死刑廃止論へのプレリュード (10)
- 2013年 7月 17日
- 交流の広場
- 山端伸英
66.現行刑法では、どのような刑事事項が「死刑判決」と結びつくのであろうか。ウィキペディアによれば主に次の諸ケースが考えられるそうだ。*ウィキペディア「日本における死刑」参照。
• 刑法(条文番号順)
o 内乱罪(77条1項:首謀者のみ死刑になりうる)
o 外患誘致罪(81条:刑罰が死刑のみの罪(現行刑法上で唯一)、死亡者が生じていない場合でも死刑となる(但し、法定減軽・酌量減軽は可能))
o 外患援助罪(82条)
o 現住建造物等放火罪(108条:判例上は通常、致死の結果を生じた場合)
o 激発物破裂罪(117条:判例上は通常、致死の結果を生じた場合)
o 現住建造物等浸害罪(119条:判例上は通常、致死の結果を生じた場合)
o 汽車転覆等致死罪(126条3項)
o 水道毒物等混入致死罪(146条)
o 殺人罪(199条)
o 強盗致死罪・強盗殺人罪(240条後段)
o 強盗強姦致死罪(241条)
大逆罪(73条)、利敵行為(83~86条)、尊属殺人(200条)- これら3項は削除されている。
• 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
o 組織的な殺人罪(3条、刑法199条)
• 人質による強要行為等の処罰に関する法律
o 人質殺害罪(4条)
• 航空機の強取等の処罰に関する法律
o 航空機強取等致死(2条)
• 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律
o 以下の海賊行為で人を死亡させた場合(4条)
船舶強取・運行支配(2条1号)
船舶内の財物強取等(2条2号)
船舶内にある者の略取(2条3号)
人質強要(2条4号)
・ 爆発物取締罰則
爆発物使用(1条)
ウィキペディアの解説では、戦後、内乱罪と概観誘致罪の適用はないとのことだが、これをざっと見て皆さんはどのような感想を持つだろうか。基本的に刑法作成者である国家の側からの安寧秩序・治安維持に対して「死刑」の量刑はかけられているのである。ここには中国のように麻薬、賄賂、売春などの文字は見えない。そして「死刑執行」そのものの事務と行使はきわめて隠密に行われている(これもウィキペディア「死刑執行」参照)。
『日本で、死刑を合憲とした昭和23年の最高裁判例で は、犯罪者に対する威嚇効果と無力化効果(隔離効果)による予防説に基づいて合憲としており、応報刑的要素についての合憲性は排除されている。なお、予防 説では死刑は一種の必要悪であるとして、犯罪に対する反省も無く改善不能で矯正も不可能な犯罪者は、社会防衛のために死刑にするのもいたしかたないとの死 刑存置派からの論拠がある。』(ウィキペディア「死刑」からの引用)。
戦後にあっても、つまり、現「日本国憲法」の発効下においても日本側の立法感覚は戦前の継続的発想のもとにあったのではないだろうか。昔風の「XX護持」感覚が紛々と匂っている。つまり、ここには先発的存在理由を主張する「国家」が日本人民の「社会形成」に対する不信の上に「威嚇効果と無力化効果(隔離効果)」を正統化させている。
68.先週の土曜日夜、アメリカのフロリダで、一年前にコンビニから友人と出てきた無防備の黒人青年を射殺した自警団のメンバー、ジョージ・ジンマーマンに対する判決が出た。彼はメキシコ系アメリカ人だが、陪審員評決で無罪となった。今後このテーマについて書きたいと思うが、ここでは「死刑」が問題なのではなく「国家権力」に連なる人間の「殺人行為」は「黒人青年」に対しては正統になってしまうのかどうかという問題がある。これこそ、場合によったら、人種差別による「国家の殺人」なのではないかという憤りがアメリカ国内にはある。
日本は雑多な人種社会ではないが日本国憲法前文は「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない・・・・」と言っている。この原文は驚くべきものなのだが、これだけ斬新な理念を僕たちは持っていて、いま、上に述べているようなことがアメリカで起きているということについて、どれだけの関心を日本人が持てるかという問題もある。「死刑」に対して日本の政治風土はかなりの無関心を持っている。
*Wikipedia日本語版の参照は2013年7月初旬段階です。また62番で『予想外』としたのは『想定外』の誤りです。
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