井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム) -学術フォーラム「「責任ある研 究活動」の実現に向けて」における高橋禮二郎世話人の発言要旨を紹介します-
- 2013年 3月 4日
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- 大村泉東北大学井上前総長研究不正疑惑
最新情報(91)(2013年2月26日)
学術フォーラム「「責任ある研 究活動」の実現に向けて」における高橋禮二郎世話人の発言要旨を紹介します
2013年2月19日(火)14:00~17:00、日本学術会議 講堂で、「「責任ある研究活動」の実現に向けて」をテーマに、日本学術会議、(独)日本学術振興会が主催し、文部科学省が後援する学術フォー ラムが開催されました。
高橋禮二郎本フォーラム世話人(東北大学元教授)が出席し、井上明久東北大学前総長の研究不正をめぐる東北大学や日本 金属学会の対応を批判するとともに、『Nature』誌の提言を踏まえ、米国の研究公正局のような、研究不正問題で「最終裁決」を行う常設機関を日本学術会議ないに設置してはどうか、という提案を行いました。
この提案に対しては、日本学術会議や日本学術振興会、大学教員等のパネリストからは、さまざまな意見が述べられましたが、なかでも、小林良彰日本学術会議副会長が、 「日本学術会議会員等の不正・不祥事には、日本学術会議として厳正に対応して処分する」、と再三明言されていたのは、注目されます。
学術フォーラムで の高橋世話人の発言要旨を公表します。
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学術フォーラム「「責任ある研究活動」の実現に向けて」
2013年2月19日(火)14:00~17:00 日本学術会議講堂
主催:日本学術会議、(独)日本学術振興会
後援:文部科学省
パネルディスカッションでの発言要旨(高橋禮二郎)
1.東北大学トップの研究不正と行政圧力
5年前に東北大学を定年退職した高橋禮二郎です。専門は金属工学です。ご承知の方も多いかと思いますが、東北大学では6年前から井上前総長の研究不正・論文ねつ造に関する重要な問題が発生し、解決されず現在に至っています。これは東北大学が「研究活動における不正行為への対応ガイドライン」(平成19年3月1日制定、以下「ガイドライン」)に則って対応しなかったことが原因と思われます。
ここでは、前総長の研究不正に関する東北大学の事例を紹介し、今日のフォーラムのテーマに即した提案をさせていただきますので、講師の皆様のご意見を伺いたいと思います。
東北大学執行部は、大学の「ガイドライン」にある不正告発の手続きにおいて、受理段階では被告発者の意見を聞いてはならないと定められているにも拘わらず、それを理事裁定で可能にし、また、審議から利害関係者を除くとされているのに、外部有識者の意見を聞くという名目で利害関係者らを加えて審議して、「井上氏の研究不正は問題なし」としてしまったのは、許されざることです。これによって、私たちの数度にわたる告発は、すべて不当で不適切な手続きにより門前払いされました。
そればかりでなく、それらを批判した人に対して、名誉教授の称号の授与を保留する、退職金の返還を求める、処分をちらつかせた査問に呼び出す、そして名誉毀損裁判を引きおこす、などの行政圧力を加えてきました。これは研究不正の更なる追及を恐れたためと考えられます。
2.井上前総長の研究不正疑惑
研究不正や行政圧力に関しては2冊の著書*や今年1月18,25日付けの『週刊金曜日』でも詳しく述べられています。著書では多くの不正疑惑を指摘していますが、だれもが不正を容易に理解できる一例に限って紹介します。(注:パネルを取り出して説明しようとしたが,コーディネータ―より制止されたので、以下の括弧[]の部分は発言を省略した。パネルの図面は次ページ参照)
[これは井上氏らの99年論文と97年論文に使われた試料の外観写真です。全く異なる研究として発表されているにもかかわらず両論文の外観写真は同一であり、しかも余分な写真も貼り付けられています。私達はこれを告発しました。
JIM97 論文 JIM99論文
Mater. Trans. JIM(97)749, A. Inoue、 Mater. Trans. JIM(99) 1382, A. Inoue,
T. Zhang and Y.H. Kim T. Zhang, M. W. Chen and T. Sakurai
図 1 Zr系バルクアモルファス試料の外観写真
井上氏と東北大学の対応委員会は、試料外観写真やX線回折図は同じものであることを認めた上で、「99年論文の主題は97年論文の結果の再解析だから、同じ図が使わ
れても問題はなく、99年論文のオリジナルは97年論文であると推測できるので問題ない」と弁明し、私達の告発を科学的合理的理由がないとして退けました。しかし、99年論文のどこを探しても、97年論文の再解析だという記述はありません。これは前論文の著作権侵害に相当します。また、同一試料でありながら、99年論文では準結晶の体積率が3倍になっていること、材料の強度が異常に高いこと、写真の貼り付けなどについては科学的に納得できる説明がありません]。
ところで、これらの研究不正疑惑とは別に、最近、99年論文のねつ造が確実である決定的な証拠を、新たに見つけました。これは、井上氏らの弁明、対応委員会報告の内容を完全に破綻させてしまうものです。私たちは2013年1月16日付で東北大学に、新たに井上氏らの研究不正告発を行いました。
3.解決への道筋
私達は東北大学だけでなく、日本金属学会や科学技術振興機構等に繰り返し適切な対応を求めてきました。しかし、該当論文を査読して出版している日本金属学会さえも、不正告発は大学が扱うべき問題として、告発は受理しないので現状では大学のトップの研究不正を裁けない状況です。一体どうすればよいのでしょうか。
「Nature」は3回にわたってこの問題をとりあげています。特に、第3回目の記事は編集委員会の声明であり、「東北大学の長引く研究不正論争は解決されなければならない」とする記事でした。大学に自浄能力がないことを指摘し、対応できる常設機関を設置すべきである、と提案しています。
他方、科学技術振興機構(JST)の内部調査委員会(御園生誠委員長)は、調査報告書の中で、日本学術会議に権限を持つ第3者機関を設置すべきである、と求めています。
私達は、以上の指摘を踏まえて「日本学術会議の中に、公正で最終裁定できる権限を持つ常設機関を設置することを要請したい」。私の発言は以上です。
4.最後に、東北大学の名誉のために補足をします。
東北大学は昨年3月に井上前総長が任期満了となり、里見進総長の執行部体制に変わっています。1年近くかかっていますが、最近ようやく、公正な第三者委員会を設置して、井上前総長の研究不正疑惑を解明する動きが始まったようで、大変好ましいことです。総長に任期はあっても、研究不正に時効はありません。大学の良識を生かし、自浄作用により、東北大学の名誉を回復することを期待しています。
*:「東北大総長 おやめください 研究不正と大学の私物化」 日野秀逸ら著
社会評論社(2011)ISBN978-4-7845-1481-6
*:「研究不正と国立大学法人化の影 東北大学再生への提言と前総長の罪」
日野秀逸ら編著 社会評論社(2012)ISBN978-4-7845-1488-5
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下をクリックすると発言要旨を読むことができます。
初出:「井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)」より許可を得て転載http://sites.google.com/site/httpwwwforumtohoku/
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〔eye2204:130304〕
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