青山森人の東チモールだより 第249号(2013年9月25日)
- 2013年 9月 27日
- 評論・紹介・意見
- チモール青山森人
<開発のひずみ>
東チモールのうち水
いま東チモールを歩くとドブ川の水をすくって庭や道端にまく光景をよくみかけます。これは日本のように涼しさを求めるためではありません。東チモールはいまとても涼しい季節を迎えているのですから。では、なぜ水をうつのか。雨の降らない乾季は埃っぽくて仕方ないのです。土埃がたたないように水をまくのが東チモールのうち水なのです。
校門の意味
わたしの滞在する家の近所にあるベコラ小学校の校門がしっかりと設置されました。生徒が朝、狭い鉄の校門をくぐらなければならないようになり、先生がその前で立っています。授業中は門が閉められ、部外者は簡単には入れないようなりました。いままでは学校関係者でなくても敷地内に入るのは容易で生徒でない子どもたちも校庭で遊んでいましたが、学校の出入り口をしっかりさせることで学校らしい体裁はよくなりました。
近所や町内の付き合いも校門で遮断しないようにしてほしい、まあ、まさか遅刻しそうになって駆け込む生徒を校門で圧死させる事件などは起きないことでしょうが、と日本式に想えばこうなるでしょうが、東チモールには東チモール独特の事情があります。
『インデペンデンテ』紙(2013年9月24日)に「学校内の居住者が家を建てる」というタイトル記事が載っていました。コモロ区域にある学校敷地内に2006年から住み込んでいる人たちが、それでなくとも生徒たちの安全性が懸念されているに、こんどは家を建て始め、ますます生徒たちは不安を覚えているというのです。学校が敷地区画をハッキリさせるのは不審者対策というより不法居住者対策という側面があります。
近くは2006年の「東チモール危機」の避難民問題、そして占領軍による強制移住による住居問題・土地問題は、独立国家として発展と近代化を目指す東チモールの重い足枷となっています。
不法居住と強制退去
コモロの国際空港から大統領府そして政府庁舎へつながる一本道の主要幹線道路「祖国殉教者大通り」に接するマンダリン地区の広場に、1年半ごろまえから飛び地オイクシの伝統的織物を売る店ができていました。わたしは去年その店に気がついて、機会があったらいつかオイクシの織物を買おうかなと漠然と思っていました。ところがここで商売をする人たちは許可なくここに住み織物を売っているオイクシの5家族の人たちで、9月17日、デリ(ディリ、Dili)地方当局によって強制退去させられたのです。『ディアリオ』紙(2013年9月18日)に、制服姿の当局の男たちに囲まれてバラバラに解体された家屋と若い女性のうつむく姿の写真が載っていました。当局がやむなく暴力装置を使用して不法居住する人たち強制排除する悲しい図が描かれています。
前述の学校敷地内に居住する人たちも、当局との話し合いがうまくいかないと強制退去をうける可能性があります。『東チモールだより 第247号』で紹介した約800人の強制退去の件も、不法居住の問題として考えることができます。巨大開発が進められ住民の移住が余儀なくさせられるとき、貧しい人たちの不法居住問題はますます顕在化することでしょう。
土地と開発
開発と土地問題はコインの裏と表の関係です。ややこじつけであることは百も承知でいわせてもらうと、東チモールの最近の強制退去の件をみるにつけ青森の人間としては住民を翻弄した巨大開発「むつ小川原開発」を想起します。巨大開発がいつしか“虚大”開発となり、土地を手放した住民は「開発難民」(開発に反対した六ヶ所村の元村長・寺下力三郎の言葉)に堕ち、挙句の果てにやってきたのは「核燃料サイクル基地」でした。冷静に考えると、初めから巨大開発は “虚大”開発であり、そもそも「核燃料サイクル基地」を狙っていたのではないか、住民から土地を収奪するための巧妙な仕掛けだったのではないか。
翻っていまの東チモールの巨大開発「タシマネ計画」(チモール海の「グレーターサンライズ」ガス田からパイプラインを東チモール南部にひかれることを前提とした南部の大規模開発計画)はどうか。実現性が疑問視されている巨大開発が“虚大”開発でないことを祈りますが、土地問題を含めてこれから起こりうることをさまざまな観点から考察する必要があります。
