ドイツの反米=民族主義的哲学者(ベルンド・ラベル)へのインタビューから
- 2010年 10月 24日
- スタディルーム
- 1968年代学生運動ベルンド・ラベル反米・民族主義岩田昌征
ペチャトというセルビアの週刊誌(9月24日と10月1日)にドイツの1968年世代の哲学者ベルンド・ラベルとのインタビューが連載されていた。
彼は1938年にベルリン近郊の小都市に生まれ、1953年6月におこった東ドイツの民衆運動の目撃者である。1961年、ベルリンの壁建設の直前に西ベルリンに移住し、ベルリン自由大学で社会学、哲学、そしてロシア史を学んだ。
同じく東ドイツ出身のルディ・ドゥチケとベルンド・ラベルは1968年の西ドイツ学生運動の最有力な指導者であった。自由大学で博士号と教授資格を獲得して、1973年から年金生活に入る2003年までベルリン自由大学で教えていた。1998年にドイツへの外国人の無統制な流入の危険性を右翼学生組織で講義した。かかる発言行為への反応として、彼を大学から追放する要請がなされたが、裁判所はそれを拒否した。ニコラ・ジフコヴィチによる彼とのインタビューは、正味12ページにわたる長文である。私が一読して興味深く感じた所々を要約して紹介しよう。
アメリカによるドイツの再教育について
―1945年のドイツの敗北後、アメリカ占領軍は、ドイツ問題の解決を目指して、2000人の社会学者、心理学者、経済学者、そして人類学者を送り込んだ。アメリカのOSS(戦略情報局)は、彼らを使って、敗戦ドイツの全面的把握と分析に努めたが、その目的はワシントンのドイツへの影響力の恒常的獲得であって、ナチス・エリート集団の排除だけにとどまらず、更に進んで、人々の魂を変え、ドイツの民族的伝統を絶滅させることにあった。それはほぼ成功した。今日、ドイツには民族的アイデンティティーの感性はもはやほとんど存在していない。
―アメリカ合衆国は、伝統をフォークロールやカーニバルとしてならば存在することを許容する。
―ドイツは経済的に巨人であるが、政治的に小人のままである。それは、ワシントンの利益と善意に完全に依存している。
ベルンド・ラベルは、アメリカによる「ドイツ人再教育」に二つの潮流があったという。一つは「批判理論」で知られるマルクーゼ、ホルクハイマー、アドルノであり、もう一つは、タルコット・パーソンズが率いる実証主義者と構造主義者である。どうも後者に対してより強く批判的であるようだ。
―社会科学者たち(社会学者、政治学者、コミュニケーション学者、心理学者)は、国家に奉仕して、アメリカ合衆国の敵が指導するシステムの性格とその弱点を摘出し、アメリカに敵対する闘争が失敗する運命にあることを支配エリートたちに確信させる。アメリカ民主主義は、すべてのヨーロッパ諸国に移植されるべきであり、アメリカ的システムへの抵抗すべてが無意味であることが示される。このような説得が効果なしの場合、国家に奉仕する社会科学者たちは、脅迫や告発・弾劾に訴え始める。
1968年以来、この役割は諸NGOやユルゲン・ハーバーマスのような知識人たちの仕事とされる。彼はワシントンに奉仕する告発者である。哲学者としては、ハイデッガー、カール・シュミット、ホルクハイマー、マルクーゼのはるか下にある。ハーバーマスは、イラクやセルビアへのアメリカによる空爆を支持した。彼は支配的な社会主義システムのイデオローグであり、金融資本のイデオローグである。
ベルンド・ラベルは「ドイツ人再教育」におけるビルド紙とシュピーゲル誌の大きな役割を強調する。
ベルンド・ラベルは、彼自身が重要な役割を演じた1968年の事件とその後の左翼運動について、今日どのように考えているのか。
―ヨーロッパの学生反乱には二つの中心があった。パリとベルリンである。ドゥチケは、マルクスやレーニンというより1525年農民反乱の指導者トマス・ミュンツァーに近かった。私たちは、マルクスの諸理念をアナーキズムの解放理論とチェ・ゲバラやフランツ・ファノンの反植民地主義とに結合しようとした。常にドイツの民族的解放の必要性について語っていた。アメリカの政策に反対し、ドイツが自由ならざる被占領国であることを視野から決して外さなかった。
―ラスペは、1972年のことだと記憶しているが、赤軍派を創設しようと私に参加を呼び掛けた。失敗が確実に予想されるので、私は拒否した。ドゥチケもそのような軍事組織に参加しなかった。西ドイツの政治家も警察も学生たちがそんな愚かな道へ入り込むことを期待していた。批判的思想に対する抑圧装置を強化する理由になるからだ。私の学生時代の友人がこうして死んだ。ラウフとヴァスペケルは、西ベルリンでアメリカの警察に殺された。映画監督のマインスは、シタムハイムの獄中でハンガーストライキを最後までやり遂げて死んだ。ラスペは自殺したか、あるいは獄中で殺された。
―ドイツのすべての政党の中で、最悪の指導者をもっているのは緑の党だ。「昨日」まで毛沢東運動に属していたり、あるいはテロリスト組織RAFに近かった彼ら急進派は、一夜で思想を変え、「アメリカの信頼できる友人」であるとほめられ、そのことで不可触の存在となった。ヨシカ・フィッシャー、ダニエル・コンベンディト、シミレル。フィッシャーの友人のシミレルは、1973年にRAFへの共感を隠さなかったし、カンボジアを訪問し、ポル・ポトと彼の「革命的プログラム」を称賛した。あの大量虐殺をも「文化革命」であるとほめあげた。
―ヨシカ・フィッシャーは、アメリカのギャングスターが突然シカゴ市長になったようなものだ。バーダーの死後、ヨシカ・フィッシャーがテロ組織RAFの新トップになったという話もある。ドイツ外相となって、ドイツの民族的利益の裏切り者として歴史に残るであろう、と確信する。
―コンベンディトもまた知識人ではない。彼が発表した文章は確かなことであるが、彼自身が書いたのではない。彼はさまざまなテレビのクイズ番組で成功したエンターティナーである。
第二次大戦中のドイツの犯罪について
―ドイツ人の名前でユダヤ人、ポーランド人、ロシア人、セルビア人に対してすさまじい悪業が行われた。ところで、2010年の今日、ドイツの犯罪問題はワシントンの現在的な対ドイツ政策を正当化する政治的次元を有している。ナチス独裁は恐るべきものであった。それは12年間続いた。しかしドイツの歴史は、千年以上続いている。なにゆえに私たちは、ドイツの過去すべてをこの12年間に還元するのだろうか?
