1/18現代史研究会用レジュメ:経済学の展開はどのように資本主義の発展を反映したか――イギリスを中心に――
- 2014年 1月 7日
- スタディルーム
- 和田重司現代史研究会
経済学の展開はどのように資本主義の発展を反映したか――イギリスを中心に――
明治大学駿河台校舎リバティタワー1064号 2014年1月18日 和田 重司
資本主義; 封建制の最盛期 11~12世紀 長期・曲折・漸次的移行
1485年ヘンリー7世の全国統一(市場) 百年戦争と薔薇戦争で諸侯が衰弱
① 重商主義・絶対主義 J.Steuart,1767
② スミス(1776)以降の自由主義→ 産業革命 A.Smith,1776
③ 1840s~60s ――自由競争全盛 vs 初期社会主義 J.S.Mill, 1848~
④ 1870s――独占化進む ――→独占資本主義 植民地分割 A.Marshall, 1890~
⑤ 第1次→第2次世界大戦――国家独占資本主義 ロシア.中国社会主義 J.M.Keynes, 1936
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⑥ →アメリカ 経済力・支配力拡大 冷戦 P. Samuelson,1948~.Freedman, Lucas,60s,70s ~
⑦ ~1970~ 植 民地諸国の独立 →冷戦終結 ・新興市場拡大 New Keynesians, 2000~
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① 重商主義期; 時論的.個別問題論.モノグラフ,政策論 =(過渡期の特徴)≒現代は?
貨幣論.財政論.為替論.価格論,インド貿易論 貿易収支論 人口計測論
J.Steuart(1713-1780),Principles of Political Economy,1767. 重商主義最後の総括
Baronet,王位継承問題で反乱軍加担.自由主義への地主的(=封建的)批判と資本主義への順応
自由主義 =歴史の趨勢(事実を消極的に認める).近代的自然法(権)は空疎な原理.
歴史の発展順序に沿って経済学の体系を;――上記個別問題を総合.『国富論』の全領域に匹敵.
自由市場―自然的需給均衡・不可.弱肉強食の競争→貧困→現代社会衰微の主原因.
「自由によって結ばれた社会は自由によって崩壊するだろう.」
資本概念未成立; 貨幣経済論 貨幣=富の蓄蔵手段
階級構成; 士農工商,地主・農民・商工業者 近世的.半封建的
貨幣 (資本) 循環. 農民の貨幣地代→地主→商工業者への奢侈支出→
商工業者と農民の間の交換→農民の貨幣地代→ (=近世的・半封建的)
貴族(国家も)が奢侈しなければ商工業疲弊 → 農民への貨幣流入減,農民疲弊→地主も困る ∴国家は地主の奢侈を奨励すべし. (=有効需要論政策)
貴族の奢侈多ければ→商工業過熱→生活豪奢に→輸出価格は上昇→ 貿易収支悪化.
→収支改善の見込みなければ 貿易遮断.(政府は絶えず状況を見守り政策調整を.)
Political Economy =economic policy (=経済政策論) 経国済民
ケネーの問題?
② A.Smith(1723-90) An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations,1776
イギリス経済思想史の方向付け
Nature≠金属貨幣=反重商主義 =国民の消費財の豊かさ 生産の目的は消費
Natural =普通にそこいら中に見られる,そうあるべき,必然的にそうなるに違いないこと
Wealth =wealの名詞化 福祉 Wohlstand der Nationen General opulence
資本のもとでの労働の疎外よりも労働者の生活水準を=イギリス的伝統
資本主義的3大階級=資本家,労働者,地主(→3大階級把握はマーシャルまで継承)
Nations =先進国も後進国も同じように ( 後進諸国・植民地に対する感覚 ?? )
Nationalism=航海条例支持.1650s 戦争の原因だったが.ミルもマーシャルもトインビイも賛同
Causes;―分業による労働生産諸力の向上 (分業=工場内分業も社会的分業も)
(manufacture,封建制批判,重商主義批判,私有財産制,個人的自由,政治,教育,司法,財政,軍事の諸制度)
★ 近代自然権,個人主義的自由,平等な市民関係を基礎にした経済学の体系化=経済思想史上唯一の体系(=特徴)
∴倫理学と国富論』の連関 同市民関係と交換関係 『道徳感情論」と『国富論』の連関
分業の弊害の矯正・可.初等教育の必要.ミルもマーシャルも継承.
★ 政府の公共事業の原則――民間企業にはできないが,社会的には有用な事業は政府がやる.
→ほぼ同じ文章がミル,マーシャル,ケインズに見られる.=資本主義改変のテコ
★ 封建遺制の解体過程と,重商主義の行き詰まりの中に自然的・必然的な歴史的な見通しの上にBk.1の原理=「自然的自由の体系」が構想された.= 封建制から「自由の体系」への体制移行論;
ローマ帝国崩壊以後(=modern ages) allodial system諸侯の自立的な領地支配・領地争奪戦
→領主の中の大領主→国王. 国王は領主たちを抑えるために都市商人に自由を与え保護.
都市商工業栄え→諸侯の奢侈→諸侯財政難→従者を解雇→権力弱体化し貨幣欲強化
→農民から貨幣地代収入を増やすために農民への借地権の締め付けを緩める(土地使用権の強化,収益権の改善)→農業の生産性増大. → 農・工・商という富の自然的発展コース始まる
(他方)都市の商人も土地を購入して農業の発展に寄与した.大商人と大製造業者が王権と結託して重商主義を展開した.その行きづまりと解体の始まり=アメリカ独立宣言,1776年.
