「トラ・トラ・トラ」と「ミッドウェイ敗戦」 ―歴史は逆順で繰り返す―
- 2013年 9月 18日
- 評論・紹介・意見
- オリンピック半澤健市原発事故
《「ユーフォリア」はいつでもやってくる》
「東京五輪2020」決定で国中が「ユーフォリア(陶酔感)」にはまった。壮大な国民的錯誤の発生である。1941年12月8日に、帝国臣民が陥ったユーフォリアと同質である。いずれも20年もの閉塞感からの解放感覚の発現である。
「大東亜戦争」緒戦の勝利から、42年6月のミッドウエイ海戦敗北で、彼我の形勢が逆転した。山本五十六の予言が現実になった。大本営は「敵空母二隻を撃沈、我が方の損害は空母一隻喪失・一隻大破」と発表した。実際は、日本の空母4隻の喪失と米空母1隻の撃沈であった。1942年6月11日の『朝日新聞』のトップ記事に、「太平洋の戦局此の一戦に決す」の見出しがある。記者の意図はどうあれ、実に正確な表現である。連合艦隊は主力空母の喪失でその機動力に壊滅的な打撃を受けた。報道の自由のない帝国では、この事実を臣民は45年8月の敗戦まで知らなかった。
《70年後も同じ思想と行動である》
2011年3月から2013年9月までの歴史は、「トラ・トラ・トラ」(現地攻撃機が真珠湾奇襲成功を報告した電文)と「ミッドウェイ敗戦」の再現である。更に悪いことは順序が逆であることである。
「3/11」の直後に、東電福島第一原発の1号機から3号機が「炉心溶融(メルトダウン)」を起し、4号機は水素爆発を起こした。戦中に比べれば多少は報道の自由があるからさすがにメルトダウンは隠せなかった。しかし東電がメルトダウンを渋々と認めたのは11年5月に入ってからである。「原子力安全・保安院」は、当初事故レベルを5としていた。チェルノブイリ並みの7に訂正したのは4月12日である。マスメディアとソーシァル・メディアの報道から、国民の多くは悪しき既得権益集団「原子力ムラ」の存在と欺瞞に満ちた「大本営発表」の健在を気づき始めた。脱原発の運動が始まった。福一事故は日本近代の軌道を転轍するような大事件である。
《「幻の東京五輪」再現の可能性》
そこへ「東京五輪2020」決定である。マスメディアの誘導で国民の関心がコロリと変わった。IOCまでがなぜ日本のプレゼンテーションに騙されたのか。世界第三の経済大国の首相が「福島第一は完全にコントロールされている」と言えば信用せざるを得ないだろう。東京は財政基盤、政情安定度も競争都市よりはずっとマシである。IOC委員も国益と多様な利権を代表するスポーツ官僚だ。安倍発言は彼らに強力な免罪符となった。
私は「東京五輪2020」中止の可能性が大きいと思っている。その理由は
①原発事故制御に失敗して世界大の深刻事故に発展する
②夜郎自大な外交政策と改憲論争が近隣諸国との緊張激化につながる
③デフレ打開政策が失敗し日本発の世界恐慌が発生する
これらの一部または全部が現実になる可能性があるからである。
安倍政権の空疎なポピュリズムがこれらのリスクを加速させている。口でいうだけで実践がないから危機のマグマは堆積を重ねている。
私もできれば東京五輪が成功して欲しいと思っている。だから「自虐的」に書くのである。とはいえ、歴史は人々の主観的な願望だけで動くものではない。「トラ・トラ・トラ」と「ミッドウェイ敗戦」の歴史は、今も我々に多くの教訓を示している。
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