参加国国民の医療アクセス権を脅かすTPPの知財保護条項
- 2013年 3月 8日
- 時代をみる
- TPP医療アクセス権醍醐聡
TPPニュース・クリップ コーナーを新設
このブログの右サイドバ-の最上段に「TPPニュース・クリップ」というコーナーを設けた。新聞・雑誌記事等から得たTPP関連ニュースのうち、これは是非と思うものを掲載する。できれば、毎日更新したいと思っている。
最初に紹介した「東京新聞」2013年3月7日の記事:「TPP参加に極秘条件 後発国、再交渉できず」をぜひ、ご覧いただきたい。
印象に残る2人のスピーチ~3.5官邸前行動に参加して~
このブログでも紹介した3月5日の「STOP TPP! 官邸前拡大行動」に参加した。地下鉄丸ノ内線を下車、地上に出ると官邸前交差点の一角の歩道に参加者が色とりどりの旗やプラカードを掲げ、通る人用の通路を空けてぎっしり詰めかけていた。
呼びかけ団体の代表や遠路、北海道、茨城、群馬などから参加した農業団体、農家の人々、それに各党国会議員が次々とスピーチをした。その中で、私の印象に強く残った2人のスピーチを簡潔に紹介しておきたい。
1人は、パルシステム連合会の代表。「国益」「国益」というが誰の利益なのか、わからない。「国民益」というべきではないか、と発言した。私もこのブログで「国民益」という言葉を使ったばかりだったので大いに共感した。
もう一人は、みどりの風の舟山康江・参議院議員のスピーチ。安倍政権が参加しようとしているTPPは日本とアメリカの国と国との関係ではなく、日本国民と多国籍資本との関係だ、と発言した。まさにその通りと私も思っている。多国籍資本は、TPPを世界各地で自らの販路を拡大するための好機と捉え、自らの国の政府に強力なロビーイングを行っている。例えば、多国籍製薬資本は知的財産権の保護を盾にTPP交渉で特許期間の延長を要求しているが、これが通ると、ジェネリックネ医薬品の普及は遅れ、参加国国民、とりわけ貧しい人々の医療へのアクセス権を損なうとともに、薬価の高止まりを通じて医療財政の悪化に拍車をかける恐れがある。
国境なき医師団の警告
ところが、世界の紛争地や感染症がまん延する地域、自然災害の被災地などで緊急医療援助を行っている「国境なき医師団」(MSF)によると、現在、途上国に供給されるHIV治療薬の約80%、小児患者の治療に用いられている薬の約92%は安価なジェネリック薬である。こうしたジェネリック薬が普及したことで、HIV治療薬の1人当り年間費用は2000年には1万ドル(約84万円)だったのが2011年には約60ドル(約5,000円)まで下がった。
わが国でも、厚労省は安価なジェネリック医薬品を普及させることによって薬価を引下げ、国際比較で医療費に占める割合が高い薬剤費を節減しようとしてきた。それだけに、TPPや二国間FTAを通じて上記のようにジェネリック医薬品の普及が遅れると、薬価が下がらず、医療財政にも悪影響を及ぼすことが避けられない。安倍政権は繰り返し、「わが国固有の国民皆保険は守る」と言っているが、もっと具体的に何を守るのかの議論をしないと、名あって実なしの「口公約」で終わってしまう。
こうした事情から、国境なき医師団は次のような見解を発表している。
「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が薬の流通を脅かす」
http://www.msf.or.jp/files/20120405_TPP_Issue_Brief.pdf
この中でMSFは次のように警告している。
「MSFは、アメリカがTPP交渉を通じて各国に公衆衛生保護政策の緩和を迫り、結果的に途上国の人命が差湯される事態になることを懸念している。」
「医療分野での知的財産権の保護は、薬価を高止まりさせて治療の機会を狭めている。その結果、購買力の弱い途上国の人々が苦しんでいる。アメリカは、途上国での知的財産権の規制を厳格化・高度化して既得権益を守り、開発費を薬価に反映させる誤ったビジネスモデル固持している。途上国の事情は考慮されていない。」
(詳しくは、醍醐聰「TPPは薬価制度をどう変えるか」<医薬品業界の経営動向 最終回>、『文化連情報』2013年1月を参照いただきたい。)
まさに、TPPが国と国との関係というより、<世界各国の国民益>対<多国籍資本>という構図になっていることを物語る典型例といえる。他にも、次の記事を参照されたい。
国境なき医師団「インド:『途上国の薬局』の危機、製薬会社が特許法に対し訴訟」(2011年9月8日)
http://www.msf.or.jp/news/2011/09/5317.php
国境なき医師団「バイエル社、インドでジェネリック薬の製造を牽制」(2012年9月4日)
http://www.msf.or.jp/news/2012/09/5696.php
国境なき医師団「大手製薬会社2社、”途上国の薬局”インドで法廷争議― 特許薬の独占権の保護か人命か、裁判の結末がもたらす危機」(2012年9月21日)http://www.msf.or.jp/news/2012/09/5712.php
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2208:130308〕
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