原爆も原発もいらない 強まる「脱原発を」の声――8・6広島
- 2012年 8月 9日
- 時代をみる
- 原爆原発岩垂 弘広島
原子力の軍事利用も平和利用(原子力発電)もいけない――日本では広島・長崎への原爆投下以来、原子力の軍事利用には反対だが平和利用はいいことだ、との考え方が国民の間で多数を占めてきたが、どちらもよくないという考え方が被爆から67年にしてようやく多数を占めるようになった。広島原爆の日の8月6日を中心に広島市で繰り広げられたさまざまな催しを垣間見ての印象だ。この転換をもたらしたのは、もちろん昨年3月の東電福島第1原発の事故である。
昨年夏に広島市で繰り広げられた「8・6」関係の各種の催しには、東電福島第1原発の事故が濃い影を落としていた。事故直後の催しだったからだろう。多くの催しで「原発に依存しない世界」の実現を訴える声が聞かれた。
今夏も、これらの催しで「脱原発を」という声が相次いだ。それらは、昨年と比べるとおしなべて一層トーンが上がり、切実感を帯びていた。まるで「脱原発」が「8・6」を席巻したような感じだった。福島県からの参加者も目立ち、この人たちの「放射能汚染のないふるさとに一日も早く返してほしい」という訴えが、催しに参加した人たちを強くとらえたようだった。
原水爆禁止関係団体では、まず原水爆禁止日本国民会議(原水禁)の活動が注目を集めた。原水禁は1970年代から「脱原発」に向けた運動を続けてきたが、昨年の福島第1原発の事故により、「『人類は核と共存できない』という森瀧市郎・原水禁初代議長の核絶対否定の訴えの先見性が示された」と、これまでの運動に自信を深め、一層「脱原発」の方向を強めた。昨年は原水爆禁止世界大会を福島市での開催からスタートした。
原水禁はまた、昨年発足した、大江健三郎(作家)、落合恵子(作家)、鎌田慧(ルポライター)、坂本龍一(音楽家)ら文化人9氏が呼びかけ人となった「さようなら原発一千万人署名市民の会」の事務局を勤めているが、この会は、これまでに780万の脱原発署名を集めたほか、7月16日、東京・代々木公園で開いた「さようなら原発10万人集会」で17万人(主催者発表)を集めた。これにより、原水禁は脱原発路線にさらに自信を深めている。
原水禁は、今年もまた7月28日に原水爆禁止世界大会福島大会を開いた。さらに、広島大会の開会集会を8年ぶりに復活した。
原水禁は、これまで、毎年同時期に広島で開かれる日本労働組合総連合会(連合)、原水禁、核兵器禁止平和建設国民会議(核禁会議)の3団体共催の「核兵器廃絶ヒロシマ大会」を広島大会の開会集会と位置づけてきた。つまり、広島大会開会集会を「ヒロシマ大会」と兼ねさせてきたわけだが、今年は8月4日に独自の広島大会開会集会を開いた。核禁会議が「原発推進」、連合が「原発の即時停止や廃炉を求めず、中長期的に脱原発依存を目指す」という方針であるところから「ヒロシマ大会」では原発についての論議がタブーとなってきたことに組織内から不満が出てきたため、広島で「脱原発」を強力に打ち出すため独自の開会集会となったわけだ。
広島大会まとめ集会で採択されたヒロシマアピールは「野田首相は2011年12月16日に福島第1原発の収束宣言をだし、2012年7月1日・18日には福島第1原発の事故以来停止させていた大飯原発3・4号機を再稼働したことは、国民の脱原発への思いを踏みにじる行為であり、強い怒りを感じざるをえません」とし、「くり返すな原発震災! めざそう脱原発社会!」「許すな再稼働! 止めよう再処理!」とのスローガンを掲げている。
広島大会の分科会では、「脱原子力――学習編 原発に向けたエネルギー政策の展開」と題する分科会も設けられた。ただ「脱原発」を叫んでいるだけではいけない。市民自身が脱原発に向けて原子力に代わるエネルギー、すなわち再生可能のエネルギーの開発と推進に動き出さなければならない、という立場から設けられた“学習会”だった。講師は、ドイツの緑の党のべーベル・ヘーンさん。ヘーンさんはドイツで風力、バイオマス、太陽光などによる発電がすでに25%達している現状を説明し、これを支えているのは市民による再生可能エネルギー開発への積極的な投資だ、と述べた。
原水禁大会でこうした“学習会”が設けられたことは、日本でも市民レベルで脱原発に向けての具体的な論議が始まったことの表れ、と見ていいだろう。
原水爆禁止日本協議会(原水協)は、これまで原発に対しては「容認」の立場をとってきた。それは、原水協に影響をもつ日本共産党が、そうした立場をとっていたからだ。が、昨年3月の東電福島第1原発の事故を機に共産党が「原発からの撤退」に方針転換すると、原水協も従来の立場を変え、昨年夏の原水爆禁止2011年世界大会・国際会議の宣言に「(福島第1原発の)事故は、原子力の『安全神話』の欺瞞と原発の危険性を明らかにした。持続可能な開発のために必要なエネルギーを、原発に頼らず、将来の世代に危険を残すことなく、調達することは可能である。日本をはじめ世界でひろがる原発からの撤退と自然エネルギーへの転換を要求する運動との連帯を発展させよう」と書き込んだ。