個人と組織がそれらの犯罪に責任がある。ドイツ人が「殺人者民族」だと言明することはできない。誰かがあなたに向かって絶えず、「殺人者民族」に属していると言い続けるならば、あなたは次の二つのいずれかを選ばざるをえない。「そうだ。私はドイツ人であることを望まない」。あるいは、あなたはこの種の脅迫に抗していつか立ち上がるであろう。
左翼の今日について
―今日左翼は「国家装置」の一部となった。左翼はアングロ・サクソン的帝国主義への攻撃やドイツの伝統への呼びかけを「非民主的かつネオファシズム的挑発」であるとみなす。ドイツの左翼は、セルビアとイラクへの空爆を支持して、アメリカ帝国主義のサポーターとなった。
―叛乱した若者たちの多くは、急速に支配装置の一部となって、きわめて急速に革命的過去を忘却した。
―ドゥチケと私たちのサークルの課題は、ドイツ人民に尊厳と一体性を回復することにあった。古いドイツの美徳-連帯、責任、勤勉、寛容-を。アメリカ人はこのような諸価値を永久にナチズムに汚染されたものとみなし、ドイツ人がそのような諸価値に訴えかけないように説得してきた。民族的伝統に呼び掛けること自体を「右翼ラディカリズム」とレッテル貼りをする。
―ソ連軍は撤退したが、アメリカ軍はドイツに居座り続ける。ドイツが独立した政策を取ろうとすると、アメリカとそのNGOは「ファシズム」だと弾劾・告発する。
人口の8%を占めるにいたった外国人問題について
―ドイツ人である私は、自分の住むベルリンで居心地悪い感じがし始めている。ベルリンのいくつかの地区は、イスタンブールやカイロに似てきている。NGOや主要メディアはそれについて語りたがらない。ドイツにおける氾濫について批判的に考察しようとする試みすべては、NGOによって「ドイツ民族主義」のレッテルを貼られる。NGOの中でもAntifa-Linkeが最も活動的で、アングロ・サクソン諸国の主要メディアと緊密に結びついている。外国人問題は、かくしてタブー・テーマの一つとなっている。Antifaとそれに類似のNGOは、「右翼運動」と反セミティズムに反対する闘争のために、年間1億6千万ユーロをえている。
アメリカ、EU、そしてドイツ
―人権と民主主義は、その敵を精神的にも占領するためのアメリカのプロパガンダと化している。
―ドイツは今日、ワシントンが統治する臣下の一つである。私の国はアメリカの植民地だ。ドイツの政治家は、アメリカとイスラエルの利益を代表している。
―ドイツ人は記憶を失ったアモルフな大衆に転化させるべきとされている。ドイツ軍はアメリカの指揮下に置かれている。アメリカ帝国主義へのヨーロッパの抵抗は、民族を基礎にしてのみ組織できる。
―まず知るべきは、統一ヨーロッパ、あるいはEUは、官僚の事業であることだ。ヨーロッパの諸国民は、EUの創設に参加していない。ブリュッセルでEUを管理している。諸国民議会はブリュッセルの決定に対する影響をますます小さくしている。アメリカとイギリスの利益がブリュッセルで決定的な発言力を持つ。
私(岩田)のようにドイツ社会の現在的社会心理と社会思想に疎い者は、このインタビューを一読して、ドイツ社会にある一種のいらだちに似た心の情況を垣間見た気がする。ベルンド・ラベルが「アメリカ帝国主義へのヨーロッパの抵抗は、民族を基礎にしてのみ組織できる」と言明しているのは重要である。
私のトリアーデ体系論(岩田昌征著『20世紀崩壊とユーゴスラヴィア戦争』御茶ノ水書房、2010年)によれば、近代社会の組織原理は、自由・市民原理、平等・階級原理、友愛・民族原理の三種しかない。現在、アメリカ流の自由・市民主義がグローバルに帝国主義化している時代、すなわち市民帝国主義の時代、それに抵抗するには、平等・階級原理か、友愛・民族原理かに依拠するよりほかはない。ソ連・東欧の体制が自崩して、平等・階級原理の社会主義が生命力と社会的信頼を失ってまだ20年しか経過していない。とすると、65年前に崩壊して、信頼喪失の社会的記憶が薄れている友愛・民族原理をファシズム・ナチズム・軍国主義なる悪性持病から解放して再建することで、市民帝国主義に抵抗する道が十分に考えられるのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study346:101024〕
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