青山森人の東チモールだより 第234号(2013年4月22日)
- 2013年 4月 24日
- 評論・紹介・意見
- 東チモール青山森人
ルシア=ロバト前法務大臣周辺が騒がしくなってきた
言語調査に基づいて言語問題を論争してほしい
最近、明け方の室温は28℃前後です。30℃を下回るという東チモールとしては低い気温が続き、とても助かっています。明け方の室温が30℃以上に達し、かつ60%後半以上の湿度ですと、疲労がたまった一日の始まりとなります。4月21日の朝の室温は26.4℃、湿度73%、22日朝は27℃に59%でした。どちらがありがたいかというと、気温の低い26,4℃ではなく、27℃のほうです。湿度の低いほうが疲労はたまらないのは日本でもどこでも同じですが、湿度の高低が体調に大きく影響するその度合いはここ東チモールでは生半可ではありません。湿度59%……こう書いただけで、身体が軽くなる気がします。
さて、前号(『東チモールだより第233号』)に引き続いて、もう少し言語問題について述べたいと思います。
小学校における母語導入にかんして論争をするさい、(ポルトガル語はもちろん論外として)テトン語でさえも小学校低学年にとっては馴染みが浅く理解困難な言語になっているかもしれないという可能性を科学的調査に基づいて論争してほしいと思います。最大の共通語であるテトン語(いわゆるテトン=プラサ語)でさえ約36%の東チモール人しか母語としていないという国政調査の結果が出ています(『東チモールだより 第230号』参照)。テトン語以外の地方語を母語とする子どもたちは、たぶん地方や家庭環境によってテトン語の理解力の度合いが違うであろうとわたしは推測しますが、実態はどうなっているのか、わかりません。
ポルトガル語の採用は教育現場にとって障害になるという認識はこの10年間でかなり東チモール人の共有するところとなりました。ではテトン語はどうか。ポルトガル語の教材とともにテトン語の立派な教材も増えてきました。テトン語と他の地方語の関係について、テトン語を含めた32の地方語について、議論・論争は皆無に等しいくらいに少なすぎるのがいつも気になるところです。
東チモールの地方語(2010年国勢調査より、アルファベット順)
Adabe, Atauran, Baikenu, Bekais, Bunak,
Dadu’a, Fataluku, Galoli, Habun, Idalaka,
Idate, Isni, Kairui, Kawaimina, Kemak,
Lakalei, Lolein, Makalero, Makasai, Makuva,
Mambai, Midik, Nanaek, Naueti, Rahesuk,
Raklungu, Resuk, Sa’ani, Tetun Praça TetunTerik
Tokodede Waima’a, その他
小学校に入学して初めてテトン語に接する子どもも、もしかしているかもしれませんし、反対に5~6歳にして母語もテトン語も理解できる子もいるかもしれません。この両対極のあいだに様々な言語状態の子どもがいるというのが多言語社会・東チモールの現実ではないか。このへんの実態を反映させて小学校における母語導入論争をしてほしい。中央政府から発せられる言語政策は地方(distrito)・準地方(sub-distrito)・村落(suco)によっては障害になる恐れがあります。
いま、シャナナ=グズマン首相は地方分権をテーマに地方を遊説しています。テレビや新聞からは、地方語と教育を話題にしているニュースは聞こえてきません。悲しいかな、主な話題となっているのは市庁舎という箱物建設です。
二つの係争の発生か
4月5日、政府庁舎での記者会見でシャナナ=グズマン首相が「反汚職委員会」の取り調べとルシア=ロバト前法務大臣に下された5年の実刑について、首相としての“私見”を述べたことは前号『東チモールだより』でお伝えしました。わたしはてっきりエミリア=ピレス財務大臣の汚職疑惑について報道が盛り上がり雑音の音量も上がるだろうと思っていました。なにせこの問題は現在進行形であり、首相の挑発ともうけとられる「反汚職委員会」にたいする発言の影響は大きいだろうと。ところが騒がしくなったのはルシア=ロバト前法務大臣周辺でした。以下、4月16日以降の新聞記事をまとめて簡単に要約してみたいと思います。
