いつまでも「日米同盟」一辺倒でいいのか?
- 2013年 2月 2日
- 時代をみる
- ダボス会議加藤哲郎原子力
◆2013.2.1 2011年まで、つまり3.11東日本大震災・福島第一原発事故までの本サイトでは、例年この時期に開かれる3つのイベントから、その年の世界の行方を定点観測してきました。第一は、アメリカ大統領の年頭一般教書、今年はオバマ大統領の再選が決まった後ですから、1月21日に就任演説が行われ、一般教書演説は2月12日ですが、例年以上に注目されます。就任演説では人種・民族から女性・同性愛者にまで広げた「平等社会」への決意と国際協調が述べられましたが、日米同盟への言及はありませんでした。第二の観測地は、スイス・ダボスの山中の高級リゾートホテルに例年世界の政治経済指導者がつどう、世界経済フォーラム(WEF)年次大会、通称ダボス会議です。1月23ー27日開かれた今年の大会テーマは「弾力性のあるダイナミズム」でしたが、実際の話題は米中経済競争と欧州金融危機、それに中東・アフリカで、「内向き」 志向で米国政府高官が出席しなかったために、「米国のリーダーシップのない世界」が問題にされたとか。日本からは甘利経済再生相が出席して「アベノミクス」を説明し、円安誘導ではないかと話題になったと報じられていますが、実際は「弁当」と「日本酒」をふるまった日本政府主催ジャパン・ナイトにゲストが集まった程度で、むしろ中国網(チャイナネット)の報じる「日本経済の世界に対する影響力は日増しに低下しており、些末事にとらわれる思考回路の制限を受け、日本の経済政策も非常に限られたものであり、小規模な投入を講じるばかりだ。この探りを入れるような戦術では、日本経済に与える影響さえ限られているのに、世界金融戦争を引き起こすはずがない」が世界の日本認識だったようです。日本政治の「右傾化」やナショナリズムばかりでなく、フクシマと原子力の将来をもとりあげないのが、このエリート賢人会議の限界でしょう。
◆ダボス会議では、「世界の銀行幹部はアフリカに関心」と報じられています。 かつてはこの世界経済フォーラム(WEF)に会わせて、世界のNGO/民衆運動が集う世界社会フォーラム(WSF)が開かれていました。これが第三の、定点観測地点でした。ところが今年はアフリカのチェニスで3月末に開かれるとのことで、時期も不揃いになりました。対抗してきたWEF同様、9.11米国同時多発テロとイラクへの報復戦争に反対して10万人以上がブラジルやインドに集った、かつての勢いと凝集力はありません。地域フォーラム中心に各国に根付いた面もありますが、リーマン・ショック、欧州危機、中東ジャスミン革命、アメリカOWS運動など世界的課題と運動が分散し、虹色のネットワークを接合しにくくなった困難も否めません。 日本のフクシマ原発事故と脱原発運動が、強力な世界的反核運動へとつながらないもどかしさも、日本の平和運動のかかえる歴史的問題のみならず、世界的な社会運動の関心・支援が弱いことによります。この間、アジアの原発を調べてきて、改めて痛感しました。欧米の「原子力の平和利用」熱は、スリーマイル島、チェルノブイリ以降明らかに下火となり、二酸化炭素排出量を減らし「クリーン・エネルギー」として原発を見直す世界的「原子力ルネサンス」もフクシマ原発事故で後退したように見えますが、アジアではなお、「原発ブーム」が続いています。2000年以降に新たに営業運転を開始した世界全体の原発47基中、地域別に見ると中国、日本、韓国、インドなどアジアが33基で60%を占めます。アジアの原発推進を主導しているのが、中国とインドの急速な工業化と共に、20世紀日本の「成功体験の記憶」のようです。現在アジアには、IAEAの地域別組織としての「アジア原子力地域協定(RCA、1972年発効)」、「アジア原子力協力フォーラム(FNCA,1990 年)」、「アジア原子力安全ネットワーク(ANSN、2002年発足)」などがありますが、そのすべての中心が日本であり、技術協力と資金援助、人材育成の中枢を担っています。フクシマ以後も活発に活動しており、安倍首相外遊の第一弾が(アメリカに断られて)東南アジアとなり、ベトナムへの原発輸出が「成果」となったのも、民主党政権の「2030年代に原発ゼロをめざす」方向が「ゼロベースでの見直し」になり再び原発推進の方向に向かおうとしているのも、この「アジア原発ブーム」が強く作用しているようです。
◆もっともベトナムへの原発輸出は、アルジェリアの天然ガス・プロジェクト人質事件で日本企業社員10人が犠牲になったことで、国内への宣伝効果は帳消しになりました。海外で働く日本人労働者を「企業戦士」と報じるマスコミもありますが、21世紀にはふさわしくありません。不謹慎です。かつて第一次石油危機の頃には、日本はイスラエルと遠いがゆえに、アラブ諸国から友好的に扱われた時代がありました。しかし9.11とイラク戦争への自衛隊派遣を経て、日本企業・日本人は「アメリカの手先」「イスラムの敵」とみられるようになったようです。アルジェリアの事件で真っ先に狙われた外国人人質が、日本人だったようです。自民党政府は、自衛隊の海外活動強化を集団的自衛権承認と共に進めようとしていますが、海外テロとの関係では逆効果です。「アメリカの代理人」であることを公認し、日本企業社員を文字通りの「企業戦士」として紛争地域に送り込むことになります。海外に出た労働者の犠牲は、いたましいものです。企業のリスク管理も必要です。しかし、冷戦崩壊後の多極化した世界で、いつまでも「日米同盟」一辺倒であることが、テロの標的になりうる時代に入ったのです。今回の紛争地は、西側先進諸国に中国・インド資本も競合するアフリカでした。原子力規制委員会での「新安全設計基準」設定では、地震・津波と活断層の評価が大きな問題になっています。もしも日本海側の原発銀座が、「アメリカの手先」の象徴としてテロ組織の標的になったら……。対岸の火事ではありません。憲法と脱原発の危機です。世界情勢の行方も不透明ですが、日本の2013年も、先の読みにくいものになりそうです。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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