「特定秘密保護法案」の廃案を求める -世界平和アピール七人委員会-
- 2013年 11月 27日
- 時代をみる
- 伊藤力司秘密保護法
世界平和アピール七人委員会は11月25日、「特定秘密保護法案」の廃案を求めると題する以下のアピールを発表した。アピールは、「特定秘密保護法案」が民主主義と日本国憲法にとって脅威であると危惧し、廃案とするよう求めている。
世界平和アピール七人委は1955年に平凡社社長・下中弥三郎氏、湯川秀樹博士、日本婦人団体連合会会長・平塚らいてうさんら当時の日本を代表する知識人7人で結成された、無党派の知識人グループ。人道主義の立場から平和と核兵器廃絶を内外に訴え続けてきた。
現在の委員は池内了(総合研究大学院大学教授)、池田香代子(翻訳家・作家)、大石芳野(写真家)、小沼通二(慶應義塾大学名誉教授)、辻井喬(詩人・作家)、土山秀夫(元長崎大学学長)、武者小路公秀(元国連大学副学長)の7氏。
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WP7 No. 110J
「特定秘密保護法案」の廃案を求める
2013年11月 25日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬
私たち世界平和アピール七人委員会は、政府が今国会に提出している「特定秘密保護法案」を、内容と進め方から見て民主主義と日本国憲法にとっての脅威であると危惧し、廃案とすることを求めます。
民主的な社会は、主権者である私たちが政策の可否を判断できて初めて成立します。市民の知る権利は、その不可欠の前提です。私たちは、麻生内閣時代に作られた「公文書等の管理に関する法律」(公文書管理法、2009年7月1日施行)において、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用しうるものである」と位置づけていることを高く評価します。
私たちは、国家に直ちに公開することができない事項があることは理解しています。その場合、秘密指定者である政府は秘密の指定が適切であることを説明する義務を負うものと考えます。しかし現法案には、恣意的に行われていないことを客観的な立場から検証判断する、政府から独立した第三者機関の設置は想定されていません。
国家の秘密は、内容的には明白に定めた範囲内に限り、時間的にも期限を明白に定め、期限がきたものは、たとえ政府にとってマイナスを含むものであっても、歴史の検証にゆだね、その後の政策立案に役立たせるため、すべて公開しなければならないと考えます。それによって、恣意的な指定や運用を避けることが保障されることにもなります。
そのためには、秘密指定解除以前に特定秘密の関連文書が廃棄されることがないよう、保管を義務付ける規定を含めなければなりません。そうでなければ、政府は、私たち主権者を納得させる説明責任を果たすことができません。
また同法案は、外国に特定秘密を提供できるとしています。具体的にはアメリカ合衆国への機密情報供与が想定されていることは明らかです。国家安全保障会議創設や集団的自衛権容認へと向かう現政府の動きを勘案すると、この規定は、核抑止を基本とする米国のグローバル戦略のなかにわが国を組み込み、両国の安全保障の一体化をさらにおしすすめるものであり、交戦権を放棄した憲法にも、国連の場で核兵器廃絶を支持しているわが国の方針にも、もとることは明らかです。
私たちが世界基準としてきわめて妥当と考える「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)は、国際人権法や人道法に違反すること、公衆衛生に関することなど、秘密指定してはならない領域を提案しています。
これは、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の拡散について、とくに初期の情報開示が充分ではなかったという痛恨の経験をした私たちにとり、切実さをもって理解できるものです。
現在の特定秘密保護法案は、安全保障、外交、諜報の防止とテロ対策に関する情報など、特定秘密に指定できる領域を広く定めています。しかし、秘密指定してはいけない領域を明示しない同法案からは、安全保障と人権をバランスさせようとする意思が読みとれません。
本法案が成立すれば、ただちに裁判や国会審議の公開性や、国会議員の国政調査権の制限に直結します。
特定秘密取扱者の適性評価項目には、精神疾患・飲酒・経済状況などのほか、配偶者とその父母の国籍や元国籍なども含まれます。約6万5千人ともいわれる当該公務員のみならず、官公庁と業務関係のある企業に勤める民間人まで含めて、広範な個人情報を国家が掌握し、家族の国籍や元国籍によって本人の処遇に差をつけることは、憲法に定められた法のもとの平等に抵触することは明らかであり、私たちは懸念を表明せざるを得ません。
さらに、人権侵害にかかわる政府の秘密は、秘密取扱者にむしろ通報の権利と義務があるとするのが世界の趨勢です。しかし現法案では、政府の違法行為にかかわる情報、政府が違法に秘密指定している情報、あるいは公益に資すると認められる情報であるのに政府が秘密指定しているものなどを公表した内部通報者やジャーナリストなどの保護が保証されていないことは、きわめて問題です。
また同法案では、研究者や政策提言組織、市民団体などの情報収集も、権利として保証されていません。私たちは、時の政権の都合によって情報へのアクセス権や表現の自由についても制限が強まることを危惧します。のみならず、戦前の治安維持法の場合と同様、市民の側の萎縮効果を助長し、自由な情報の交換や収集が妨げられ、闊達な議論をはばかる風潮が広がる危険性が少なくありません。
安全保障と市民の知る権利のバランスは、とくに2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、各国がその均衡に苦慮してきました。この点については世界の経験と英知の結集から生まれ、かつわが国も締結している国際人権規約にのっとった「ツワネ原則」に従うべきです。
日本はかつて歩いた誤った道を再び歩むことがあってはなりません。
民主主義とは相矛盾する「特定秘密保護法案」を廃案としたうえで、安全保障と市民の知る権利のバランスについてさらなる社会的な議論を深め、国会においても、賛成者を集めるだけの密室での議論に基づく多数決におちいることなく、後世に悔いを残すことがないよう野党の提案の内容についても慎重に審議を進めて取り入れるべき部分は謙虚に取り入れ、国民が納得する安定した方策を見出すことを、市民、政府、国会議員に呼びかけます。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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