「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」
- 2013年 12月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎機密保護法
特定秘密保護法案が、衆院で委員会強行採決で議論打ち切り、参議院に送られました。権力の驕りです。つい最近広島高裁岡山支部で、7月参院選の一票の格差が法の下の平等に反するとして違憲・即時無効の判決が出ました。選挙そのものの正統性が疑わしいのに、前政権党民主党の政権運営に対する国民の不信は「決められない政治」であったとばかりに、次々と議席の数に任せて「決めて」いきました。 消費税増税、TPP参加、原発輸出、そして特定機密保護法案と日本版NSC設置。かつてなら、自民党政権でも、一つの内閣でどれか一つの法案を通過させることも大変な重要案件ですが、ほとんど国会での実質討論なく、内閣主導で決められていきます。特定秘密はちっとも特定されていません。原発の警備体制はテロとの関係で特定秘密なそうですが、そうすると全国の原発からの廃棄物の6か所村再処理工場への移送日や移送ルートも「国家機密」になります。何しろ首都高速を含む一般の道路をドクロマークみたいな危険印をつけた大型トラックで搬送するのですから、途中で出会った別のトラックの運転手がツイートしただけで、捕まりかねません。もちろん私のように、福島県内各地や中国 ウルムチの放射線量をウェブに発表しただけでも、どうなるかわかったものではありません。石破自民党幹事長によれば、「絶叫デモもテロ行為」だとか。ホンネが出たようです。それでなくても、広島・長崎の原爆投下の後、占領軍のプレスコードで米国批判や悲惨な被害報道が禁止されると、例えば朝日新聞は「原爆が書けないことは記者の誰もが知っていた」と自主規制に徹します。広島・長崎の地元新聞は、検閲をくぐって何とか「原爆病」を伝えようとしたにもかかわらず。公務員も、ジャーナリストも、ブロガーも萎縮することをおそれます。昨11月30日放映のNHKスペシャル「汚染水」みたいな番組は大丈夫でしょうか。こちらにはNHK経営委員会に安倍首相の「お友達」が入って、別の規制が入りそうです。 悪法特定秘密保護法案、何とか廃案に追い込みたいもの。
「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」というアクトン卿の警句のもう一つの実例が、猪瀬直樹東京都知事の徳洲会病院からの5000万円「借入金」問題。借用・返還時期からいっても、都知事選がらみは見え見え。無利子・無担保でこんな大金が動くのは、20世紀の金権政治の自民党そっくり、そうした問題をノンフィクション作家として追究してきたご当人が、権力の誘惑に負けたようです。「借用証」と称する印鑑も収入印紙もない紙をかざしてなんとか違法を逃れようとするパフォーマンスは、東京都知事としての識見も、作家・ノンフィクションライターとしてのかつての栄光も消し去る、見苦しいものです。この期にいたったら、都議会百条委員会で真相を明確にし、東京オリンピックからダーティーなイメージを早急に払拭すべきでしょう。猪瀬氏の学生時代の恩師は清水慎三、日本社会党左派の論客で『戦後労働組合運動史論』(日本評論社、1982年)、『社会的左翼の可能性』(花崎皐平と共著、新地平社、1985年)などは、 私も研究で使ってきました。1996年清水氏没後の追悼シンポジウムで、一度だけ猪瀬氏と一緒になりましたが、その時は、むしろ寡黙でおとなしい印象でした。その後に猪瀬氏に何があったのか、これは、若いライターの書くべきことです。
そして日中関係は、中国政府の防空識別圏設定で、軍事的緊張もエスカレート。ここでも「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」、私には中国国内の開発主義・格差による共産党独裁への不満を対外関係に転嫁しようといういつものやり方の延長上に見えますが、つい先日3中全会がありましたから、そこで党の何らかの決定があったのか、軍部による独走なのか。いずれにせよ、安倍内閣の右翼的アジア外交・安全保障政策に格好の口実を与えるものです。もっとも日本政府が民間航空会社にまで中国側決定無視を押しつけようとしたのに対し、アメリカの民間航空会社は乗客の安全を最優先して飛行計画を提出するようです。ここでもアメリカ一辺倒で対中強硬策を出したつもりが、肝心のアメリカの対中融和策に梯子をはずされた安倍政権。国際関係では、内向きのナショナリズムは哀れです。神戸の弁護士深草徹さんから、学術論文データベ ースに深草徹「特定秘密保護法案管見 」(2013.11) 、「集団的自衛権を考えるーー北岡伸一批判」(2013.11) に続いて、特定秘密保護法のアメリカ法制との比較「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法」(2013.11) の寄稿、まだ参院がありますから、緊急アップしました。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2470:131202〕
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