ベタノ発電所、機能せず
「タシマネ計画」には南部海岸線の三拠点があります。西寄りのスアイ、東寄りのベアソ、その間にあるベタノ、これら3地点です。ベタノ(マヌファヒ地方)はスアイとベアソと比べ最近よく報道に登場する地名となりました。それはヘラ(国防軍の海軍部門の拠点がある村、首都に近い村)に続いて、火力発電所が建設されたからです。今年の8月20日、FALINTIL(東チモール民族解放軍)創設記念日に開所式が行われ、さあ、ヘラとベタノの二大発電所が東チモールに電力を供給し、さらなる発展へ進むぞ……といきたいところだったのでしょうが、「ベタノ発電所、機能せず」と9月19日に「ラジオ東チモール」が報じました。そのニュースで電力局長は発電所が機能しない原因として発電機の技術的問題と内部の意思疎通に係る問題があると発言しています。要するにハード面もソフト面も機能しないという意味です。
写真
解放軍創設38周年記念日とベタノに建設された発電所の開所式典を併せた看板。政府の期待の大きさを物語っている。しかし、「ベタノ発電所、機能せず」だと。
2013年9月11日、サメにて。ⒸAoyama Morito
技術的な問題はここでは棚に置くとして、内部の問題、つまり東チモール人による管理運営がうまく機能しない実態は、復刊した『テンポ=セマナル』紙(2013年9月17日)がすでに報じています。それによればヘラとベタノに発電所を建ててもらったのはいいが、これら発電所に燃料を供給することに政府は頭を悩ませていると同紙は報じています。初めは「チモールギャップ公社」(Timor Gap[Gas & Petroleum]E.P.[Empresa Pública]、チモール海の開発に直接参加し、「タシマネ計画」の事業を進める公社)の担当でしたが、「チモールギャップ公社」にその能力がないとすぐに閣議で問題となり、ETO(エスペランサ=チモール=オアン、テトン語で「チモール人の希望」)社がいま暫定的に燃料供給を担当する業者となっています。近く、正式に燃料供給会社を決めるための入札を行うのか行わないのか、不透明で曖昧な状況にあるというのです。『テンポ=セマナル』の記事は、許認可権を握る政府・官僚・業者の絡みが内部の問題であることをプンプン臭わせています。
発電所へ燃料も供給できないとなるとなんのための発電所でしょうか。ヘラとベタノの発電所の維持費だけで年間1億ドルがかかると電力局長は語っています(『インデペンデンテ』2013年9月25日)。
開発を、金のなる木としてみるのか、あまねく東チモール人の幸福のためとみるのか……シャナナ=グズマン政権は前者に引き寄せられているような気がしてなりません。東チモールは開発のひずみを日本から学びとるべきであり、日本は東チモールに開発のひずみを教えるべきです。それが真の友好と真の開発につながるはずです。
~次号へ続く~
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前号の『東チモールだより』で二十歳を祝ったばかりのイナンメタンちゃんが、9月20日の朝、家の前のマンゴーの木に首を吊って亡くなった。なんという悲劇だろう。家族は悲しみと混乱の渦に巻き込まれた。警察はイナンメタンちゃんの遺書(生きるのは辛い、死んだほうがいい。家族のみんな、友だちのみんな、ごめんなさい)を見つけ自殺と断定。それにしてもなぜだ? 4年前にこの家の大黒柱であるパルミラ母さんが亡くなったときにわたしの胸にあいた穴が埋まるまもない悲劇である。
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記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion4619:130927〕
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