対米追従路線が鮮明になった菅改造内閣 -自民党政権時代に逆戻り-
- 2010年 9月 20日
- 時代をみる
- 岩垂 弘日米同盟民主党
9月17日、菅改造内閣が発足した。閣僚の顔ぶれをみてとっさに私の脳裏を走った懸念の一つは、「これで『対米追従路線』が一層強まるな」というものだった。まるで、自民党時代に戻ってしまったかのような印象である。
昨年8月の総選挙で民主党が圧勝し、鳩山政権が発足した。短い一時期を除けば1955年以来ずっと続いてきた自民党政権による長期支配がついに崩れた瞬間で、この政権交代は日本の近代政治史上まさに「革命的な」転換点と言ってよかった。
国民の多くが自民党に愛想を尽かしたのは、一つには、同党の外交政策にうんざりしてたからだと思われる。
戦後の、歴代の自民党政権は、国民からみると、なさけないくらい米国政府に対して弱腰だった。とくに国際的な問題、外交問題、安全保障問題では米国政府のいいなりで、これを快く思わない日本人は自民党政権を「アメリカ一辺倒」「対米追従」などと批判してきた。一部の人々からは「国連では、日本はアメリカの投票マシーン」「日本はこれで独立国か」「日本はまるで米国の51番目の州だ」などとやゆされてきたほどだ。
だから、総選挙にあたって、民主党がそのマニフェストに「日本外交の基盤として緊密で対等な日米同盟関係をつくるため、主体的な外交戦略を構築した上で、米国と役割を分担しながら日本の責任を積極的に果たす」「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」「東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」などと明記したことが、国民の多くに支持され、これが民主党の総選挙での圧勝につながったのだった。
今回の民主党代表選挙では、小沢一郎、菅直人両候補によって論戦が交わされた。
外交・安全保障問題では、小沢氏からは「(「米海軍第7艦隊で米国の極東における軍事プレゼンスは十分だ」という党代表時代の発言は)今も変わりない。兵器や軍事技術の発達で、前線に大きな兵力をとどめておく意味はないと考えたからこそ(米海兵隊が)グアムに移転するのではないか」「鹿児島・奄美や沖縄は日本の領土であり、領海・領土を自分たちで守っていく役割を分担して果たしていけば、米軍の役割は軽減する」「日米同盟を安全保障面でも基軸としてやっていくのは当然だ。ただ日本の安全に直結しない国際紛争に対して、集団的自衛権を認めて米国の応援に駆けつけるのは憲法の理念に反する。日本は国連を中心に役割を示していくべきだ」「外国とも堂々と渡り合う自立した日本」といった発言があった。いわば、昨年のマニフェストに沿った発言だったと言える。
これに対し、菅氏は「(米軍普天間飛行場の辺野古移設に関する日米合意が)沖縄県民に受け入れがたい合意だということは重々承知しているが、日米合意を原点として踏まえる必要がある。沖縄も米国も納得する知恵があるなら、教えてほしい」「8月末に日米実務者協議で一定の合意ができたが、すぐに工事を始めるということではない。沖縄の基地負担の軽減を先行してできないかと。米海兵隊のグアム移転は予定通り進める。その中で沖縄との信頼感を積み重ね、いろんな信頼を得られないかと努力している」と語ったのみ。日本のこれからの外交・安保問題に関してはほとんど何も語らなかったに等しかった。
結果はというと、民主党の党員・サポーターと国会議員は菅首相を新たな党代表に選んだのである。
さて、新しい民主党執行部と新内閣の顔ぶれだが、まず、これまで米軍普天間飛行場の辺野古移設を推進してきた政治家が枢要なポストに就いたのが際だつ。すなわち、岡田克也・前外相の党幹事長への就任と、北沢俊美・防衛相の再任だ。これにより、辺野古移設に向けての作業は一層加速されることになるだろう。
松下政経塾出身者が、日本の進路を決める重要な閣僚ポストに就いたのも目立つ。前原誠司・外相、野田佳彦・財務相、玄葉光一郎・国家戦略相の3人だ。松下政経塾出身者に共通するのは、外交政策面では日米同盟を基調とする路線、経済政策面では新自由主義的な構造改革路線を主張する点にあるとされる。なかでも前原外相は改憲論者として知られる。とすると、菅改造内閣では、今後、日米同盟深化路線が一層強まりそうだ。
9月18日付読売新聞夕刊は、スタインバーグ米国務副長官が藤崎駐米大使に対し「菅首相が(民主党代表に)再選されて、引き続き日米関係を重視していくという発言をしていることを喜んでいる。前原外相については自分もよく知っており、ワシントンに知己も多く、日米関係へのかかわりも強いので、歓迎している」と述べたと伝えるワシントン特派員電を掲載している。
米軍普天間飛行場移設問題では、辺野古地区を抱える名護市の市長と市議会が「移設反対」のスクラムを固める。辺野古移設はますます困難になったとの見方が強い。「日米同盟深化」を一層明確にした故に沖縄との溝をますます深めつつある菅改造内閣は、この問題をどう解決しようというのだろうか。
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