俳文──札幌便り(3)
- 2012年 10月 29日
- 評論・紹介・意見
- 木村 洋平
ふと、一昨年の句を見つけた。
栗一つ落ちて間もなき山路かな
奈良の大和路を歩いていた時のものだ。栗と言えば、戯れの句も詠んだ。
めずらしや栗の入った栗ご飯
家で炊いた栗ご飯の黄色いのに、なんとも言えずいい心地を覚えて。もちろん、栗ご飯に栗の入っていることは「めずらし」くない。
めずらしやかたわれまわる秋の蝶
今年の秋に詠んだものでは、この句が本当にめずらしい。つがいなのだろう、片方の蝶の回りを、もう一方がくるくると回りながら、二匹で草むらへと飛んでいた。はっとしたものの、ちょうど体調も悪しく、道を急いだ。
毎日が病み上がりとや秋の風
異郷に越して、少しリズムを損なったろうか。からだはもともと強くない。そこで、山に登ってみよう、と思った。札幌には円山という小さな山がある(標高二二五メートル)。
セキレイの場所を取り合う朽ち木かな
山に入ると、小鳥が飛び交い、空気もしんと清められる。頂上までは、ものの三十分。
頂の空に飛び込む赤とんぼ
みのむしの風来坊に似たるかな
昨秋を見下ろす山のもみじかな
去年も、同じような時期にこの山を登ったので、一年前を顧みる心地がした、下山の道。
ひそやかに水も色づく竜田姫
黄色や赤が水底に光る。北海道神宮の敷地へ入る。ちらりと視界を横切るのは、エゾリスだ。いまのうちに脂肪を蓄えているのか。
秋麗(あきうらら)檜を降る(くだる)リス太し
風が渡ると、ナラを揺さぶってぽろぽろとどんぐりがこぼれる。一つ拾えば、
どんぐりにまだらもようの若さかな
ぽいと天高くほうり投げてみた。先頃、ご無沙汰をしていた美瑛への小旅行も果たした。ここが僕の故郷、と思わせる不思議な佇まいの美瑛町。
遠雲の低くたなびき空高し
この町や僕は美瑛のななかまど
夜の闇と鉄の格子や秋涼し
秋思して夜の列車の早きこと
二句目、「僕は」と詠み込んだのは、冒険。「鉄の格子」は、改築されてずいぶん立派になった旭川の駅舎にて。
珈琲の浅き夢見し夜長かな
夜にふと珈琲を飲みたくなる気分があるが、眠りは浅くなる。珈琲の浅煎りと掛けた。中秋の名月も近い。
ふっくらと月は旅路の銘菓かな
空想に遊ぶ。子規が好きだった柿など食べながら。
もぎたてで奈良を出でけむこの柿も
本歌は、鎌倉を生きて出でけん初鰹(芭蕉)。そろそろ、帰省しようと思う頃。トーベ・ヤンソンさんのムーミン・シリーズでは、「スナフキン」という放浪者が、冬になると旅に出る。僕はよく「スナフキンみたい」とあだ名された。
晩秋や南の国へスナフキン
初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2012/10/blog-post_29.html より許可を得て転載。
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