最 少 不 幸 社 会
- 2010年 9月 2日
- 交流の広場
- 加藤義郎
まだ3ヶ月も経っていないが、鳩山内閣支持率20%では7月の参院選を戦えないと、民主党は代表 (=首相)を鳩山氏から菅氏に代え、〝悪役〟幹事長も辞任させた。途端に内閣支持率は60%に跳ね上がったが、これを菅人気ゆえとは誰も思わない(と思う)。なぜなら、鳩山内閣誕生時は勿論、それ以前の自民政権時代でさえ、安部、福田、麻生と首相が替わった直後の支持率は同じくらいに高かった。つまり日本国民は新しい首相には無批判に、お祭り気分とご祝儀相場でそれを持ち上げるから。
前置きが長引いた。菅首相は以前、「政治の最大の役割は、不幸になる要素をできるだけ少なくすること」と述べ、「最少不幸社会」という言葉を使っている(●朝日新聞web/2008.4.12日付)。
菅氏が首相になると直ぐマスコミがこれを話題にした。「最大多数の最大幸福」というベンサムの言葉を菅氏が翻訳すると「最小不幸」となるらしい。「最小」との限定付きとは言え、「不幸社会」を肯定し、強調するようで暗い予感がする。菅氏の個性なのかもしれないが…。
菅首相はその「最少不幸社会」を実現する手段として「消費税増税と大企業減税」を宣言した。「消費税は今の5%を先ず10%に上げよ」「大企業の法人税を下げよ」との経団連の主張を、新首相がそのまま繰り返したのには驚いた。昨年夏の総選挙で民主党は、「消費税は4年間上げない」と公約したが、一年足らずでこれも破ると言う。これでは国民の生活は増々苦しくなると予想されるが、菅首相はこれを「最小」と強弁するのか。人数も比率も数字で決めている訳ではなく、曖昧な「最小」という言い方は普天間問題でも使うつもりらしい。
昨年総選挙で国民の注目を集めた民主党の「普天間基地の国外移設」の公約が、政権を取った後の党として戦略と覚悟を持っていなかった為に頓挫した。これを鳩山個人の責任にして、菅政権は沖縄県民の意思に構わず、鳩山辞任直前の「日米合意」を実行する、とオバマ大統領に電話で約束してしまった。また菅氏は以前(2006年)「沖縄の海兵隊は日本を守る部隊ではない。日本にとっての抑止力とはあまり関係ない」と正論を言っていたことが15日の国会審議で改めて明らかにされ、菅首相は「過去には色々言ったが…、しかし今はこれが善い」と開き直った。
しかしそれで内閣支持率が下がったわけでもない。〝国民〟は米政府と沖縄米軍基地の「国外移設公約」などは大して重要な問題だと見ていなかったとは思えないが…。沖縄県民の80%が反対しても〝国民〟の60%が支持しているじゃないか。全国民に対する沖縄県民の占める割合は「最小」として、半永久的に「不幸社会」を残そうとするのは、あれほど国民から見限られた自民党と変わらない。「最小不幸社会」という着想がよくないなー。
[ 蛇 足 ]
普天間問題について、最近はテレビでも「沖縄に米軍基地は要らない、とアメリカ政府に直接言うべきだ」というコメンテーターが少し出てきた。先日も鳥越俊太郎さんがそう言った時、女子アナが「そういう議員も政党も無いんですかねぇ」と口を滑らせた。鳥越さんはハッとした様子だったが「うにゅにゅ…」と言葉にならない声を出したので私は笑ってしまった。
日本共産党の議員団が訪米し、5月7日アメリカ政府のケビン・メア日本部長らに面会し、沖縄に基地が不法に造られた経緯やこれまでの沖縄の基地が住民に与えた苦痛などを説明し、日本の外に基地を探すようにと申し入れた。このことはジャーナリストなら知らない者はいないほどのニュースだが、マスコミ特に民放には緘口令が敷かれたように、誰も一言も発言しない。鳥越氏も、ぐっと堪えていた。
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