Desenvolvimento Nacional=PDN
Aliança Democrático (KOTA-Trabalhista)
Partido Unidade Nacional=PUN
Partido Democrático =PD
Partido Timorense Democrático=PTD
Partido Social Democrático=PSD
Frenti Mudança(FrenteではなくFrenti)
10. 美しく富む東チモール人国民統一党
Kmanek Haburas Unidade Nacional Timor-Oan=KHUNTO
11. 東チモール再建国民会議(CNRT)
12. フレテリン(FRETILIN)
13. 人民開発党
Partido Desenvolvimento Popular=PDP
14. (独立)宣言者同盟
Coligação Bloco Proclamador (PMDとPARENTIL)
15. チモール社会民主党 (ASDT)
16. チモール社会党
Partido Socialista Timorense=PST
17. キリスト民主党
Partido Democrático Cristão=PDC
18. 自由開発党
Partido Desenvolvimento Liberal=PDL
19. チモール君主人民協会
Associação Popular Monarquia Timorense =APMT
20. チモール抵抗民主国民党 (UNDERTIM)
21. PLPAとPDRTの連合
Coligação: PLPA-PDRT
ところで先の大統領選挙の第一回目投票で敗退した民主党のラサマ党首とジョゼ=ラモス=オルタ大統領(当時)は、敗北を受けてすぐさま共同記者会見を開き、自分たちは総選挙に組んで臨むと発表しました。このときラモス=オルタは、自分たちそれぞれが獲得した約18%を合わせれば相当の勢力になるというような勇ましいことを述べていましたが、最近のラモス=オルタ前大統領の発言では勇ましさが身を潜めています。民主党を支援するが民主党の名簿に自分は入らない、国会議員としてか、民間人として入閣するか、どのようにして国会入りするかはまだ決めていない、このようにかなり受身になっています。ラモス=オルタ前大統領のことだから、わたしが推測するに、最悪でも民間人の大臣として新政権は自分を迎えてくれるだろう、場合によっては選挙結果後の政治勢力の組み合わせ方に自分が介入し権力に参入できるかもしれないと甘いことを考えているかもしれません。大統領選挙のさいギリギリまで動向をうかがって立候補表明をしたように、今回もギリギリまで、新政権誕生まで、世間の風向きを見ようとすることでしょう。
同志・支持者たちと話し合い、計画を練って、行動をするということがラモス=オルタ前大統領にはできないようです。信頼する仲間がいないのかもしれません。ラモス=オルタの大統領選挙用大型看板には孤独感がにじみ出ていました。ローマ法王とのツーショット、そしてオバマ大統領とのツーショット、二点の写真を自分の顔と併せて載せているだけでした。東チモールの民衆と共に歩む自分を表現するのではなく、国際社会の超大物と仲良しであることを強調しているのです。ラモス=オルタ前大統領は何を拠り所としているのだろうかと考えると、なんだかこのノーベル平和賞受賞者が気の毒になってきます。
『東チモールだより』(第212号)でわたしは「フレテリン、ラモス=オルタと民主党の連合、シャナナのCNRT、これら三つ巴の対立構図となる」と書きましたが、どうやら訂正しなければならないようです。フレテリンとシャナナのCNRTが二本柱となりつつ、ラモス=オルタの支持する民主党がキャスティングボードを握るくらいの対立構図となることでしょう。そうだとすれば、現在の連立政権の構成政党とは顔ぶれが変化しても、やはりシャナナ=グズマン首相の続投が濃厚といってよいでしょう。なぜなら、民主党の幹部たちがフレテリンとの連立を組む柔軟性を持っていたとしても、大多数の党員はそうではないからです。大統領選の決選投票のとき、民主党が支持候補を定めず自主投票を決めましたが、大半の民主党票はタウル候補へ流れました。フレテリンとタウルならタウルを選ぶ民主党が、フレテリンとシャナナではどちらを選ぶか。フレテリンと民主党の間に相当の共通認識が芽生えない限り ―― 例えばなんとしてもシャナナ=グズマン首相の続投を阻止しなければならないという危機感 ―― やはりフレテリンを選ぶことは難しいと考えられます。
ラモス=オルタ前大統領が、もし第三の政治勢力結束の原動力になるという新たな道を本気で歩めば、フレテリンも嫌だが、かといってシャナナの連立政権も国家予算の使い方がなんだか怪しい……と考えている知識層の受け皿となり、案外、支持を集められるかもしれないのに、ラモス=オルタ前大統領の消極姿勢は残念です。
ポルトガル主催の「ブックフェア」でポルトガル語の詩を吟唱する子どもたち。ポルトガルとしてはポルトガル語の世界を誇らしく披露しているつもりなのだろうが、この10年あまり東チモールにおけるポルトガル語の普及のしなさ具合についてポルトガル人はどう分析しているだろうか。タウル=マタン=ルアク新大統領はポルトガルの新聞に、ポルトガル語はポルトガルの現実ではなく東チモールの現実に合わせて教えるべきだと発言したが、ポルトガル人は東チモールの「現実」をどう捉えているのだろうか。なおタウル=マタン=ルアク大統領はこの発言のなかで、ポルトガル語が公用語であるべきかそうでないかを議論して時間を費やすつもりはない、ポルトガル語は教える、ポルトガル語は一つの政治的選択でわれわれのアンディンティティの一部である、とも語っている。またタウル大統領はシャナナやマリ=アリカティリそしてラモス=オルタたちからの世代交代を強調するが、次なる世代、ポルトガル語が話せない世代がすぐそこに出番を待っている現実をどう考えているのだろうか。ポルトガル語にアイディンティティの欠片も感じないしポルトガル語を話せないが能力のある東チモール人が次世代の国家運営の中心勢力となるとき、ポルトガル語を話せない首相・大統領の出現をタウル大統領より上の世代のエリートたちは許せるだろうか。そのへんの世代交代の準備をタウル大統領は任期中にしなければならないのだ。
2012年5月25日、コンベンションセンターにて。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0899:120527〕
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