3.11を忘れないために、「原子力と冷戦」を歴史的に考える新学期に!
- 2013年 3月 21日
- 時代をみる
- 3.11加藤哲郎原子力
◆ 2013.3.20 昨晩アメリカから帰国したら、福島第一原発停電、使用済み燃料プール代替冷却システム停止のニュース、恐ろしいことです。メルトダウンの原因もわからぬのに、冷却装置のダウンですから。電力会社の配電盤の故障ということなら、いったい東電に発送電を支配する資格はあるのでしょうか。しかも、記者発表や地元住民への連絡は3時間以上たってから、「事故隠し」体質は変わっていません。10分後に連絡を受けた原子力規制委員会も、住民には何も知らせず。とんでもないことです。原発再開推進の産経新聞さえ、「ほど遠い「事故収束」」の見出し。改めて野田内閣時の「収束宣言」、大飯原発再稼働の欺瞞が浮き彫りになりました。それなのに経産省は着々と原発再稼働の準備へ、原子力規制委員会は大飯原発に新安全基準は9月まで適用しないとのこと、日本経済新聞によれば「現実路線に修正」なそうです。南海トラフ巨大地震が予測され、地域住民避難計画もまだほとんどできていないというのに。
◆確かにアメリカで見た3・11は静かでした。庶民の全国新聞USA Todayで日本の東日本大震災二周年に触れた記事は、わずかにハワイに今でも流れつく震災がれきの話のみ。新ローマ法王選出のコンクラーベの陰に隠れてかというと、そればかりでもなく、日本では浮かれているアベノミクス株高やTPP参加表明もニュースにならず、わずかに見つけたのはホンダ車のリコールのみ。そもそも日本という国の存在感がないため、庶民向け記事にはならないようです。それでもネットを駆使して探すと、台湾の10万人反原発デモと馬総統の日本を見習う原発推進発言、ドイツ各地での反原発集会・デモ、フランスの2万人「人間の鎖」と、忘れられたわけではありません。シェールガス革命で経済合理性から原発を「卒業」しそうなアメリカが、無関心ということでしょう。そのアメリカの中級ホテル・チェーンのIT不具合で、4日ほどインターネット・メールがつながらなくなりました。なんとホテル側がID・パスワードをプロバイダーに誤送したものと判明、そのサポート会社に電話したらカルフォルニアのインド訛り、愛想だけよくてちっとも復旧せず、やむなくスターバックスに通いましたが、けっきょくホテルもプロバイダーも謝る言葉はなし、いかにもアメリカの無料サービスでした。これきっと、TPPに入れば、医療・保険サービスで出てくるでしょう。 アベノミクス好況感もハゲタカファンドの餌食の可能性大。早速キプロス金融危機が水を差しましたが、一喜一憂するより、大きな歴史と資本主義の仕組みから見たいところ。この点で、飛行機の中で読んだ水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎』(NHK出版新書)が面白い頭の体操でした。水野さんの「利子率革命」論と大澤さんの「未来の他者」論が時空を縦横に交叉してかみあい、啓発されます。定説なき時代の頭の体操には、中山智香子『経済ジェノサイド』(平凡社新書)の「経済学」批判、杉田敦『政治的思考』(岩波書店)の「政治学」批判、日本については白井聡『永続敗戦論』(太田出版)の若さに任せた新鮮な問題提起が、刺激的でした。
◆そんな思索の世界にちょっぴり距離をおき、私の方は地味な史資料探索の旅で、「崎村茂樹の6つの謎 」を論じた「未来」論文を増補した「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」(田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』未来社、2013年、所収)、及び25日発売、加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の延長上での公文書館調査でした。新著はまだアマゾンには出ていませんが、ご注目ください。私は「日本における『原子力の平和利用』の出発」で中曽根康弘を論じましたが、この問題の歴史的研究の先駆者『史創』研究会の住友陽人さんは、すでにツイッターで紹介してくれているようです。原発そのものが原爆と一対で冷戦の産物であることを、日本とアジアについて実証する試みで、1954年ビキニ被災から「原爆反対、原発歓迎」が始まるのも、1955年新聞週間標語が「新聞は世界平和の原子力」になるのも、当時の大きな世界とアジアの流れの中にあったことを、9人の著者が論じています。ぜひご参照ください。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
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〔eye2218:20130321〕
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