悪法・秘密保護法案を批判する -メディアは国家権力と対峙せよ-
- 2013年 12月 2日
- 評論・紹介・意見
- 安原和雄社説秘密保護法
特定秘密保護法案は稀に見る悪法というほかない。その悪法が11月26日夜の衆院本会議で可決された。前日の25日、福島で開かれた地方公聴会では首長や学者ら7人が同法案に意見を述べたが、賛成の声はないどころか、「一番大切なのは情報公開だ」と力説する人もいた。たしかに民主主義の土台は情報公開である。
ところが安倍政権は情報公開に背を向けている。このことは安倍政権が民主主義そのものを否定し、同時に新聞、放送などメディアの自由な報道を拒否することにつながる。メディアは国家権力と正面から対峙するときである。メディアの存在価値そのものが問われつつあるのだ。(2013年12月2日掲載)
大手紙社説は安倍政権の特定秘密保護法案をどう論じたか、11月27日付社説の見出しを紹介する。
*朝日新聞=民意おそれぬ力の採決
*毎日新聞=民主主義の土台壊すな
(毎日新聞は翌28日付社説でも「秘密保護法案 参院審議を問う 2院制の意義を示せ」と論じた)
*讀賣新聞=指定対象絞り「原則公開」確実に 参院で文書管理の論議を深めよ
*日本経済新聞=秘密保護法案の採決強行は許されない
*東京新聞=国民軽視の強行突破だ
以上の5紙社説のうち朝日、毎日、日経、東京の4紙は明快な反対、批判論で一貫しているが、讀賣社説はいささか異質である。次のように述べている。
一部の野党がこの法案を「国民の目と耳、口をふさぐ」「国家の情報を統制し、日米同盟への批判を封じ込める」と声高に非難しているが、これは的外れである。(中略)安全保障のための機密保全と、「知る権利」のバランスをどうとっていくか。この問題も参院で掘り下げるべきテーマだろう。
以上のような讀賣社説の核心は<機密保全と「知る権利」のバランスをどうとるか>にある。一見もっともらしいが、このようなバランス重視の姿勢は、「知る権利」を重視する姿勢とは異質である。「バランスをとる」と言いながら、現実には「機密保全」重視に流れやすいだろう。国家権力に都合のいいバランス論とはいえないか。
さて讀賣社説以外の反対、批判論はどういう趣旨なのか。以下、その骨子を紹介し、安原の<コメント>をつける。
(1)朝日新聞社説=驚くべき採決強行
数の力におごった権力の暴走としかいいようがない。民主主義や基本的人権に対する安倍政権の姿勢に、重大な疑問符がつく事態である。
報道機関に限らず、法律家、憲法や歴史の研究者、多くの市民団体がその危うさを指摘している。法案の内容が広く知られるにつれ反対の世論が強まるなかでのことだ。
ましてや、おとといの福島市での公聴会で意見を述べた7人全員から、反対の訴えを聞いたばかりではないか。
そんな民意をあっさりと踏みにじり、慎重審議求める野党の声もかえりみない驚くべき採決強行である。
論戦の舞台は、参院に移る。決して成立させてはならない法案である。
<コメント> 安倍政権は暴力集団なのか
「決して成立させてはならない法案」という朝日社説の断定である。権力批判への「遠慮」とか、「ほどほどに」という姿勢はみじんもうかがえない。社説の筆者は「怒り心頭に発して」という気分になっているらしい。だから「権力の暴走」、「重大な疑問符」、「民意をふみにじり」、「驚くべき採決強行」など通常の社説では使わないような過激な表現が多用されている。暴力集団・安倍政権というイメージが浮かび上がってくる。
(2)毎日新聞社説=民主主義の土台を壊す
あぜんとする強行劇だった。衆院国家安全保障特別委員会で特定秘密保護法案が採決された場に安倍晋三首相の姿はなかった。首相がいる場で強行する姿を国民に見せてはまずいと、退席後のタイミングを与党が選んだという。
審議入りからわずか20日目。秘密の範囲があいまいなままで、国会や司法のチェックも及ばない。情報公開のルールは後回しだ。
「知る権利」に対する十分な保障がなく、秘密をチェックする仕組みが確立していないなど疑問はふくらむ。
参院では一度立ち止まり、法案の問題点を徹底的に議論した上で危うさを国民に示すべきだ。民主主義の土台を壊すようなこの法案の成立には反対する。
<コメント> 首相退席後に強行採決
「あぜんとする強行劇だった」とは何が起こったのか。特定秘密保護法案の強行採決のとき、安倍首相の姿は議場になかった。首相退席後のタイミングをわざわざ選んで採決を強行したというから、前代未聞の所業といえる。猿知恵(こざかしい知恵)と言っては、当の猿様に叱られそうな気がする。「民主主義の土台を壊すようなこの法案の成立には反対」と断定する毎日社説は、至極当然の主張と言うほかないだろう。
(3)日経新聞社説=国民の不信感は解消されない
この法案には、国民の「知る権利」を損なう危うさがある。徹底した見直しに向けて議論を続けるべきだ。
法案では防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野で、特に秘匿する必要があるものを各省大臣が特定秘密に指定する。秘密を漏らした公務員には最長で懲役10年の刑が科せられる。本紙の世論調査でも秘密保護法案については「反対」が50%、「賛成」の26%を上回った。「懸念はない」と答えたのはわずか6%にすぎない。このような状態で、法案をそのまま通してしまって本当にいいのか。
異例の事態といっていい。国民の抱く疑念や不信感はまったく解消されていない。政府・与党もここは立ち止まって、もう一度考え直してみるべきだ。
<コメント> 骨抜きにされる「知る権利」
なぜ特定秘密保護法案に反対しなければならないのか。国民の「知る権利」を損(そこ)なうことになるからである。ただメディアが多用する「損なう危うさ」という認識、表現では不十分である。なぜなら安倍政権は、民主主義国家における国民の基本的権利としての「知る権利」を特定秘密保護法制定で骨抜きにしようとしているからである。「知る権利」を守り、活かしていくためには安倍政権と対峙しなければならない。
(4)東京新聞社説=公権力が市民活動を監視
さまざまな危うさが指摘される秘密保護法案であるため、世論調査でも「慎重審議」を求める意見が60%台から80%台を占めていた。
もっと議論して、廃案に持ち込んでほしい。とくに憲法の観点から疑念を持たれている点を重視すべきだ。国民主権、基本的人権、平和主義の三大原則から逸脱していることだ。
いわゆる「沖縄密約」や「核密約」などの問題は本来、活発に議論されるべき国政上の大テーマである。これに類似した情報が特定秘密に指定されると、国民は主権者として判断が下せない。国会議員といえども秘密の壁に阻まれてしまう。どれだけの議員が、この深刻さを理解しているか。
反原発運動など、さまざまな市民活動の領域まで、公権力が監視する心配も濃厚だ。行政権だけが強くなる性質を持つ法案である、あらためて反対表明をする。
<コメント> 許せぬ「独裁国家」への改悪
安倍政権が目指しているのは、「民主国家」から「独裁国家」への改悪という荒療治である。その独裁国家としての日本の未来図は、日米安保体制の維持、原発再稼働、集団的自衛権発動による軍事力行使、多数の非正規労働者と低賃金の維持、社会的弱者の切り捨てなど。もちろんこれらの改悪路線を許すことはできない。とはいえこの改悪路線を阻むのは容易ではない。反「安倍政権」統一戦線をどこまで結成できるかにかかっている。
初出:安原和雄のブログ「仏教経済塾」(13年12月2掲載)より許可を得て転載
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