今年の原水爆禁止2012年世界大会・国際会議で採択された宣言には「核兵器と人類は決して共存しえない。……非人道的、非道徳的な核兵器は、法によって禁止し、廃絶されなければならない。われわれが求めるのはこの『法の支配』を実現すること、核兵器禁止条約の交渉を開始することである。国連総会では、130カ国がこれを求める決議に賛成し、2010年NPT再検討会議は『核兵器のない世界』を実現する『枠組み』をつくるための『特別の努力』をすべての国に求めた。この合意を具体化し、実行させなければならない」「原発依存からの脱却と自然エネルギーへの転換を求める広範な運動との連帯をさらに発展させよう。いかなる核の被害者もつくらせないことは、核兵器廃絶と原発ゼロをめざす二つの運動の共通の願いである」とある。
原水協としては、「核兵器廃絶」と「原発ゼロ」をこれからの運動の柱にする、ということだろう。
国際会議に続いて開かれた世界大会・広島では、「原発からの撤退、自然エネルギーを考える」シンポジウムが開かれた。そこでは、福島第1原発事故で全町避難を余儀なくされている福島県浪江町の馬場有町長が発言、原発事故をめぐる政府や東電の対応を批判し、「再稼働のことを議論するより脱原発にむけ自然エネルギーに時間と予算を投入すべきだ」と述べた。
生協の全国組織、日本生活協同連合会が毎年8月5日に全国各地の生協の代表を広島市に集めて開いている恒例の「ヒロシマ虹のひろば」でも変化がみられた。
昨年の「虹のひろば」の主催者あいさつでは、原発問題への言及はなかった。浅田克己会長は「日本生協連は、今回の原発事故を契機として、生協としての長期的なエネルギー政策を確立するための検討を始めた」と述べるにとどまった。
しかし、今年の「虹のひろば」では、主催者あいさつで登壇した芳賀唯史・専務理事が「私たちの願いは二つ。一つは被爆の実相をこれからの世代に継承するすること。もう一つは、核兵器も戦争もない世界を、という広島の願いを全国に伝えることと、原子力発電に頼らない世界を築くことです。すなわち、私たちの願いは核兵器、戦争、原発のない世界をつくることです」と呼びかけた。
日本生協連は今年1月、政府に「原子力発電に頼らないエネルギー政策への転換」を求める提言をまとめており、この日の専務理事あいさつは、こうした提言を踏まえたものだったと思われるが、生協の首脳が組合員を前に脱原発の姿勢を明確にしたものとして印象に残った。
市民グループが結集する「8・6ヒロシマ平和のつどい」実行委員会(代表、田中利幸・広島市立大学広島平和研究所教授)は、今年も8月5日につどいを開いたが、会場に掲げたスローガンは「核・原子力と“生きもの”は共存できない ヒロシマから反被曝の思想を!」。 実行委はこれまで「核と人類は共存できない」と主張してきたが、核と共存できないものが、動物や植物を含むすべての生きものにまで拡大された。核による危機が深まっているとする実行委メンバーの意識が、スローガンの深化を生んだとみていいようだ。
8月6日、約5万人を集めて開かれた広島市主催の平和記念式典では、恒例の平和宣言が松井一實市長によって読み上げられたが、そこには「あの忌まわしい事故を教訓とし、我が国のエネルギー政策について、『核と人類は共存できない』という訴えのほか様々な声を反映した国民的論議が進められています。日本政府は、市民の暮らしと安全を守るためのエネルギー政策を一刻も早く確立してくださいた」とあった。
これに対し、マスメディアでは「脱原発に踏み込まず」との見方が一般的だったが、評論家の鎌田慧さんは、原水禁の広島大会まとめ集会で「森瀧市郎さんの『核と人類は共存できない』という訴えを取り込んでいたり、市民の暮らしと安全を守るためのエネルギー政策の確立を政府に求めているのだから、宣言は間接的に脱原発を訴えているものととらえるべきではないか」と話した。市民の間には、原発推進と脱原発の両論がある。市長としては、これがギリギリの表現だったということであろうか。
ともあれ、平和記念式典に臨んだ野田首相も、式典後の記者会見で「原発依存度をゼロにした場合の課題や克服策の検討に入る」と表明せざるをえなかった。
「8・6」の前日、8月5日付の新聞各紙朝刊は、政府が全国11カ所で開いたエネルギー政策の意見聴取会の結果を伝えていた。それによると、2030年までに原発ゼロを求める意見が7割を占めたという。「脱原発」を求める思いが、急速に国民に浸透しつつあることを示す数字である。ついに、日本人の多数が原子力の軍事利用はもちろん、平和利用をも否定するところまで来たのだ。今夏の「8・6」を中心に広島であったさまざまな催しでの論議は、こうした国民意識を反映したものであったと言えよう。
これらの催しを見て回る中で、さまざまな発言に出合ったが、一番心に残ったのは次のような発言だった。
「原爆と原発は2つの罪悪なんです。絶対あってはならない罪悪なんです。原爆があったから原発がつくられた。原発があるから原爆がつくられる。だから、核はなくさなくてはならないのです」。鎌田慧さんの言葉である。
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