天木直人著『さらば日米同盟! 平和国家日本を目指す最強の自主防衛政策』 講談社 (2010/6/22)の薦め
- 2010年 8月 26日
- 評論・紹介・意見
- 木村朗
著者の天木直人氏は駐レバノン大使としてイラク戦争を無条件に支持した当時の小泉純一郎首相に抗議して解雇処分となった気骨のある元外交官で、日米同盟の是非そのものを正面から問う著者の立場と主張は明確である。
最初に、政権交代による民主政権の成立を、「戦後日本が対米従属政策を対米自立政策に切り替える歴史的なチャンス」ととらえて歓迎している。鳩山前首相が辞任に追い込まれたのは米国とその片棒を担いだ官僚、メディアの圧力によって国民の願いよりも日米同盟を優先せざるを得なくなったからであり、「日米関係はいま米国政府と日本国民の壮絶な攻防に差し掛かっている」のである。
また、鳩山政権が掲げた「対等な日米同盟関係の維持・深化」は自己容矛盾である、なぜなら、「米国との軍事協力を重視する限り、対等な日米関係はありえない」からだ。「普天間基地問題」が挫折した理由もそこにある。そもそも、「戦争国家米国と、戦後生まれ変わって平和国家となった日本は、根本的に国のあり方が異なる」のであり、そんな米国と軍事同盟を続けることは「日本のためになるはずはない」。
それではどうすればよいのか。この問いかけに対する著者の回答も、「米国との軍事同盟から自立する以上、日本の安全は自分の力で守らなければならない」と率直で迷いはない。具体的には、「憲法九条外交、専守防衛に徹する自衛隊、そして東アジア集団安全保障体制の構築」の三位一体が日米同盟に代わる自主防衛策として提示される。
こうした著者の主張は、単独自主防衛(核武装を含む)の否定とおよび自衛隊の国連平和維持活動への不参加という選択肢も含めて、きわめて熟考に値する説得力のある提言といえ、非武装中立を現実の選択肢として考える評者にも概ね首肯できるものである。
著者の考察は、さらに、「普天間基地問題」の起源・背景でもある、日米安保条約の成り立ちにも向けられる。すなわち、日米安保条約成立過程での「昭和天皇の二重外交」の事実(豊下楢彦教授による検証)を紹介しながら、「戦争責任の追及」と「共産主義の脅威」から自らおよび天皇制・天皇家を守ろうとした昭和天皇の意向と日本を自由主義陣営に組み入れて天皇を占領支配に利用しようとした米国の思惑の一致を指摘している。また、現在まで続く日本の深刻な対米従属の原因は、「戦後の日本をかたちづくった三原則、つまり象徴天皇制と平和憲法と日米安保体制」にあり、その意味で、対米従属は「戦後日本の国体」であり、その「国体護持」は「自民党の党是」であったと同時に「日米合作」でもあったと指摘している。
さらに、「日米同盟の本質は軍事同盟」であり、日本が「対等な日米関係」を求めるならば、「軍事同盟ではない友好協力関係の構築」を目指さなければならないとしている。そして、日米安保条約は違憲性はあっても国会承認条約でありそれに基づく日米安保体制を全面的に否定できないとする一方で、日米同盟は「日米安保条約や憲法九条を踏み越えた日米軍事協力を意味するもの」に変貌したことを指摘している。
本書にはこの他にも、パレスチナ問題や9・11事件の本質など貴重な分析・指摘が数多くなされおり、「日米同盟の呪縛」から一刻も早く解き放たれるためにも一読されることを強く勧めたい。
(『週刊金曜日』2010年7月16日号に掲載)
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