「片づけ」のマニュアル
- 2013年 10月 22日
- 交流の広場
- とら猫イーチ
全くの私事ですが、本年の春に現役を終え、自治会の大役も任期を終えたのを境に、予定通りに自宅の「片づけ」を始めたのですが、途方も無い量の書籍・専門誌と収集物(内容は秘密)、それに亡父母の残した生活用品一式を前に戸惑うばかりでした。
其処で、何とか手掛かりを得ようと「片づけ」の手引を読むことにした私が、手にしたのは、今、人気の近藤麻理恵嬢の「人生がときめく片づけの魔法」です。 この本。 読者の反応は大別され、拒否・嫌悪を示される方々も相当おられるようです。 でも、実用的な内容に関わらず、結構、面白く読める所為でしょうか。 テレビドラマにも為ったそうです(私は未見ですが)。
拒否・嫌悪を示される方々にも、確かに、一理あって、Konmari嬢の手法は、片づけを一気呵成に「お祭り」のようにやり遂げる、と云うもので、衣類から、書籍、書類等を品目別に部屋に集めて、「ときめく」物を残し、他は、全て捨てる、と云う過激なものです。 とても中高年には出来ない真似です。 それは、ワンルームに住む若者であれば、休暇に実行出来るでしょう。 私自身も若い折には、転居した土地で数日の内に、夫婦二人の新居を整理・整頓しましたが、今では、とても無理です。 体力がありません。
でもKonmari嬢の云われる趣旨は理解出来ます。 モノより空間が大事なのは事実ですから。 そして、所有しているモノの全体量を把握しない限りは「片づけ」が不可能なのですから理屈はその通りです。 ただ、実行が困難な人々が居るのも事実です。 Konmari嬢の続編を読めば、其処の所は、彼女も理解されていて、「片づけ」の期間も実際には、長期に渡る場合もあるそうです。
しかしながら、Konmari嬢に炊きつけられて、第一段階の衣類・布類から不用品、否、「ときめかない」モノを捨てることにした私に、居住地の自治体は、冷たく、収集を拒否され、毎月一回の資源回収の日まで、保管しなければなりません。 その袋数、凡そ20。 半端な量ではありません。 家の中の収納個所を点検し、まだまだ出て来る予感がしていますので、この先、どれ程の時間を「片づけ」に割かねばならないのか、と滅入ります。
私の悪癖は、方法論に凝ることで、「片づけ」理論も、Konmari嬢に執心してはいません。 実は、古堅純子氏の一連の整理・収納のハウツウ本が実際には役立ちますし、その手法の説明が詳細なので、参考になります。 中でも、「生前整理~人生の衣替え~」は、若者には無い中高年の「片づけ」について気配りの効いた指南をされた著書でしょう。
「片づけ」に特化していない著書では、シンプルライフを実践されておられる大原照子氏の「暮しはちいさく」とか「シンプル家事ノート」も読みましたが、英国アンテーク家具やカントリー風生活を実践出来る資力が無い者には、単なる憧れで終わるしかありません。 同じ憧れのみならば、数十年前依り購読していますCountry Living誌を眺め、ついでに、庭の無い我が身ながらEnglish Garden誌も溜息をつきながら読む方が精神的には楽です。
こうして観ますと、矢張り少子高齢化を反映しているのか、中高年になっての身辺整理、「片づけ」関連、暮しのシンプル化、について世間の関心が向いているのが分かります。 さて、これ等は、個人の問題に止まっているのでしょうか。 実は、現在では、これ等の諸問題は、個人レベルに止まってはいないのは明らかです。
全国で「ごみ屋敷」として話題になる問題があります。 家人が自治体の廃棄物収集の計画に従ってごみを収集日に出さず、周辺の隣人に臭気等で迷惑をかけるのみでは無く、防犯上も防火上も、個人の問題を超えた域に達するのです。 その理由は、家人の諸種の病もあるのでしょうが、家人が高齢に為り、ごみの収集日に出せず、また、自宅の整理・整頓が不可能になる場合も多いのです。
更には、少子高齢化で相続人が居ないか、居ても、親族死亡後に当該の家屋を適正に管理出来ず、放置された「空き家」問題も自治体に対応を迫る量になりつつあります。 別言すれば、家ごと「片づけ」の対象になっている問題です。 こうした「空き家」は、廃棄物の不法投棄の場所になり、「空き家」と「ごみ屋敷」の両面から問題が顕在化もしています。
しかしながら、「片づけ」をする所有者が自ら実行する場合には、問題は無いことであっても、所有者が不明・不在の場合には、所有権絶対の資本主義国家の行政は、基本的に、対応が不可能です。 尤も、「公共の福祉」を名目に、適正な行政手続を定めた法令に依り私権を制限することは可能ですので、自治体が最終的にこれ等を処分することが可能にする立法政策も必要でしょう。
どうやら、「片づけ」のマニュアルは、個人レベルから国家・自治体レベルまでが必要とする時勢のようです。
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