安倍首相の突然の靖国神社訪問: 米国からの批判
- 2013年 12月 27日
- 時代をみる
- 「ピースフィロソフィ―」
12月26日、安倍首相が突然靖国神社訪問を行ったことで世界に衝撃が走っている。中国や韓国からの批判は広く報道されているので、まず米国メディアから抜粋して紹介。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「この訪問は日米関係に支障をきたすとの声もある」として上智大学の中野晃一教授(政治学)のコメントを紹介している。「(中国や韓国との)首脳会談はますます遠のいた。米国が、日本に対し隣国との関係を改善するように圧力をかけていることを考慮しても、東京のワシントンとの関係にも傷をつけるであろう。」「この訪問は、安倍の経済政策がその国家主義的な意図を隠すための見せかけであることを明らかにしているようだ。」
ブルームバーグは香港科技大学の David Zweig 教授(政治学)が、この訪問を「扇動的 incendiary である」と表現し、「官界から大規模な抗議を訴える声が多数出てくるだろう。波及しないといいが。しかし安倍は、対立関係の悪化(エスカレーション)が続くように中国の防空識別圏設定に反応することを決めたのかもしれない。」と言ったと伝えている。また、米国は日本が「地域の緊張を悪化させるような行動をしてきたことに失望している」とし、やはり上智の中野晃一氏の言葉として、「米国は10月に、日本に対して靖国に行くなと明確なメッセージを送っていることからも、今回の訪問は米国人にとって攻撃的なものとなる。安倍は明確にこのアドバイスを無視した」と伝えている。
ちなみに、ここで10月に米国が日本に靖国について注意をしたというのは、ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官が日本を訪問した際真っ先に千鳥ヶ淵戦没者墓苑に献花することによって米国は靖国を認めないとの態度を明らかにしたことである。この、前例のない米国高官による千鳥ヶ淵墓苑訪問の意義を日本のメディアは総じて報道しなかった。このことを指摘した当ブログの以下の投稿には万単位のアクセスが集まっている。
画期的な米国務、国防長官揃っての千鳥ヶ淵墓苑訪問の意味は、「米国のアーリントン墓地に相当するのは靖国ではなく千鳥ヶ淵である」という、安倍政権へのメッセージ
日本でだけ報道されないケリー、ヘーゲル両長官の千鳥ヶ淵戦没者墓苑訪問の意義
千鳥ヶ淵墓苑の公式ウェブサイトにおける報告には両長官の10月3日の訪問について「両長官の献花は米国側の強い希望により行われたもので千鳥ヶ淵戦没者墓苑の創建以来、米国政府関係者 の中では最も高位である。又両長官同時の献花もきわめて珍しいことであった。国際儀礼上外国要人はそれぞれ訪問国において戦没者墓地等に献花を行うことが慣例であるが今般もその一環である」とある。ちなみにこのウェブサイトを見て気づいたが、10月18日にはカート・トン米国臨時代理大使も訪問している。「秋季慰霊祭に米国大使が参加されるのは初めての事」とある。
ブルームバーグの記事は、中国人民大学の国際関係学 Shi Ynhong 教授の言葉、「この訪問の前は、中日関係はこれ以上悪くなれるのだろうかという疑問があった。安倍氏の訪問により、その問いへの答えはYESであることが示された」を引用して締めくくっている。
CNNは、「東京の米国大使館はこの訪問に失望していると言った」と報道している。「日本は大事な同盟相手であり友人である」「しかし米国は、日本が隣国との緊張を悪化させる行動を取ったことに失望している」との発言が米国大使館からあったと。この意義は大きい。朝日新聞は「米政権『失望している』 首相靖国参拝で異例の批判声明」としてすでに報道している(下方に声明全文を紹介)。
CNNはまた、テンプル大学のジェフ・キングストン教授による「北朝鮮の脅威について中国や韓国と協力関係を築かなければいけないときに日本は歴史問題を引き起こしている」との懸念を伝えている。キングストン曰く:「共有する歴史について隣国の感情を踏みにじることは、(中韓)両国と抱える領土問題に対処したり、他の重要事項を進展させることを妨げる。」
ニューヨーク・タイムズは、「安倍氏に一番近い側近たちは、靖国神社訪問を避けることによって、現在まで安倍政権を定義づけてきた政策に集中できるように助言」していたという。「米国の高官も、米国がより主張を増している中国や北朝鮮の核問題に面しているときに米国のアジアにおける最大の同盟国である日本が歴史問題で孤立するとの懸念を示した」とも伝えている。
ロイター通信も上記の米国大使館による懸念を伝えている。
各社が報道している米国大使館の声明は、大使館のウェブサイトに記者発表として出ているので紹介する。http://japan.usembassy.gov/e/p/tp-20131226-01.html
Statement on Prime Minister Abe’s December 26 Visit to Yasukuni Shrine
December 26, 2013
Japan is a valued ally and friend. Nevertheless, the United States is disappointed that Japan’s leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan’s neighbors.
The United States hopes that both Japan and its neighbors will find constructive ways to deal with sensitive issues from the past, to improve their relations, and to promote cooperation in advancing our shared goals of regional peace and stability.
We take note of the Prime Minister’s expression of remorse for the past and his reaffirmation of Japan’s commitment to peace.
公式訳は今のところ見当たらないので、ここに和訳する。
安倍首相の12月26日の靖国神社訪問についての声明
日本は大事な同盟相手であり友人です。しかし、米国は、日本の指導者が、隣国との関係を悪化させる行動をとったことに失望しています。
米国は、日本と隣国双方が、過去の繊細な事柄に対処し、関係を改善し、我々が共有する目的である、地域の平和と安定の前進への協力を促進するための建設的な方法を見つけることを願います。
我々は、首相による過去に対する遺憾の意の表明と、日本の平和へのコミットメントの再確認を注視しています。
安倍氏は側近の助言にもかかわらず、また従属相手の米国の深い懸念にもかかわらず靖国訪問を断行したようだ。安倍氏とその政権は、これに対しどのような高いツケを払うことになるのか。そして日本と隣国の人々がこの愚かな指導者によってどのような迷惑を被ることになるのか。日本の外交孤立をますます深めながら軍拡を進める危険な政権にこれ以上日本市民の代表を務める資格はあるのか。@PeacePhilosophy
追記:上記を投稿してから米国大使館による日本語訳を発見。リンクはこちら。http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20131226-01.html
関連報道:
AFP
安倍首相の靖国参拝に「失望している」、米大使館が声明
このブログでの関連投稿:
ニューヨーク・タイムズ社説で安倍政権批判-「日本の危険な時代錯誤ぶり」
初出:「ピースフィロソフィ―」2013.12.26
http://peacephilosophy.blogspot.jp/2013/12/blog-post_26.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2495:131227〕
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