読売新聞「尖閣国有化1年」特集(9月11~29日)の 致命的欠陥について
- 2013年 10月 21日
- スタディルーム
- 尖閣矢吹晋
12回 にわたる特集記事において、尖閣をめぐる諸問題についてさまざまの事柄が書いてあるが、領有権にかかわる箇所に致命的なミスがある。それ は5回目の「尖閣諸島を巡る米国の対応」と題した略年表に露呈されている。
1971年10月20日の項に(a)「国 務省が『沖縄返還は尖閣諸島を巡る(中国や台湾の領有権主張を含む)いかなる主張も決 して損なわない』とする書簡を 米議会に送る」と記述し、
さらに72年5月15日 の項に(b)「沖縄返還協定が発効。尖閣諸島の施政権も日本に返還」と記述している(下 線は矢吹)が、これらの二つだけでは、沖縄返還の核心的内容が十分に理解されないおそれが強い。
(b)において、単に「施政権の返還」と書くだけでは、不十分である。 「領有権sovereigntyの返還ではない」ことを米国が強調している事実を無視するのは、 きわめてミスリーディングであり、あえていえば誤報に近い。
(a) について。
この書簡とは何か。国務省が当該書簡を米議会に送ったことの意味 はなにかを丁寧に説明することが不可欠である。
これは71年10月27~29日 の3日間、米上院外交委員会において沖縄返還協定を批准するに際して行われた公聴会の資料として国務省(ロジャース長官)が 上院外交委員会(フルブライト委員長)に 提出したものだ。
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Department of State,
Washington, D.C., October 20, 1971.
Robert Morris, Esq.,
Rice & Rice,
Mercantille Dallas Building, Dallas, Tex.
Dear Mr. Morris: Secretary Rogers has asked me[Robert I Starr] to reply to your letter [Robert Morris] of September 28, 1971, concerning the claim of Grace Hsu to ownership of the Tiaoyutai, Huang Wei Yu, and Chih Yu islands. We assume that you that by “Huang Wei Yu”and “Chih Yu”, you refer to Huang-wei-chiao and Chih-wei-chiao, two islets in the Tiao-yu-tai group. The Japanese names for these two islands are respectively Kobi-sho and Sekibi-sho, and the entire group is known in Japanese as the Senkaku Islands.
Under Article Ⅲ of the 1951 Treaty of Peace with Japan, the United States acquired administrative rights over “Nansei Shoto” south of 29 degrees north latitude. This term was understood by the United States and Japan to include the Senkaku Islands, which were under Japanese administration at the end of the Second World War and which are not otherwise specifically referred to in the Peace Treaty.
In accordance with understandings reached by President Nixon and Prime Minister Sato of Japan in 1969, the United States is expected to return to Japan in 1972 the administrative rights to Nansei Shoto which the United States continues to exercise under the Peace Treaty. A detailed agreement to this effect, on the terms and conditions for the reversion of the Ryukyu Islands, including the Senkakus, was signed on June 17, 1971, and has been transmitted to the Senate dor its advice and consent to ratification.
The Government of the Republic of China and Japan are in disagreement as to sovereignty over the Senkaku Islands. You should know as well that the People’s Republic of China has also claimed sovereignty over the islands. The United States believes that a return of administrative rights over those islands to Japan, from which the rights were received, can in no way predudice any underlying claims. The United States cannot add to the legal rights Japan possessed before it transferred administration of the islands to us, nor can the United States, by giving back what it received, diminish the rights of other claimants. The United States has made no claim to the Senkaku Islands and considers that any conflicting claims to the islands are a matter for rsolution by the parties concerned.
I hope that this information is helpful to you. If I can be of any further assistance, please do not hesitate to let me know.
Sincerely yours,
Robert I Starr,
Acting Assistant Legal Adviser
for East Asian and Pacific afaairs.
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これはロジャース国務長官の問いにロバート・スター氏(国務省法律顧問、東アジア太平洋担当)が 答えた書状である。この書状に示された見解が尖閣諸島の領有権sovereigntyに関する米国国務省の公式見解であり、かつこれは上院外交委員会 に提示され、承認されたものとして、沖縄返還協定に関わる米国政府の「正式、かつ唯一」の権威をもつ解釈である。以後米国の公的文書はす べて、この書簡に含まれる内容を引用している(たとえばChina’s Maritime Territorial Claims: Implications for U.S. Interests 2001.11.12お よびSenkaku/Diaoyu Islands Dispute: U.S. Treaty Obligations 2012.9.25な ど)。
ここでは、まず尖閣諸島を含む南西諸島の施政権を米国政府がサンフランシスコ条約第三条に基づいて、獲得したこと、69年のニクソン・佐藤共同声明に基づいて施政権が返還されること、返還協定の諸条件は71年6月17日に署名された協定によること、等の経緯を説明した後、➊中華民 国政府(および中華人民共和国)が 尖閣諸島(釣魚島)の領有権を主張していること、❷日本への施政権の返還は、中華民 国(あるいは中華人民共和国)の 領有権主張(underlying claims)を排除しないこと、❸日本への施政権返還は、中華民国や中華人民 共和国の領有権主張に影響しないこと、❹対立する領有権主張は、関係当局(日本、中華民国、中華人民共和国)に よって解決されるのが望ましい、する見解が示されている。
一連の公式見解に基づいて、米国は中華民国に対しては、❺71年5月26日 公的な覚書を送り、「米国が釣魚島の施政権を日本に移転することは、中華民国のsovereignty claimsに影響しない」ことを確認している(FRUS,134,n.6)。 さらに❻6月7日、中華民国の蒋経国行政院副院長はケネディ特使を通じて国務省 による釣魚島のfinal status(最終帰属)は、not determined(未定)の 言質を得ている(FRUS,134)。これらの米国政府の約束を前提として、中華民国外交部は日米協定調印の直前に「琉球群島および釣魚台列嶼に 関する声明」を発表し、同年12月30日、中華人民共和国外交部も釣魚台についての声明を発表した。
米国政府の公式な立場として最も重要なのは、上院においてこの協定を批准した際の了解事項であることは、いうまでもあるまい。
読売新聞はその後米国政府関係者のさまざまな発言を列挙している。たとえば、モンデール大使発言、クリントン長官発言、等々である。これら は折々の政治状況のもとでの多かれ少なかれバイアスのかかった発言である。尖閣諸島の領有権sovereignty claimsについての最も権威のある解釈は、Robert I Starr氏の書状である。
日本政府は米国政府が中華民国あるいは(および)中華人民共和国政府と行った約束を基本的に無視してきた。
たとえば福田赳夫外相の1971年12月15日 参院本会議における答弁は以下のごとくである。――(久場島=黄尾嶼、大正島=赤尾嶼について) 尖 閣列島で米軍の射撃場にされてきたのだが、そのことをもって「尖閣列島で米軍の射撃場なんかがあってけしからぬじゃないか」と、こういう お話ですが、これこそは、すなわち尖閣列島がわが国の領土として、完全な領土として、施政権が今度返ってくるんだ、こういう証左を示すも のであると解していただきたい――。
ここで福 田外相は、施政権すなわち領有権と「解する」立場を語っている。しかしながら、米国は明らかに施政権administratiuve rightsと領有権sovereignyを 峻別している。
日本政府・外務省が、明らかに米国政府の解釈(そしてこれを頼みとする中華民国および中華人民共和国)と 相容れない解釈を行っていることが尖閣問題の核心であると見てよい。
日本政府はこれまでの過ちを率直に認めて、隣国との対話による解決に乗り出すべきである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study597:131021〕
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