竹中平蔵氏再登場で、経済政策にひと波乱か
- 2013年 1月 28日
- 時代をみる
- 池田龍夫
気になる「産業競争力会議」の行方
政府は1月23日、産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)の初会合を開き、日本経済再生に向けた成長戦略とりまとめの議論に入った。成長戦略は、安倍政権が掲げる「大胆な金融緩和」と「機動的な財政政策」に続く〝3本の矢〟の一つ。全閣僚をメンバーとする日本経済再生本部の下部組織で、具体策づくりの責務を負う。10人の民間議員を委嘱、その顔ぶれをみて〝安倍好み〟人事の印象を受けたので、その職歴を紹介しておきたい。
竹中平蔵慶大教授・橋本和仁東大大学院教授(応用化学)・三木谷弘楽天社長・坂根正弘コマツ会長(経団連副会長)・長谷川閑史武田薬品工業社長(経済同友会代表幹事)・榊原定征東レ会長・佐藤康博みずほFG社長・秋山咲恵サキコーポレーション社長(電子基盤検査機器製造)・岡素之住友商事相談役・新浪剛史ローソン社長の布陣。初会合から活発な議論が交わされたというが、具体案とりまとめに当たり〝船頭多くして…〟の轍を踏まぬよう気をつけてほしい。
これより先の1月9日、安倍首相は経済再生会議を3年5カ月ぶりに開き、経済財政の針路を定める「骨太の方針」を今年半ばまでにまとめる考えを正式表明した。そのメンバーは安倍首相、麻生太郎財務相・菅義偉官房長官・甘利明経済再生相・新藤義孝総務相・茂木敏充経産相・白川方明日銀総裁・伊藤元重東大大学院教授・小林喜光三菱ケミカルホールディングス社長・佐々木則夫東芝社長・高橋進日本総研理事長の11人。民営化路線を突っ走った小泉純一郎政権を思い出すが、当時それを仕切ったのが竹中経済財政相だった。
麻生財政相が竹中氏の「諮問会議入り」に反対
朝日新聞1月10日付朝刊は、「復活した諮問会議にもろさが見え隠れする。ほかにも会議が乱立し、主導権争いが強まっているからだ。すべての閣僚が参加する日本経済再生本部、その下で成長戦略づくりを担う産業競争力会議。月内には規制改革会議も復活させる。水面下では、予算をつくる財務省、成長戦略を進める経産省もからみ、つばぜりあいが始まっている。安倍首相は竹中氏に諮問会議の議員を要請するつもりだったが、麻生外相が反対し、甘利経産相も難色を示したという。これで竹中氏は産業競争力会議に回った」と、その背景を分析していた。
日経1月24日付朝刊は竹中氏にインタビューし、やる気満々の言葉を報じていた。「日本の成長を高めるには『規制改革が1丁目1番地』で重要。民間企業を筋肉質にするために、政府は徹底して自由を与えなければならない。2%成長は決して過大ではない」と語っている。
小泉政権時の暴走は許せない
竹中氏〝復活〟に対して各メディアの反応は厳しい。サンデー毎日1・27号は、「新生自民党が本物かどうかのカギを握る一つが『産業競争力会議』だ。製造業の空洞化を防ぐ対策や、医療や再生可能エネルギーなど成長が見込める産業の強化策などを話し合う組織で、メンバーが閣僚人事以上に問題だ。自民党若手は、次のように危機感を露わにする。「ズバリ竹中・元経済財政担当相を加えたことだ。小泉純一郎内閣時に構造改革を推進し、今の格差社会と地方経済の疲弊を誘発させた揚げ句、外資だけを儲けさせ日本をボロボロにしたA級戦犯。また国の経済を引っ掻き回すのではないか」と指摘。「しかも竹中氏はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)推進論者。…それでも首相は竹中氏を起用した。麻生外相は内心、不快感を抱いているはず。小泉政権時代の政務秘書官・飯島勲氏が内閣参与に起用されたが、麻生氏は飯島氏とも犬猿の仲です」との内情をまで暴露している。ともかく、多くの永田町関係者からは「竹中人事は、内閣の火種となる」との声が上がっている。
真壁昭夫信州大学教授は同週刊誌で、「竹中氏から先日聞いた話から考えて、安倍首相は参院選の勝利を確実にするため、国債を増発してでも円安・株高を図る腹積もりです。購買力平価を基準にすると、90~93円が限界。円安=ドル高であり、米国の産業にとってマイナスです。これ以上の円安は米国が許容しないと思います」と、7月21日参院選をにらんだ安倍戦略を分析していた。
憲法改正、集団的自衛権容認にも意欲示す安倍首相
経済政策転換のほか、安倍首相は1月25日、毎日新聞とのインタビューで「国家安全保障会議」(日本版NSC)の必要性を強調。「早ければ参院選前に、設置法案を出すこともあり得る」との意欲を示している。また「憲法改正については、発議要件(衆参両院の3分の2以上の賛成)を定めた憲法96条の改正を目指す意向を表明、集団的自衛権の行使を認めることによって、日米は対等な関係になる」とも強調した。
安倍首相は官邸主導を強調して意気盛んだが、国内外に山積する課題は多い。欧米各国も「円安」誘導政策を警戒、対日圧力も強まっている。通常国会も波乱含みの様相で、参院選を控えて与野党の攻防は激化するに違いない。
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