尖閣諸島問題をどう考えるか
- 2012年 9月 23日
- 評論・紹介・意見
- 三上 治
画面に映る中国の若者の顔を映像で見ての印象はなかなか複雑な思いがした。
冷静にその動きを見ていたが大半の国民はまたそうであると思える。僕はそこにこの問題の救いと将来性が暗示されていると受け取った。
今回の唐突とも言える尖閣諸島問題の発端は東京都が地権者からの購入《所有権の移転》を目論んだことから発生した。国が地権者から購入し国有化宣言したことへの中国側の反発があり、それに諸事情が加わり反日行動は拡大したのである。国の立場からは東京都が所有し、勝手な行動をすることで中国との摩擦を避けたかったのであろうが、結果としては棚上げすることで領土問題として紛糾することを避けるという日中間の暗黙の合意を日本側が破ったということになった。領土問題としての処理について日中条約下の合意を破ると相手側に受け取られる懸念があればそれだけの手を打つべきであり、外交的処置をすべきである。野田政権の思慮のなさと言えばそれまでだが、石原慎太郎に乗せられてしまったというべきであろうか(?)
今回の騒動の演出者は石原慎太郎である。彼はもともと尖閣諸島の帰属が棚上げとして処されてきたことに不満でありその曖昧さを突くことを狙ってきた。
尖閣諸島の帰属問題は歴史的には明治時代のはじめに沖縄《琉球》の所属の交渉と関連してあった。琉球の分割支配を清政府と交渉していたのであり、琉球の半分は清《中国》に属するものとして交渉していたのである。これが中断されたのは日清戦争の結果であり、琉球の日本帰属(琉球処分)で尖閣諸島も日本帰属となったに過ぎない。これらの歴史的事情も含めて尖閣諸島の領土的帰属問題が提起されることは当然である。
戦後の日中関係が40年前の日中条約を出発にして、その段階で帰属問題が棚上げ状態にあったとするなら棚上げ状態が歴史的現実である。尖閣諸島は領土問題ではないというのは一種の政治的詭弁である。双方が領土の所有権を主張しながら、実際は棚上げにして触れないというのは事を曖昧にするだけであり矛盾である。確かに、領土的帰属の棚上げはこの問題の発生から見れば矛盾ではある。が、これは矛盾を解決するための矛盾であり、現在ではそれ以外の解決が見出されない合理的なものである。これは矛盾を解決するための矛盾ではあるが、必要な矛盾であり合理的なものというべきなのである。
矛盾である以上はそれを解決しようとする動きが出てくる必然はあり、その一つは双方が領土の所有権を主張することである。石原慎太郎の主張はその一つである。その解決はつまるところ武力衝突で持っても自国の所有を確認せよ、相手に承認させよということである。だが、この主張はナショナリズム的な感情を満足させるかもしれないが、「たかが尖閣諸島問題」で戦争などは馬鹿げているし、それは大きな矛盾であることも明瞭にする。石原慎太郎もそこまでの考えはなく、ただ、国家意識を高めたいという政治的目標を満たせればいいだけのことだろう。これは逆にいえば中国内部で統治権力の強化のためにこれを使おうとする部分に対応していると言える。相互の領土の所有権を棚上げ状態にしておくことの解決をめざすこと、その一つの道としての自国の所属を主張することはより大きな矛盾を生みだすだけである。石原慎太郎も中国のナショナリストも、別の政治目的にそれを使っているだけだが、ここのところは明瞭にして置く必要がある。矛盾には解決の仕方が重要なのだ。
昨今の状態は結局のところ石原慎太郎の政治的策謀(背後のアメリカの動きも含めて)に乗せられて、この棚上げ状態から一歩先に進むことを促されてしまったということである。これは中国の反日感情の誘発、それに対する日本での反発を生み出している。双方から激しい声も聞こえるが、これは表面的な一部の声に過ぎない。棚上げ状態から外交交渉へというのが道筋でありそれはどのような経緯を経てであってもじまるだろう。はじめなければならない。棚上げ状態という矛盾の解決は、領土の帰属を明瞭にすることではなく、棚上げ状態の別種の形態(例えば尖閣諸島の共同開発)に進むことである。固有の領土などは存在しないし、それは歴史的なものであるし、その矛盾の発生―解決も歴史的にやるしかない。自国の領土であることの主張は歴史の逆行である。
尖閣諸島問題の解決はやがてみえてくるだろう。そこではナシヨナリズム的な感情に囚われないことが肝要であるが、中国人の反日感情と言うより、日本に対する意識、逆に言えば日本人の中国に対する意識について考える契機が今回のことで与えられたというべきかもしれない。このことが一番重要な事なのかもしれないが、なかなか難しいという思いがある。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion1002:120923〕
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