(訂正;『東チモールだより第232号』でロバト前法務大臣が「今年2月から服役を始め」と書きましたが、「今年1月」の誤りでした。訂正してお詫びさせていただきます)。
まずルシア=ロバト弁護団は、控訴裁判所の裁判官たち(外国人と東チモール人との混成)にたいし介入があったのではないかと疑念を表明し、女性裁判官の夫であるアニセト=グテレス国会議員(フレテリン選出)を加えて、裁判官たちを告訴すると発表しました。ルシア=ロバト弁護団の主張の根拠は、ポルトガル人裁判官がルシア=ロバト受刑者の“救済”にかんしてこれを支持すれば契約更新はしないという脅しがあったという内容のメール(e-mail)です。アニセト=グテレス議員が裁判官である妻をとおしてどのようにこれに関与したかは、わたしはまだよく理解していませんが、新聞紙上では控訴裁判所の裁判官たちの代理人であるかのように、アニセト=グテレス議員とルシア=ロバト弁護団が対立しています。匿名の東チモール人裁判官も弁護団の主張は誤りだと反発し、メールを通して5年の刑について話し合ったことはない、誰がこのメールを送受信したのか、もし告訴されたら法廷の場で争う用意のあることを表明しています。
ここまでですと、ルシア=ロバト弁護団と、ルシア=ロバト前法務大臣に5年の実刑を下し“救済”の道さえも不当に閉ざした控訴裁判所の裁判官たちの対立!ですみますが、これだけではありません。アニセト=グテレス議員が、控訴裁判所のグラウデオ=シメネス所長がルシア=ロバト服役囚を自由にしてやるという密約を結んだと批判したのです。その論拠としてシメネス所長とロバト前法務大臣の通話記録が示されていますが、通話記録といってもテレビニュースで見るかぎりでは電話番号が並んだだけの紙です。これに対しシメネス所長はまったくの言い掛かりだとしてアニセト=グテレス議員を名誉毀損で告訴すると怒りをあらわにし、グテレス議員は受けて立つと返しました。
つまり、ルシア=ロバト前法務大臣の“救済”にかんし、二つの係争が発生しそうです。ルシア=ロバト弁護団VS控訴裁判所の裁判官たちとアニセト=グテレス議員が一つ。もう一つは、アニセト=グテレス議員VS控訴裁判所のグラウデオ=シメネス所長の係争。
情報化時代ならではの証拠
アニセト=グテレス議員が提示する証拠は、シメネス所長とロバト前法務大臣の通話記録です。しかしシメネス控訴裁判所長も主張するように、控訴裁判所長とルシア=ロバトが法務大臣に就任する前たるも後たるも公務としてまた私人として電話で会話してもなんら不自然ではないし不当ではありません。それにグテレス議員の示す証拠では通話の内容を一切証明できません。グテレス議員は、控訴裁判所長とロバト前法務大臣そしてポルトガル人裁判官マルガリダ=ベロソが電話で三者対話をしているなどの他の証拠もあると自信を見せています。
それにしても、ルシア=ロバト弁護団はメールを、そしてアニセト=グテレス議員は電話の通話記録をそれぞれ自らの主張の拠り所としているのは、情報化社会の側面をのぞかせている点で興味深いといえましょう。その反面でこの国の個人情報はしっかりと守られているのか、不安に思わせる証拠であります。
はたしてこれはシャナナ首相による記者会見の余波か
さらに気になることが一つ。シャナナ=グズマン首相が記者会見で、ルシア=ロバトは法務大臣としてよくやってくれたのに偏った見方をされる見返りを受けたと嘆いたあとに、服役中の前法務大臣周辺が騒々しくなったという時系列です。シャナナ首相の記者会見は前法務大臣“救済”の引き金にしようという意図が作用したのかと勘ぐりたい衝動にかられます。
シャナナ首相との関連でよく取り沙汰される幹線道路工事の現場。写真は大統領宮殿前の「祖国殉教者大通り」。この国で最も交通渋滞する道路であるが、その中でもこの部分は道幅の狭い橋となっていて、毎日とくに昼時、フン詰まりのような渋滞となる。したがって橋の幅を拡張させ道幅を広げる工事が行われている。2013年3月22日。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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