アダム・スミスの認識論をめぐって ―アダム・スミス研究の新たな展開― (6月15日現代史研究会レジュメ)
- 2013年 5月 28日
- スタディルーム
- アダム・スミスの認識論田中正司
イギリス経験論は、名目論の思想伝統に従って、感覚的に知覚できる個別を越える普遍の原理や法則の認識可能性を否定してきました。目的論的概念を前提した経験論を展開していたアダム・スミスがヒュームと同じ経験論者とされてきた一つの背景はそこにあったといえるでしょう。しかし、スミスは、彼の死後出版された『哲学論文集』に収録された「天文学史」をはじめとする哲学3論文で、個別の経験を超える自然の動態を普遍的な原理に基づいて解明する方法として想像力原理に基づく認識論を展開しておりました。一般原理を提示したうえで、その経験論証をする『国富論』の論理展開様式はその帰結でした。
本報告はこうしたスミス認識論の出自と主題を明らかにしたうえで、そのもつ認識論的意義をヒュームやカントとの対比においてクローズアップすることを中心にするものですが、マルクスもスミスと同じ想像力原理による中間項の挿入論で個別―普遍のアンチノミーの克服論を展開し、その原理に基づいて『資本論』の論理を展開していることを内田弘氏に教示され、改めてスミス認識論の真理性を確信した次第です。
なお、スミスは別の哲学論文で、人間の感覚(五感)も、他の生物と同様に本来、外物や他者を知覚するための外部感覚で、バークリやヒュームが想定していたような内部感覚ではなく、事物を正しく認識し他者と交流するためには、視覚で見るだけではなく、直接触ってみる要があり、そのためには立場を交換することが必要であるという論理を展開しておりました。『道徳感情論』の想像上の立場の交換に基づく同感論は、バークリやヒュームの視覚中心(万能)論批判を一つの契機とするものであったのですが、こうした「外部感覚論」の論理は、前述の哲学3論文の認識論ともどもスミスの多分に生物学的・有機体的自然観とも関連するので、野沢敏治氏の助力をえて認識論と自然観との関連についても論及させていただきたいと考えております。
参考文献
田中正司『アダム・スミスの認識論管見』社会評論社2013
内田 弘「『資本論』の自然哲学的基礎」専修経済学論集 第111号、2012.3
野沢敏治「経済学と自然―知られざるアダム・スミス」千葉大学経済学研究 27巻2・3号、2012.12
第276回現代史研究会
日時:6月15日(土)1:00~5:00
場所:明治大学駿河台校舎・研究棟2階 第9会議室
テーマ:「アダム・スミスの認識論をめぐって―アダム・スミス研究の新たな展開」
講師:田中正司(横浜市立大学名誉教授)
コメンテーター:内田 弘(専修大学名誉教授)、野沢敏治(千葉大学名誉教授)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study583:130528〕
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