「小沢氏擁立の動き強まる―民主代表選波乱含み」
- 2010年 8月 21日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一
9月1日告示―14日投開票の民主党代表選は再選に意欲を示す菅直人首相(減代表)と小沢一郎前幹事長の一騎打ちとなる公算が大きくなった。小沢氏については、一部に海江田万里衆院議員らが親小沢勢力の代表として代表選に出馬するのではないかとの観測もあったが、海江田氏らでは現職首相の菅氏に勝つ可能性が小さいとの判断もあって、小沢一郎氏その人が代表選出馬の決意を固めた模様だ。
民主党はいまや政権与党であり、9月の代表選はすなわち内閣総理大臣を選ぶ選挙である。これまで「闇将軍」などといわれながら自らは首相の座を狙わないと見られてきた小沢一郎氏が当選14回、68歳にして初めて政治の最高指導者の地位に挑戦する。だが、その政治環境は「最悪」とさえ言えよう。
それでもこの時点で敢えて「大願成就」に挑むのは、政治家として最後のチャンスが眼前に迫ったからであろう。最高権力の掌握こそ小沢氏の宿願である。
▽参院選だから辞めない
現職首相の菅直人氏はことし6月4日、代表選挙で鳩山由紀夫前首相の退陣表明(同2日)を受けて電光石火出馬し、民主党代表=首相に選出されたばかりだ。衆院本会議で首相指名選挙を受けてからわずか2ヶ月半しか経っていない。理由は簡単にして明瞭、7月11日の参院選で民主党を大敗させ、参院での過半数を大幅に失い、衆院での法案再可決の道も閉ざされていることだ。
大敗の原因が消費税引き上げをめぐる菅首相の不用意な(本人によれば唐突な)発言にあったから、その責任は逃れようもない。たまたま9月に設定されていた民主党代表選で勝ち、再選されて出直すしか突破口は見当たらない。本人の弁明によれば「参院選は政権選択選挙ではないから、負けても首相が辞任する理由にはならない」ということになる。
▽脱小沢の成功に酔う
菅首相の本音を言うなら、代表選では対立候補が出ず、無競争で再選されることだろう。参院選の大敗はその責めを甘んじて受けるが、なにしろ代表=首相に選出されてから、まだ3ヶ月も経過していない。自らが6月4日、急遽選ばれたのは前任者の鳩山由紀夫前首相と小沢一郎前幹事長とが「政治とカネ」「普天間飛行場移設問題」の二大課題で頓挫したからに過ぎないではないか。
しかも、新執行部と閣僚人事(こちらはほとんど入れ替えなし)で「脱小沢人事」を思い切って断行したところ有権者の支持を受け、末期には19%台にまで落ち込んでいた鳩山内閣支持率が一気に61・5%にまで跳ね上がったではないか。まさしくV字型の回復である。これぞまさしく、国民が小沢氏の政治とカネ問題をいかに嫌悪しているかの証左ではないか。
▽単純な記載ミスだ
ところが、小沢一郎氏のほうは、自分は法律に違反しておらず、違反した証拠もなく、だからこそ検察当局は2、3回にわたり、それぞれ数時間ずつ任意の事情聴取をしたにもかかわらず、「嫌疑不十分により不起訴」処分にした。4億円の土地購入に当たって確かに3人の秘書は報告年次を根拠もなくずらしたかもしれないが、自分は資金報告を詳細に点検したわけではなく年次のずれは単なるミスに過ぎない、と突っ張る。4億円の一部にゼネコンからの不審なカネが含まれていたかどうかについては、自分も秘書たちも全く知らないことだ、との線で押し通した。検察筋によれば、結局、小沢氏本人を起訴するに足る「証拠がない」から、不起訴処分にしたのだという。
▽起訴の可能性がネックに
ところが「伏兵」がいた。市民で構成する検察審査会である。検察官による捜査が不十分、と市民目線で感じ取り、第5審査会は「起訴相当」、第1審査会は「不起訴不当」を議決し、公表した。このうち「第5」については民主党代表選が終わったあとの時期に再度議決し、その内容が「起訴相当」であれば小沢氏は強制起訴され、裁判で黒白を争う羽目に陥る。
非小沢の岡田克也外相は20日「起訴される可能性のある人を代表=首相に選ぶことには違和感を持つ」と述べ、小沢氏の代表選出馬に対し強烈な先制攻撃をかけた。これにたいしては「総理大臣を起訴できない」という反論が親小沢勢力から飛び出しているが、これは理屈の問題であって岡田外相の言い分に妥当性がありそうだ。
▽不動産と助成金の行方
小沢氏が検察当局と渡り合った末、不起訴処分をかちとったのは政治資金規正法の虚偽報告問題である。ところが、一般国民が小沢氏に一種の「胡散臭さ」を感じているのは、この問題だけではない。
小沢氏はなぜ、全国12―13箇所に不動産を買い占めているのか、という疑惑は残ったままだ。小沢氏は「秘書たちの研修・宿泊用だ」と弁明し、土地・建物の購入関係書類を公表した。やましいところがないからすべて公表し、オープンにした、と小沢氏はいうが、平均水準の常識からみれば秘書らのために土地や建物12―13件購入というのは、いかにも怪しげである。
さらに新進党を解党して自由党を結成、あまり日数を置かずに民主党と合併した際、使い残した政党助成金(すべて税金から支出)はどこに行ってしまったのか?この問題は未解決である。制度的には、余れば団体などに「寄付」することになっているが、自由党で遣い残した資金の寄付先はほとんどが小沢氏と関係のある団体らしい。
▽150人の脅威
こうして小沢氏は数々の未解決の「疑惑」を残したまま、内閣総理大臣の地位を狙っている。常識的には現職首相の菅直人氏が勝ちそうに見えるが、小沢氏を支える約150人の衆参議員グループの力量は現職首相の菅氏にとって脅威である。議員票は一人当たり「2ポイント」に計算するシステムなので、小沢氏は戦う前から300ポイントを中核にしているのだ。
菅直人氏は党役員と閣僚を大多数「親菅勢力」で固めているものの、忠実な支持勢力は40人(つまり80ポイント)しかいない。小沢氏は2007年参院選を代表として、2009年衆院選は幹事長として、新人を中心にシンパで周辺を固めた。
常識的には現職首相=代表の菅直人氏が有利なはずだが、選挙と政局の「専門家」小沢氏は現職首相を上回る政治的パワーを備えている。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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