言論・出版の自由こそ、歴史認識構築の前提
- 2013年 8月 21日
- 時代をみる
- 加藤哲郎情報操作言論統制
◆2013.8.20 猛暑と言うより酷暑の日本に帰ってきました。なるほどクーラーなしでは仕事になりません。でも、電力が足りないとか節電の話は、電力会社からも財界からも、あまり聞こえてきません。むしろ熱射病対策でクーラーを使えとか。お隣韓国も猛暑で、原発依存度が高い故に停電・節電の夏なそうですが、日本は3・11からふた夏を経験し、原発なしでもちゃんとやっていけそうです。異常気象が異常でなくなりつつある日本ですから、このさい再生エネルギーへのシフトを、真剣に設計すべきでしょう。15日の安倍内閣閣僚の靖国参拝を韓国・中国は批判し、アメリカは沈黙したといったん書きましたが、時差の関係で16日の『ワシントン・ポスト』に「日本の指導者は歴史と外交のバランスをとる」というソウル発のChiko Harlan 特派員電が出たことは、アメリカから報告できませんでした。安倍首相自身は参拝しなかったことを、割と大きな記事で報じました。ところが、お盆休みの日本のマスコミはこれを報じていないようで、グーグルで検索すると、韓国 『朝鮮日報』に「日本の右傾化によって、米国が主導する韓米日3カ国の軍事協力にも支障が生じる可能性がある」と『ワシントン・ポスト』が報じた、とあるくらい。どうも橋下「慰安婦」発言、麻生「ナチス」発言についてのなお続く国際的反響が、内向きになった日本の大手メディアから、意識的にネグレクトされているようです。
◆情報統制・情報操作を予感させるいくつかの事態が、本来国民の歴史認識を育むべき言論・出版の自由の世界で、進行しています。帰国して読んだ新聞に、北海道大中島岳志准教授の評論が、NTT出版から削除を求められ出版中止になった話、幸い別の出版社に拾われたようですが、内容が「橋下徹・日本維新の会への懐疑」という政治評論だけに、気がかり。原爆を描いた世界的漫画『はだしのゲン』を松江市教育委員会がこどもたちへの閲覧を制限したという話は、世界約20カ国で訳されているだけに深刻、国連の核廃絶決議に棄権する日本政府の立場に似た、ある大きな流れが感じられます。世界的にも、スノーデン氏による米政府個人情報管理をスクープした記者の関係者がイギリスで拘束されたり、日本で発言する中国人大学教授朱建栄氏が上海で行方不明になったり、インターネットをはじめとしたグローバルな情報戦の時代に対する権力介入の手法が、露骨になってきています。
◆こうした動きの集大成が、集団的自衛権をめぐる内閣法制局長官の強引な人事、それに秋の国会への国家安全保障会議(日本版NSC)と秘密保全法案提出の動きです。96条先行改憲をあきらめてはいないが、まずは解釈改憲の強化、それも「法の番人」を慣例を破って外務省出身の集団的自衛権推進論者に置き換えるという手法。そして、ウィキリークスやスノーデン問題を逆手にとって、日本でも一度つぶされた国家機密法案を化粧直しして再提出、国会での多数を頼りに言論統制を押し通そうという算段です。法案の内容は、とっくにできている可能性があり、「同盟国の米国と情報共有を図るには秘密保全の強化が必要」というのがホンネか。選挙での多数代表の選出は、政府指導者への全権委任を意味しません。多数決原理は、言論・思想の自由と、自由で十分な討議による決定と、少数意見の尊重を前提とします。しかもそのうえで、不服従の権利、抵抗権、革命権が担保されるのが、現代民主主義の人民主権の原理です。けっきょく、言論出版の自由、集会結社の自由、基本的人権や生存権、立憲主義や平和主義など日本国憲法のあらゆる原理を活用して、憲法を護る意志を行動で示すということが、世界から危ぶまれる右傾化政権の圧政への歯止めということになりそうです。 歴史認識は、日本国憲法を音読することから始めましょう。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
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