「尖閣諸島」は、わが国「固有の領土」か 日中共用の水域へ
- 2010年 10月 13日
- 時代をみる
- 尖閣諸島西田勝領土問題
中国の漁船が、わが国の「領海」内に入り、故意に衝突してきたというので、海上保安庁の巡視船が刑事犯として同船を拿捕、乗組員を石垣島に連行してきた。それに対して中国政府が強い抗議の意志を表明しただけでなく、日本の青年たちの招待を中止したり、中国人の日本への観光を禁止じたり、さらには日本の電子企業の生命線ともいうべきレアアースの輸出を取りやめたり、日中の間で軋轢(あつれき)が高まった。しばらくは着地点が見えなかったが、10月4日夜、アジア欧州会議首脳会議場の廊下で日中両首相の会談が実現し、「日中の戦略的互恵」が再確認されるとともに、対話の再開も合意され、一応の収拾がついた。
しかし、当然ながら、このことによって、この領有問題の決着がついたわけではない。日本政府は依然として「尖閣諸島」は、わが国「固有の領土」だといい、また中国も「釣魚諸島」を中国「固有の領土」と主張しているからだ。
「固有」という言葉を広辞苑で引けば、以下二つの解が示されている。「①天然に有する。もとからあること。②その物だけにあること。特有」。この二つの解のなかで、この問題に該当するのは①の解だが、もちろん、この言葉の厳密な解である「天然に有する」は、この場合、適用できない。この厳密な解での「固有の領土」などというものは、この人類社会には存在しないからだ。
手っ取り早くいえば、狩猟社会には「領土」は存在しない。それは、たとえば、「國(くに)」という漢字を解体すれば、自ずから明らかだろう。「囗」は囲いで、まさに領土、「戈」は武器で、口は人で、一は大地だ。つまり、人類は狩猟社会から農業社会に入って初めて国家を作り、領土を持つに至ったわけだ。
ここで「固有の領土」という言葉で言われているのは、やや漠然した解での「固有の領土」で、「もとからある領土」という程度の意味だ。だから「尖閣諸島」=「釣魚諸島」問題はややこしいことになる。
中国では明代から釣魚諸島のことは知られていただけではなく、それぞれの島嶼に名前がつけられていた。つまり「釣魚台」「赤尾嶼」などと。それだけではなく、江戸時代中期に出版された林子平の『三国通覧図説』(1785年)には、中国の地誌を取り入れた地図がつけられ、そこには、これらの島嶼が清国の領土として桃色に刷り分けられている。
ところが、それから時代が下って、日清戦争の最中の1895年1月、日本は国際法上、釣魚諸島が「実効支配」のない「無主の地」であるとして日本の領土に加えることを宣言したのだ。それに対して、清国政府だけではなく、その後の国民政府からも公然とした抗議が寄せられず、以来、数十年も経っているから、わが国「固有の領土」であるというのが、現在の日本政府の立場だ。
しかし、国際法の「無主の地の先占」の概念(分かりやすくいえば、どこの国家にも属していない土地は、最初に同地に国旗を立てた国の領土としていいという法理論)は歴史的にも大きな問題を孕んでいる。西歐列強は、あの大航海時代を通じて、この法理によってアフリカやアジアやアメリカのもろもろの未開地域、つまり彼らのいう「無主の地」を自身の「領土」と宣言し、植民地にしてきたからだ。日本も彼らにならって、具体的には米英の外交官の指導を受けて近隣地域を自身の領土に加えようとしていた。たとえば、「台湾出兵」など。
沖縄はもと琉球王朝として独立の国家だったが、日本帝国の膨張主義政策のなかで、具体的には「台湾出兵」や日清戦争の過程で日本の領土となったものだ。そういう背景のなかでの釣魚諸島の領有だ。したがって堂々と胸を張って、「尖閣諸島」は、わが国「固有の領土」だと言えるものではない。
「尖閣諸島」の名前は、もとはいえば、英国の海軍調査官がPinnacle Islandsと呼んだものを、日本海軍が日本語訳したものに由来する。このことも、この間の事情を雄弁に語っているといっていいだろう。
こういう歴史的な背景を考えれば、「尖閣諸島はわが国固有な領土である。領土問題は存在しない。粛々と国内法に照らして中国漁船の違法行為を処理する」という前原外相の言葉はあまりに軽すぎ、中国政府の激しい反発も招いたのは当然だったといわざるを得ないだろう。
いつまでも、この問題を棚上げしておくわけにもいくまい。日本政府は真正面から、この問題に向き合い、「戦略的互恵」を踏まえて中国政府と協議と交渉を進めるべきだろう。
この水域は、いずれにせよ、日中の領海が隣り合う地域である。東アジア共同体が近未来に眺望される現在、それに向かって平和な海を実現することが急務だろう。
(西田勝氏は元法政大学教授、植民地文化学会代表。田岡嶺雲の研究家、平和運動家としても知られる。本稿は非核自治体全国草の根ネットワーク世話人会編集・発行の「非核ネットワーク通信」用に執筆されたものを、同氏の許可をえて転載させていただいた)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1065:101013〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。