TPP選挙公約を矮小化する安倍政権~交渉参加へのハードルを下げるため?~
- 2013年 2月 14日
- 時代をみる
- TPP醍醐聡
一つ前の記事に寄せられたコメント
一つ前に書いた記事(「『例外付き関税撤廃』なら交渉参加してよいのか」:ちきゅう座編集部注⇒http://chikyuza.net/archives/30963)に関して、さっそくある方からコメントが寄せられた。そこでは、林芳正農相が、「関税の撤廃に例外が設けられるかどうかに加え、食の安全安心に関する基準や、国民皆保険制度を守ることなど、自民党が先の衆議院選挙で政権公約に掲げたすべての点を確認できなければ、TPP交渉に参加するのは難しいという認識を示した」と伝えたNHKニュース(2月12日)を紹介していただいた。ライター名に「誤報に騙されているよ」と記載されていることから、私が誤報にはまっていると批判されたように思えた。しかし、この点は私が強調したかったことと深く関わるので、補足の記事を書くことにしたい。
選挙公約を矮小化する安倍政権、それを質さない愚鈍なメディア
結論から先にいうと、「例外なき関税撤廃」なら、TPP交渉に参加しないというのが先の衆議院選における自民党の選挙公約だったと解説するのが実は重大な歪曲なのである。
「日本を取り戻す」というタイトルがつけられた「自民党重点政策2012」(政策パンフレット)では、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します」というだけの文言が3回繰り返されている。そして、安倍首相も多くのメディアも、これだけが先の衆議院選での自民党のTPP関連の公約だったかのように語っている。
しかし、この政策パンフレット(計14ページ)よりもはるかに詳しい、「J-ファイル2012 自民党」と題された総合政策集の中では、自民党としてのTPPに関する判断基準として次の5つが記されている。
①政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
②自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
③国民皆保険制度を守る。
④食の安全安心の基準を守る。
⑤国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
⑥政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
この意味で、林農相の方が自民党の選挙公約を正確に語っており(自民党内でTPP交渉参加に反対する党外交・経済連携調査会も、②、③、④の公約も順守するよう求めている、)、「例外なき関税撤廃」なら交渉に参加しないというのが自民党の選挙公約だったと語るのは6項目中の2番目以下の公約を伏せる点で不正確であり、歪曲なのである。
交渉参加へのハードルを恣意的に下げるためなのか?
げんに、政府は2月12日に、衆議院予算委員会の要請に応えて同委員会理事メンバーに「TPPの交渉参加に対する基本方針」と題するペーパーを提示したが、そこで記載されたのは「『聖域なき関税撤廃』」を前提にする限り、交渉には参加しない」という一文だけで(「毎日新聞」2013年2月13日、2時30分配信)、上記の②以下の公約はすっぽり抜けていた。
ところが、唯一のといってもよい交渉相手であるアメリカは、事前協議の段階ですでに日本側に対して、「すべての品目を自由化交渉の対象とする用意があるか」と迫り、「牛肉」「自動車」「保険」の3分野で日本市場の閉鎖性を批判してきたと伝えられている(「産経ニュース」2013年2月7日、20時37分)。
農業分野での「例外なき関税撤廃」などあり得ず、食糧の自給率向上を掲げた自民党の公約とも矛盾する。しかし、だからといって、非関税障壁に関する問題が二次的でよいわけがない。「上記3分野で一定の譲歩をする代わりに農林水産物の関税維持を求める」(「産経ニュース」2013年2月7日、20時37分)というのが政府の内々の方針だとしたら、民主党政権に勝るとも劣らない重大な公約違反である。
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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