衰退するマスメディア -お粗末だった反核平和運動の報道-
- 2013年 9月 14日
- 評論・紹介・意見
- 報道岩垂 弘新聞
9月9日付の本ブログに載った半澤健市氏の「私のメディア時評」を読んで、私も「メディア時評」を書きたくなった。半澤氏は、新聞各紙に載った、元日本火災海上保険社長で経済同友会終身幹事の品川正治氏の死亡記事を取り上げ、同氏が財界人としては珍しく護憲と反戦を訴え続けた人でありながら、在京6紙のうち3紙はこのことに全く言及しなかったことに触れ、「財界には希な平和主義者の存在自体を無視」したとして、「言論統制は強化の一途を辿っているようだ」と断じていた。
私もまた別の問題に関してではあるが、この夏、マスメディアの衰退ぶりを痛感していたので、「メディア時評」を書きたくなったという次第だ。
私が取り上げたいのは、各紙による今夏の反核平和運動の報道ぶりである。結論から先に言えば、それは、おしなべてお粗末だったように思う。
日本の反核平和団体は毎年、7月下旬から8月上旬にかけ、福島、広島、長崎を結んで大会や集会を開く。以前は8月6日(広島原爆の日)中心に広島で、次いで同月9日(長崎原爆の日)中心に長崎で、というスケジュールが一般的だったが、東京電力福島第1原子力発電所で事故が起きてからは7月下旬に福島から大会をスタートさせる団体も現れた。
主な団体の今夏の大会・集会の日程や開催場所、参加者数(カッコ内、主催者発表)は次の通りだった。
▼日本原水爆禁止日本協議会(原水協)=8月6日世界大会・広島(2200)、8月9日世界大会・長崎(6500)
▼原水爆禁止日本国民会議(原水禁)=7月28日世界大会福島大会(1200)、8月5日広島大会(3500)、8月9日長崎大会(1600)
▼核兵器禁止平和建設国民会議(核禁会議)=8月5日広島集会、8月8日長崎集会
▼日本労働組合総連合会(連合)=8月5日広島集会(2000)、8月8日長崎集会(3300)
▼日本生活協同組合連合会(日本生協連)=8月4~6日ピースアクションinヒロシマ(1100)、8月7~8日ピースアクションinナガサキ(650)
このほか、広島、長崎両市内では数え切れないほどの反核平和関連の集会が展開された。
これらの参加者は、酷暑の炎天下を全国各地からやってきた市民たちだった。1980年代から90年代にかけては、原水協、原水禁とも広島・長崎合わせて1万数千人から1万人の参加者を集めた。そのころに比べて運動は衰えたとはいえ、今なお、それぞれ数千人規模の参加者を集めていることは注目していい社会現象だ。これは、反核平和に対する国民の関心が依然高いことの表れ、と私はみる。
これに対し、新聞はどう報道したか。東京で発行されている6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)を見てみよう。
★朝日=7月29日朝刊「福島でことしも原水禁大会(筆者注、原水禁系の大会)開幕」(写真付きベタ23行)、8月5日朝刊「広島で原水禁大会 禁の世界大会4日開幕」(ベタ8行)
★毎日=8月4日朝刊「原水爆禁止大会(筆者注、原水協系大会)が開幕」(ベタ7行)、8月7日朝刊「原水禁世界大会(筆者注、原水禁系大会)、広島の日程終了」(ベタ10行)
★読売=8月4日朝刊「原水爆禁止大会(筆者注、これは原水協系大会)が開幕」(ベタ9行)、8月5日朝刊「原水禁広島大会が開幕」(ベタ13行)、8月7日朝刊「広島原水禁大会が閉幕(筆者注、協・禁の両世界大会に言及)」(ベタ14行)、8月10日朝刊「原水禁・原水協閉幕」(ベタ13行)
★日経=8月4日朝刊「原水協世界大会始まる」(ベタ10行)、8月5日朝刊「世界大会、広島で始まる 原水禁、3500人参加」(ベタ14行)
★産経=記事見当たらず
★東京=7月29日朝刊「原水禁で脱原発訴え 福島で3回目、1200人が参加」(2段57行)、8月5日夕刊「原水協系国際会議『悲劇繰り返すな』」(ベタ42行)、8月10日朝刊「原水禁大会 長崎で閉幕((筆者注、協・禁の両世界大会に言及)」(ベタ39行)
一切報道がなかったのは産経1紙である。他の5紙は大会・集会の大半、あるいは1部を報道したが、いずれも扱いは極めて小さく、2段扱い記事は「東京」の1本のみ、あとはすべてベタ(1段組み)扱いだった。いずれも、意識して探さなければ目に入らないくらいの目立たない記事であった。新聞による今夏の反核平和運動の報道が終始ベタ扱いであったとは、改めて驚かざるをえない。その一方で、各紙がスポーツ関係に割いた紙面はあまりにも広かったが。
ベタの記事では大会・集会が開かれたという事実だけは読者に伝えることができるが、大会・集会の内容まではとても伝えきれないというものだ。総じて、各紙の報道はおざなりであったというのが率直な感想だ。
各社の報道にも問題があったとの思いも禁じ得ない。すでにお気づきのように、夏の原水爆禁止世界大会には原水協系のものと原水禁系のものと二つある。だから、報道機関としては片方だけに偏らず、双方を平等に報道することが求められるというものだ。が、今夏の「朝日」の紙面は原水禁系の世界大会を報じる記事だけで、原水協系のそれに関する記事は見当たらなかった。
それから、各団体の大会・集会のスケジュールを見ればわかるように、これらの大会・集会は、いわば「広島での開催」と「長崎での開催」がセットになっている。だから、両方の大会・集会を報じてこそ記事は完結する。なのに、「長崎での開催」までフォローしたのは「読売」と「東京」のみだった。
全体をみると、「読売」の記事が一番目配りが効いていたように思う。いずれも短行で扱いが小さく、それに原水禁の福島大会を報じていなかったのは残念だが、広島から長崎へと続いた二つの世界大会をきちんと報じている。私が夏の大会・集会を取材した1960年代から90年代は、「読売」はそれらの取材に熱心ではなかったが、最近は扱いは小さいものの一番きちんと報道しているという印象が強い。これは、全国紙であるとの矜持か、それとも新聞は記録性を維持しなくてはという自覚か。「東京」にも、ともかく大会・集会の全行程を報道しようという意欲を感じた。
日本新聞協会が2000年に制定した新聞倫理綱領の冒頭には「21世紀を迎え、日本新聞協会の加盟社はあらためて新聞の使命を認識し、豊かで平和な未来のために力を尽くすことを誓い、新しい倫理綱領を定める」とある。新聞界は、まず何よりも「豊かで平和な未来のために力を尽くすこと」を自らに課したわけである。
であれば、新聞は、広範な市民が参加する反核平和運動にもっと目を向け、その運動の実体を報道してもいいのではないか。大会や集会で何が論議され、何が決まったかを報道してもいいのではないか。
それに、世界大会には、世界各地から参加者があり、各国の反核平和運動の現状が報告される。それらは、報道に値する情報と思う。とかく「内向き」といわれる日本人の目を世界に向けさせるためにも。
読者の新聞離れが著しい。情報を得るにはネットで十分、という人が増えているのが一因だが、新聞の購読をやめる人の中には「こちらが知りたい情報が載っていないから」「私たち市民の活動を紹介してくれないから」と言う人が少なくない。
読者の関心や要望に応えない新聞。そうなった時、新聞はさらに衰退していくにちがいない。
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