続・中国は攻勢に出る
- 2012年 10月 4日
- 評論・紹介・意見
- 尖閣諸島日中関係阿部治平
―八ヶ岳山麓から(46)―
日本政府による尖閣諸島国有化は胡錦濤・温家宝政権の対日外交の硬化をもたらし、党内闘争に深刻な影響を与えた。
9月19日、習近平副主席は人民大会堂で米国のパネッタ国防長官と会談した際、日本政府による尖閣諸島国有化について「茶番だ」と批判し、また「アメリカは日中間の領土問題に介入しないように、言動を慎んでほしい」と釘をさした。
「茶番」につづく言葉は「国際社会は反ファシスト戦争の成果と戦後の国際秩序を否定する日本行為を絶対に許さない」というものだ。中国はアメリカと共に第二次大戦に勝利し、その結果もたらされた国際関係を日本は破壊した。これは容認しないというのである。
「茶番」とか「言動を慎め」などというのは、外交上はあまり使われない強い表現である。これによって習近平氏が対日強硬思想の持主であること、彼が外交面で強い発言力を持つことが明らかになった。
中国共産党はもともと10月に党大会を開いて次期指導体制を決定するものとみられたが、それが1カ月遅れの11月8日になったことがようやく発表された。9月29日にこの日程が発表されたのは、中共中央派閥間の論争が一定の妥協を見たからである。
おもには胡錦濤主席の共産青年団「団派」と、革命幹部の子弟が作る習近平副主席の「太子党」の争いである。焦点は中央委員会政治局常務委員の人事で、常務委員を誰にするかの争いはもとより、そもそも常務委員定数について主張が異なるといわれる。この見方とは反対の、胡・習両氏の団結はきわめて強いという見方があるが(遠藤誉氏)、同意できない。
派閥抗争には「太子党」に同調する前総書記江沢民氏の上海閥を加えなければならないが、事情通によれば上海閥は2006年の「陳良宇事件」で勢力を削がれ、いま最強の「団派」とケンカができる力はない。
習近平氏の政治基盤が歴代の最高権力継承者のうち最も弱いことはよく知られている。習氏のよりどころは軍内の対日強硬派の支持である。夫人の彭麗媛氏は現役少将で歌手、さらに劉少奇元国家主席の息子で解放軍総後勤部の政治委員劉源氏など、軍幹部には習近平氏に近いか、幼いときからの遊び仲間が多い。
これに関連して、中国軍部の対日強硬発言が続いたことに注目したい。以前紹介したが、「戦争になったら日本は滅びる」といったのは、軍事解説者として権威ある張召忠少将である。同将軍は「(中国の)武器の威力は第二次大戦時と比較にならないことを知るべきだ」といった(「人民網」2012・8・24)。人民解放軍傘下の軍事科学学会常務理事、羅援少将は「日本がもし釣魚島に強硬上陸するなら、中国は軍事手段をとる必要がある」と語ったし、尹卓海軍少将もテレビで過激な発言を繰返している(「産経」ネット2012・9・22)。いずれも習近平氏の意向を反映しているものとみられる。
習近平氏はより強硬な対日外交を主張することで、解放軍と上海閥など対日強硬派を味方につけて権力基盤を強化し「団派」に挑んでいる。習近平総書記の時代は、中国はナショナリズムをむきだしに日本に全面対決するかもしれない。
その「中華民族主義」とはこういうものである。中国「人民ネット」の論説をお目にかける。
「大国(すなわち中国)の怒りは万雷の如く凄まじい。報復しないのではなく、まだその時期が来ていないだけだ。外交部(外務省)声明の発表、領海基線の公布、権益維持のための巡視活動、東中国海の一部海域の大陸棚拡張案の申請、中国政府は痛快至極なコンビネーションブローを繰り出した。これは貧しさと弱さが積み重なり、他国に思うがままに虐げられた時代にとうに別れを告げた中国にとって、自らの主権と領土の完全性を守るための必然的な対応である。雷を落とさなければ慈悲の心を示すのも難しい。過ちを認識して正すよう『隣人』を促し、東アジア地域の安定と安寧を確保し、反ファシズム戦争の勝利の成果と戦後の国際秩序を守ることも、東アジアの大国として中国が尽くすべき国際的責任である(人民網「日本語版」2012・9・25)」。
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〔opinion1020:1201004〕
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