【俳文】札幌便り(12)
- 2013年 11月 30日
- 評論・紹介・意見
- 俳文木村洋平
本の執筆が佳境を迎えて。
書き上げても書き上げても青蜜柑
「分け入っても分け入っても青い山」(種田山頭火)の真似をしてみるが、これはきちんと熟さないと困る。
旅に出でなんとす紅葉かつ散れば
丸いのもハートの型も紅葉かな
秋深しこの靴ももう二年経つ
円山公園は十月の半ば頃から黄葉がちらほらと散り、十月の末には紅葉も真っ盛りとなった。
行く秋や同じ木を見る何度でも
体調を崩すこともあった。身体を温めるはと麦茶は、あれこれ試してみたけれど風味がずいぶんちがう。
オレンジのクッキー甘く秋深し
ゆっくりとひと粒ずつの葡萄かな
仲秋やあたりはずれのはと麦茶
十月の半ばに帯広や富良野など、各地で初雪を観測した。着々と冬は来る。札幌の家の周りでは降らなかったが、銀色の(白く光る)「雪虫」が飛び始めた。これは小さな羽虫で、銀色の羽を二枚持っており、群れをなして飛ぶ。雪が降る少し前になると、わあっと飛び始めるので、初雪を告げるとも言われる。
ひととせをふたとせにせよ今日の雪
雪虫や雪の降るのを告げるらむ
暦の上で立冬を迎える前に雪の句となってしまった。そういえば、中秋の名月に次いで美しいと言われる後の月。旧暦九月の十三日の札幌は晴れた。
足取りも軽く運べる十三夜
近頃、『蕉門名家句選』(岩波文庫、上下巻)を読んでいる。冬の句が目につくので紹介したい。
あたらしき茶袋ひとつ冬篭 荷兮(かけい)
簡素な冬篭りを詠んだ句。
あたらしき珈琲淹れて冬篭り
と、こちらも詠んでみたくなる。ほかには、
はつ雪を見てから顔を洗けり 越人(えつじん)
初雪が降っていたら、まずは床を起きて外を見る。その気持ちは風雅のものか、童心のものか、ないまぜになった人の情かもしれない。さて、初雪の待ち遠しい我が家では、まだ風呂を焚かず、シャワーだけで頑張っている。
霜降もシャワーで済ます蝦夷の家
動物界は、もう冬の準備に忙しい。人間で言えば師走のようなものだろうか。
エゾリスははや霜月もせわしなく
十月の薄き光の小山かな
ところで、「引鴨」「帰る鴨」は本州では春の季題だが、北海道では逆になる。鴨たちは北海道で夏を過ごし、池が凍る前の秋には本州へ帰ってゆくのだから。
帰るまで水遊びせよ池の鴨
そこで、秋の季題とした。無邪気そうな鴨の群れ。
遠鴉のみ色ありや冬の空
「とおがらす」は造語。真っ白というべきか灰一色と言うべきか、札幌の冬空がやってきたと思う。
小夜時雨足はおのずと珈琲屋
冬支度をじっくりと進めよう。
初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2013/09/blog-post_27.html より許可を得て転載。
記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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