青山森人の東チモールだより 第239号(2013年6月2日)
- 2013年 6月 12日
- 評論・紹介・意見
- 東チモール青山森人
教育向上への挑戦
大統領も首相も、ゴミに嘆く
5月の後半、「独立回復の日」つまり独立記念日をまたいで、南方の山から雲が流れ首都の空をおおう曇り模様の天気が続きました。短い時間ながら雨が降る日もありました。そして1日や2日の例外はあったものの明け方の湿気は概ね70%前後のムシムシする日が続きました。これはもうすぐ土砂降りが来るなと思っていたところ、30日の午後、とうとう空が我慢できずといわんばかりに、雷が鳴りながら激しい土砂降りの大雨が降りました。
普通ならば5月末ともなれば土砂降りを境にして季節は雨季からカラリとした乾季へとはっきりと移るのですが、まだグズグズと湿気のある天候が続いています。今年は雨の降り始めが遅かったといわれていますが、雨の降りおさめも遅いのかもしれません。
また同じことを書くようですが、30日の夕方、コンクリートを塗りたぐっただけの水はけの悪い首都の道路は瞬く間に水浸し状態となりました。強く雨が降ると排水溝の水が道路にあふれるばかりでなく、ドブ川に浮かぶゴミも元々道端にあったゴミと一緒に路上に大量に浮かび流れます。ゴミとともに濁った水に覆われる首都を見るとシャナナ政権による都市計画は失敗しているといわざるをえません。道路工事や庁舎の建設に多額の資金を費やしているものの、隘路にわざわざ入らずとも、ゴミの山が視界に入ります。立派な建物と同時にゴミの山も築かれています。
地方に市庁舎を建て地方分権を目指すシャナナ=グズマン首相ですが、5月20日にすごしたマナトト地方の主都マナトトについて、ゴミと動物の排泄物による悪臭を嘆きました(『Diario(ディアリオ)』、2013年5月24日)。タウル=マタン=ルアク大統領も20日の集会(独立記念式典とは別)で、清掃業者が道路を掃除してもすぐにゴミが溜まる町の状態を嘆き、自分たちの土地は自分たちできれいにしよう、ゴミを棄てる者には罰金を払ってもらうとゴミを棄てる市民に苦言を呈しました(『チモールポスト』、2013年5月22日)。罰金制度は本気でいったこととは思えませんが、それほど嘆かわしい状態であるという大統領なりの表現です。庶民の生活改善を地道に目指す政策を採らず、多額の資金を公共事業に費やす政策のツケが東チモールでも視覚的に顕われてきました。
理工系の向上を目指す
さて『東チモールだより』前号に引き続き、もう少しファトマカの技術高校について書きたいと思います。
今年2月、ファトマカの卒業式にタウル大統領が出席し、校舎の修繕・拡張工事(見積もり約118万ドル)の“鍬入れ式”に参加しました。いま基礎工事の真っ最中です。この校舎が完成すれば高校としてだけでなく、将来、技術大学の校舎としても活用することが可能となることでしょう。タウル大統領はここファトマカに技術大学を創設する構想を高校側と話し合ったようです。ファトマカ高校の卒業生で、ここの教師もしていたエドアルド=ソアレスさんはここ周辺地域の住民を組織した独立運動の活動家でもあり、現在、家具屋と警備会社を経営する実業家ですが、さっそく政治家や要人たちへ働きかけ募金活動を開始し、技術大学創設のため資金を募っているところです。
技術大学の構想についてわたしも高校側から説明を受けました。この国の教育水準を向上させることに夢を賭けているようでした。
東チモールの教育水準の低さは生徒たちのノートを見れば一目瞭然で、その原因は教師の質であることも一目瞭然です。公立学校で教師は何を教え、生徒は一体何を勉強しているのかと悲しくなります。わたしのこの感想は、この10年間、変化はありません。
ポルトガルの教育を受け、かつ東チモール国立大学の学生となった人の話をきくと、東チモール人大学生の水準は低いし、卒業生がインドネシアの大学に留学して卒業しても、水準は低いままだといいます。
ジョゼ=ラモス=オルタ前大統領が政府は教育分野で失敗したという意見を述べていました。前大統領はカトリック系の教育機関が質を保っているので国はカトリック教会の助けを得るべきだという案を述べました。たしかにカトリック系の学校の質は生徒のノートからそれなりに感じられますが、それは文系科目の話です。理科系は依然として疑問です。
「沈黙の壁」を築き住民を世界から切り離して放置したポルトガル植民地主義の亡霊に東チモールは今後何十年も煩わされるのかと思うと気が重くなります。しかし過去の亡霊にいいように将来を台無しにされていいわけはありません。質の高い高等教育の学びの舎を東チモール人はいかに築いていくか……かれらの挑戦におおいに注目すべきです。
ファトマカ高校の教頭の立場にあるアドリアノ=マリア=デ=ジュススさんは、技術大学で教える教師・講師の人材育成の分野と、技術大学として必要なカリキュラム・機材・教材にかんする専門知識の分野で、日本から支援をお願いできないかといっていました。
電気科1・2年生の実習授業の風景。
毎年約600人がこの学校を受験するが、入学できるのは80数名である。もともと男子校だったこの技術高校に女子の入学は認められたのは2008年、女子が初めて卒業したのは2011年のこと。一学年の生徒数が80数名だが、毎年の卒業生は80名以下だ。この学校は落第したら即退学、留年を認めないからである。2008年の卒業生は63名、2009年は64名、2010年は61名、2011年、男子68名・女子4名、2012年は男子72名・女子6名、そして今年が男子65人・女子11人である。年々少しずつ女子の卒業生が増加している。現在、一年生の生徒数は83名(女子8名)、二年生は82名(女子9名)、三年生が76名(女子11名)である。
2013年5月21日、ファトマカにて。ⒸAoyama Morito
電子科1・2年生の実習授業の風景。
ファトマカ高校には大工科・機械科・電子科・電気科の四科目がある。授業中、私語がまったくないのには驚かされる。しつけ・規律の質は文句なしにすばらしい。教育水準はというと、ちょっと見学しただけではわたしにはわからないが、ノートを見た限りで言えば、簡単な電子回路の解読をしているようなので妥当ではないか。立派なものである。実習室も機材も年季が入っているが丁寧に管理・維持されている。東チモールとしては別世界のような空間だ。東チモール全体が物の管理と維持がゆきとどく国であってほしい。ところでこの教室に波形を見る装置がなかった。デジタル技術の基礎を学べる機材がほしい。
2013年5月21日、ファトマカにて。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
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