書評:塩川喜信編集『沖縄と日米安保―問題の核心点は何か』
- 2010年 10月 15日
- 評論・紹介・意見
- 坂井定雄書評沖縄と日米安保
鳩山前首相は、わずか八カ月で辞任に追い込まれたが、この間に提起されたさまざまなことは、日米安保改定五十周年に際して、再検討しなければならないすべての重要問題を含んでいる。
本書はこれらの問題に立ち向かう論文・発言・資料集である。初刊行の「ちきゅう座ブックレット」で、論文は三編だけだが、内容は重厚だ。「ちきゅう座」はヒット数が毎月三十万に達する注目度が高い硬派ブログで、本書の編集責任者塩川喜信氏が編集長。硬派ブログが発信を拡大したという点でも注目したい。
『日米同盟五〇年、日本のメディアの驚くべき「変質」』の筆者、柴田鉄治氏は朝日新聞OB。
本論文では、鳩山前首相に対し〝日米同盟の危機〟を叫んで二〇〇六年日米合意の早急な受け入れを迫った「メディアの奇妙な大合唱」をレビューする。『朝日新聞』についても十二月十六日の大型社説を取り上げ、「これが朝日新聞の社説かとびっくりするほど、読売新聞の主張とそっくりである。日本のメディアは、いつからこんなにも『米国べったり』『米国一辺倒』になったのか」と批判する。わたしも同感だが、〝朝日人〟の柴田氏の批判は重い。
柴田氏は、各紙が大きく伝えた「クリントン米国務長官が藤崎大使を呼んで不快感を表明し、現行計画の早期履行を改めて求めた」というニュースについて、事実に反していたことを指摘している。本論文では、日米安保報道の歴史的変化についてレビューしているが、今回の藤崎大使の件でもその一端が見えた、日米安保報道にかかわってきた日米当局のメディア対策、メディア側の取材姿勢にまでは及んでいない。
『「日米密約」の背景~国民を欺き続けた自民党外交』の筆者、池田龍夫氏は毎日新聞OB。
一九七一年の沖縄返還協定に伴う諸密約の内容、密約を押し付けた米国政府と受け入れた故佐藤首相以下の自民党政権と外務省、密約を国民の前に明らかにしたジャーナリストと研究者の役割など、「日米密約」問題の要点のすべてを、綿密で膨大な資料に基づいて書いている。
特に元毎日新聞記者西山太吉氏の「機密漏えい」刑事裁判と「国家賠償請求裁判」に続く、大原告団・弁護団による「沖縄返還密約文書開示訴訟」について、池田氏は精力的に重要部分を抜き出し、緊迫感に満ちて記録している。
「開示訴訟」は本年四月九日、原告側全面勝訴の地裁判決を得た。池田氏が「民主政治における『情報公開制度』の重要性を国民に認識させた意義は絶大で、『知る権利』に応える健全な社会構築の出発点にしたい」と書いている通りだ。
『アメリカの世界戦略と日本』の筆者、鈴木顕介氏は共同通信OB。本論文ではオバマ政権下の米国の世界戦略とその一部としての対日政策を、オバマ大統領の東京演説、「2010年・四年ごとの国防政策見直し(QDR)」はじめ最近の重要政策演説、膨大な文書類から読み解き、展望している。
鈴木氏は書く──冷戦後アメリカは唯一の超大国として世界に君臨した。だが、今多極化し、多元化する二十一世紀の世界の中で、アメリカの世紀は間違いなく終章に入っている。オバマ政権の世界戦略は、この世界でいかに影響力を維持し、国益を守るかが最大のテーマ。その核心は同盟国およびパートナーとの関係である。日米安保条約は、日米同盟の深化の名で変質し、拡大した。しかし、日米の関係は一貫して従属的だった。日本は今、自らの世界戦略を確立しなければならない。二十一世紀日本の基盤として、国民投票によって憲法九条を再確認し、ソフトパワーで世界に貢献していくべきだ……。
●塩川 喜信編集『沖縄と日米安保―問題の核心点は何か』(社会評論社 1200円+税)
初出:新聞通信調査会『メディア展望』2010.8.1(第583号)より許可を得て転載しました
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion173:101015〕
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