若者を使い捨てる「ブラック企業」
- 2012年 9月 8日
- 評論・紹介・意見
- NHK醍醐聡
特報首都圏「職場を追われる若者たち」を見て
昨夜(9月7日)、NHK特報首都圏が放送した「職場を追われる若者たち~急増する“いじめ”や“排除”~」を見て考えさせられた。1週間ほど前に5年ぶりに会った友人(私より3回りほど若い人)から、「再就職先がみつかったのはよかったけれど、まるでブラックな職場だったのですぐに辞めた」と話しかけられ、「ブラック」の意味がわからなかった。今朝の朝日新聞の<働く>欄に掲載された「使い捨てられる若者」という記事を読んで、「ブラック企業」の意味が遅まきながらわかったところだった。
それだけに、昨夜の特報首都圏の番組にはくぎ付けにされた。番組の紹介記事には次のような予告が記されていた。
「ホームレスや生活保護となる『若者』が今、増え続けている。深刻なことに多くを20代が占めるようになっている。正社員を解雇されたり、あるいは非正規雇用で仕事が極度に不安定だったりする中で、住む家さえ失うケースが増えている。大きな背景の1つは、職場での凄まじいまでの『いじめや排除』だ。過酷な労働を押しつけられ、体を壊したり、職場で責められ続け、心に強いPTSDを負ったり。また仕事がうまくできない『ボーダー障害者』の若者も増える。社会に出た当初から職場を追われて貧困に苦しみ、貧困を抜け出せない。新たな段階に来た、若者の貧困。どんなことが起きているのか、どんな支えが必要なのか、考えていく。」
番組では、スタッフが新宿で、職場のいじめ・排除にあって退職、その後、野宿生活をする中でPTSDに苦しむ一人の若者を取材する場面、あるいは、仕事の上でのわずかなミスにも脅迫的な攻撃を受けて退職に追い込まれたことから、人と対面する仕事に恐怖を覚え、なかなか再就職できず、NPOが運営する生活保護施設に入った若者の姿を追う場面が放送された。
「ブラック企業」とは
参考までに、今朝の朝日新聞の上記記事に掲載された<これが「ブラック企業」だ>を紹介しておく(出典は、NPO法人POSSE著『ブラック企業に負けない』旬報社)。
①入社後に選別競争
とりあえず働かせてみて、会社が「使えない」と判断したら「試用期間満了」を口実に解雇する。
②残業代を払わない
タイムカードを改ざんするなど書類をごまかす。月給を時給に換算すると最低賃金に満たないケースも。
③新卒の使い捨て
過労死寸前まで働かせる。研修時に「10キロ歩いてこい」など理不尽な課題を出し、どんな命令でも「おかしい」と思わないようにする。
④退職時の嫌がらせ
失業手当の受給に必要な離職手続きをしなかったり、最終月の給料の支払いを拒否したりする。
⑤戦略的パワーハラスメント
本人が会社に行きたくないと思うまで嫌がらせをする。「解雇」にはしたくないので、辞表を書くまで辞めさせない。
特報首都圏に送った感想・要望
以下は、番組終了後に特報首都圏宛てにE・メールで送った感想・要望の全文である。
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今日(9月7日)、放送された「職場を追われる若者たち~急増する“いじめ”や“排除”~」に引き寄せられました。テロップで流れる視聴者の感想にも考えさせられました。1週間ほど前に会った友人から、「再就職先がみつかったのはよかったけれど、まるでブラックな職場だったのですぐに辞めた」と話しかけられましたが、「ブラック」の意味がわかりませんでした。ちょうど今朝の某全国紙に掲載された「使い捨てられる若者」という記事を読んで、「ブラック企業」の意味がようやくわかりました。今年の4月26日に「クローズアップ現代」で放送された「やめさせてくれない~急増する退職トラブル~」も同じ実態に迫った番組だったわけですね。
番組を見て私が特に重大だと思ったのは、職場で上司や同僚から受けた陰湿で脅迫的な「いじめ」、「排除」によって人格まですりつぶされかけた若者が少なくないことです。「会社都合」ではなく、「自己都合」で辞めさせるまで追い詰める陰湿なやり方も大問題ですが、人間の尊厳まですりつぶすような攻撃にさらされた結果、抵抗や批判をする気力まで破壊される若者が少なくないのは痛ましい限りです。
とかく目を閉ざしがちなこうした社会の深刻な恥部、暗部に正面から迫った企画に拍手を送ります。広く社会にこうした現実を知らしめ、関心を促すためには第2弾、第3弾が必要です。その際には、次の点を要望します。
今回のテーマに限らず、現在社会の深刻な現実を伝え、それにどう立ち向かうのかを考える際、NHKの番組では、制度や仕組みの問題点を批判的に深めることよりも、自分たちにできることは何かを考え、行動するNPOや市民の活動を紹介する場面をしばしば見受けます。そうした活動をしている団体、個人の方々の努力とご苦労には頭が下がります。
しかし、番組中にテロップでも流れていましたが、「いじめというより、もはや犯罪といえる行為」を実行している当事者あるいは当事者が所属する上部経済団体は、放送された現実をどこまで把握しているのか、どのように対処しようとしてきたのかについても是非、取材し、その生の反応を伝えてほしいと思います。「企業も追いつめられているからだろう」という達観で終わっては、問題を放置したままになります。
また、こうした職場における“いじめ”や“排除”の実態を労働行政当局者、労働監督当局者はどこまで把握しているのか、どのように対処しようとしてきたのかについても是非、取材し、その生の反応を伝えてほしいと思います。
こうした取材報道を通じて、視聴者は社会の不条理をどのようにして解決すればよいのかを考える糧を得られるのだと思います。<考える視聴者を育む>ことこそ、公共放送の最高の使命だと思います。
今後のますます優れた番組づくりを期待しています。
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上の文中の最後の2つのパラグラフを書きながら、昨今、表面化している各地の中学校におけるいじめ自殺をめぐって学校当局、教育委員会に向けられている言葉とそっくり同じであることに気が付いた。
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拙書『消費増税の大罪』(2012年7月、柏書房)の第5章「真の社会保障を求めて」の中で、データを示しながら、非正規雇用の問題を取り上げています。一読いただけると幸いです。
第5章 真の社会保障を求めてーー税制改革の基本理念
行き詰るEUの緊縮財政路線
社会保障の充実が国の税源を涵養する
雇用環境の改善による負の連鎖からの脱却
「肩車型社会論」のまやかし
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion987:120908〕
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