さあ、何を仕出かすか、安倍政権
- 2012年 12月 17日
- 時代をみる
- 田畑光永自民党
暴論珍説メモ(120)
総選挙が終わった。今回は自民党の圧倒的勝利と予測されていたが、果たしてその通りとなった。喜んでいる人もいるだろうし、がっかりした人もいるだろう。
選挙だからそれは当然だが、それでは今度の選挙で有権者は、つまり日本国民は一体何を選択したのだろうか。3年前、09年の時にははっきりしていた。「自民党政権はもうたくさんだ」の一言につきた。その気持が民主党に300を超える議席を与えた。自民党は一気に119議席にまで落ちた。政権交代が実現した。
しかし、その4年前、05年9月の選挙の時は同じ国民が自民党に296の議席を与えたのだった。当時の小泉首相によるあの郵政選挙である。選挙のたびに国民の気持はこっちからあっちへ、あっちからこっちへと大きく揺れる。それでもおよそ2.5~3.5年に1回の衆院選挙だけならまだいいのだが、この3回の衆院選の合間には参議院選挙があった。
郵政選挙の翌年、07年に安倍首相のもとで行われ参院選では自民党は改選議席64から27議席を失って大敗し、民主党は28議席も増やして、自公政権は参院での多数を失った。
ところが09年の政権交代選挙翌年の10年の参院選では、今度は民主党が10議席減らして、自民党が13議席増やし、参議院に前回とは逆のねじれが出現した。
こう見てくると、直近5回の国政選挙では05年の郵政選挙を除いて、あとの4回は政権与党が連続して負けている。これ(だけではない)が内閣の命を縮め、日本の政治をきわめて不安定にしてきた。この間の安倍、福田、麻生、鳩山、菅、野田の各首相は、だれも新年の屠蘇を2年続けて官邸で味わうことはできなかった。
では、なぜ政権党が負けるのか、その理由も大局的にははっきりしている。日本経済が成長できなくなったからである。かつての55年体制が盤石に見えたのも、日本経済がオイル・ショックなどに見舞われながらも、とにかく成長を続けられたからであり、ここ数年の政権弱体化は非正規労働者の増加、貧困層の増大、格差の拡大といった累積する社会矛盾を解消に向かわせるだけの政策的余地がなくなってしまったからである。
今度の選挙もご多聞にもれず、「やらせてみたが、民主党もだめだった」の声が大勢を占めて、民主党政権はあえなく崩壊した。その「だめだった」の中身だが、確かに09年選挙の際のマニフェストは、財源を目算の立たない「ムダの削減」に求めて、子ども手当をはじめ大盤振る舞いを約束したために、約束違反がもっぱら他党からは攻撃された。
しかし、約束違反といっても実現率ゼロというわけではないし、従来のいわゆる選挙公約の実現率にくらべて特に見劣りするというわけではなかった。むしろ民主党が国民をげんなりさせたのは、果てしない内紛であった。それは主として小沢一郎氏が選挙の功労者であるにも拘わらず、検察から「不当な」嫌疑をかけられて、つくべき地位につけないことからくる憤懣が原因であったが、とにかく民主党には政権党としてのガバナビリティがなかったことは事実なので、転落はやむをえない。
問題はその結果が自民党政権の再来となったことである。たった3年前に自民党を「もうたくさんだ」と思った国民は、早くも心変わりしたのか。常識的には、今回は自民も民主もだめだったのだから、そのどちらでもないいわゆる「第3極」を求める方向に向かうのが民意の自然の流れであった。
現に選挙が近づくにつれて、第3極の結集を目指す動きが次々と現れ、最終的には新党らしきものが複数、選挙に参戦した。しかし、そこも政権の受け皿になるほどの支持は得られなかった。国民になるほどと思わせるだけの政見を提示できなかったばかりか、議席が欲しいだけの烏合の衆という姿が国民に見透かされてしまったからである。
しかし、それにしても今回の自民党の勝ち方は異常と言っていい。これが3年前に有権者から唾棄された政党とはとても思えない勝ちっぷりである。それは今度の選挙で自民党が経済運営と安保・外交面で、他党より明確な政見を打ち出したことによると思われる。
経済面では年2%というインフレ目標を掲げて、政府と日銀が協定を結び、金融の超緩和によって日銀に無理をしてでもそれを実現させることで、デフレからの脱却を果そうという。日銀法を改正して、協定を守れなかった場合には、日銀に責任を取らせる(総裁をクビにする)ことまで視野に入れている。日銀の独立性よりも、政府の言うことに無理にでも日銀を従わせようというわけだ。
安保・外交面では歴代の自民党政権でも見送られてきた集団的自衛権の行使を容認することに踏み切って、日米同盟を強化するとともに、憲法を改正して自衛隊を国防軍として位置づけること、それを背景に尖閣諸島や竹島などの領土問題を強硬策で対処しよというのだ。
「成長産業を育成して、経済成長を促し、合わせて雇用増をはかる」といった、百年河清を待つにも等しいような民主党の経済政策や「庶民の暮らしを圧迫する消費増税反対」としか言わないもろもろの中小政党の政策に比べれば、自民党の経済政策は旗幟鮮明である。
しかし、旗幟鮮明ならいいというものではない。貨幣流通量を増やせば、それで人々のインフレ期待が高まり、物価が上昇し、デフレが解消するという一部のマネタリストの議論を頭から信じ込んで、その道に入り込んで失敗したら目も当てられない結果が待ち受けている。
もともと需要不足で資金需要がないところへ、お金ばかりだぶつかせても本物の需要が増えるわけではない。だぶついた資金は食糧やエネルギーの投機に向かったり、あるいは円の価値を下げて、一部輸出企業は喜んでも、輸入する資源の価格が上がって、人々の生活をより圧迫するといった政策破綻に至る確立は相当に高い。
心配なのは安倍氏自身、そうしたことに考えをめぐらせて、また周囲からの献策をの意味を十分吟味したうえで、その政策の採否をきめたのではなさそうに見えることだ。それは当初、インフレ目標と合わせて「建設国債の日銀直接引き受け」という禁じ手までも堂々と口外して、党内から諌められ、「直接引き受け」を「市場からの買い上げ」に修正したことでもわかるように、耳触りのいい政策を吹き込まれるとすぐに短絡的に信じ込んでしまう癖があるのだ。
安保・外交面はもっと恐ろしい。集団的自衛権の行使、憲法を改正して自衛隊の国防軍への改称など、これまで戦後日本が拠って立ってきた国是を弊履のごとくに捨て去って、軍事強国への道をひた走ろうとするものだ。その上で中国や韓国との領土問題に立ち向かおうとしているように見えるが、それは尖閣諸島にしろ、竹島にしろ、日本軍国主義が掠め取ったものだという、中国、韓国の言い分の説得力を増すだけである。すくなくとも冷静な解決への道を用意するものとは思えない。
ともかく日本国民はこういう政権を選んでしまった。かくなる上は来年夏の参院選に期待するしかない。その間にできるだけ安倍政権の本質を見抜き、知らせ、この政権を早期退陣に追い込むしかない。
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