特徴;――
* 長期の曲折を経た体制移行(伝統的思考になる).経済発展が基礎.マルクスはhübschと評す
* 封建的土地所有権の改変=封建貴族の所有権の全廃は不問.処分権・使用権・収益権の関係の改変(=→私的所有権の廃止は不問=上記3権の関係改善を→イギリスの伝統的思考になる)
③ J.S.Mill(1806-1873) Principles of Political Economy,1848
Political Economy 経済政策ではない.社会哲学の1分野(スミス的)だが1分野として独立.
その他に『自由論』,『功利主義論』,『代議制論』,『社会主義論』を書く.
初期社会主義を組み入れてスミスのように社会哲学とつながりのある経済学の体系化を.
(社会主義的な)改良=資本主義の修正=orその強化 ?=重要 分配制度 =可変的.人為的
自然的・必然的発展=不在.すべては自然法則に立脚した人為的な物.橋,岸,堤防 =人為
∴ 歴史の発展は多様. 例インド 歴史学派のアシュレー称賛.資本主義の将来も多様
→ Marshall
先進国は分配政策を.文化生活の充実を.後進国は生産力政策を.
政策的なStationary state 注意――現在の日本は ??
価値論,交換論( ≒ミクロ経済学)は自由競争条件のもとでの現象であるにすぎない.
土地は公共財.売りに出た土地はまず公的機関が交渉.買い上げた土地は農業協同組合,個人に貸出す.税の代りに差額地代徴収 可. (いまだに未実現.中国 ?)
資本・賃金労働;マルクス疎外論に最も近い.意識ある労働者は個人企業で長くこき使われることに耐え得ない.2大階級に分割されている社会は永久には続き得ない=ミルの「信念」(リカードと比較)
(cf.Ricardo(1817)natural course of things=利潤率低下の法則=資本主義の最初の限界の指摘)
企業形態―個人企業,合資会社,株式会社,経営状態の公表制度.所有と経営の分離.利潤分配制
度の可能性.協同組合の発展を.協同組合の民主的運営法.労働者だけの出資による生産協同組合.
ミックスト・エコノミー (私的所有の3要素の関係・修正=伝統的)
④ A.Marshall(1842-1924) Principles of Economics,1890.
Industry and Trade,1919. Money, Credit and Commerce,1923. 3部作
Economics= 保守主義(自由放任),社会主義(マルクス主義的)に反対の中立的な立場で(?)
主著(1890)はミクロ的. (1919)と(1923)は独占化の諸相.米,独急成長の原因論
∴資本主義の原理的体系として失敗 (≒ケインズの悪評)
マルクスの影響を受けた社会主義(集産主義など)への強い反対.
私的所有制度廃止・反対 剰余価値反対.必然的,自然法則的歴史観反対
反対根拠;-産業革命時代の自由放任は悲惨な状態とマルクス主義をもたらした
しかし19世紀後半になって機械化,工場法による規制,労働組合,協同組合運動,教育水準
向上などの効果で全体としては労働者の生活水準は向上した.∴窮乏化論妥当せず.
Collectivismは(生産手段の公有も革命的社会主義も)官僚制的・専制的になるだろうから反対
注意――民主主義 人民が統治者を統治する イギリス経済思想史の伝統
(← ≒スミスの市民社会論.ミルの労働者だけの出資による協同組合の民主的な運営.イギリス的伝統)
J.S.Mill的な初期社会主義的な改良・協同組合運動を継承=マーシャル的社会主義
「良心的なすべての経済学者は社会主義者だ」
貧困問題=経済学の主題. 労働者の生活水準の向上=政策目標
例外的なresiduumは直接救済を (←スミスのgeneral opulence)
★ ミルと歴史学派を顧慮して自然法則的なの一般法則は存在しない.
∴natural course of thingsもnatural priceも存在しない.一般均衡論の形式もとらない.
さまざまな特有な条件のもとでのnormal price etcがあるだけ.
過去の事情から(法則的に)将来を予見することもできなくなる.
予見の蓋然性 J.N.Keynesも.歴史学派も (→ケインズへ)
資本主義は必然的に社会主義になるとは言えないが,資本主義は永続するとも言えない.
この割り切れなさが =マーシャル.(→cf.Pigouの『資本主義対社会主義』(1937年)も同じ)
*欠けている点;――資本対労働 賃金労働の疎外(マルクスの問題) 植民地争奪(レーニン)
⑤ J.M.Keynes(1883-1946)General Theory of Employment,Interest and Money.1936
予見の蓋然性(不確実性)はG.E.Moore,Principia Ethica,1903の行為理論で決定的に.
Moore=行為の直近の結果はなんとか予想可能だろうが,遠い未来の結果は予測不可能.それでも
人は現時点で行為決断を迫られる.∴慣習に妥協するほかないか.
Keyenes=そうであるなら,官吏志望も政策立案も無駄.そこで;―Treatise on Probability,1921
――(過去の歴史ではなく)現下の事実を集めて論理的・理論的に推論し,蓋然的ながら短期的結論をだす=「合理的信念」.→ 結論は仮説的ながら,それがあれば行為も政策も立てやすくなる=『一般理論』 Cf.GT,p383.現下の事情が変化すれば,推論→結論も変化する.
=ケインズ短期理論の方法
generalの意味―イギリス現下の事情では一般的.不況と失業. ⇔ universal=不変的・普遍的
当時の用語法は particular ⇔ general ⇔ universal 注意
『確率論』的行為理論 → スミスの自然価格論,功利主義,一般均衡論,自然法則 不成立
∴ 個人的自由→社会的秩序という資本主義の肯定的体制原理 不成立 (マルクスとは別建て)
自由放任は社会主義への近道 cf. Steuartの見解の証明?
現下の事実が前提――労働組合,賃金の下方硬直性,非自発的失業,有効需要不足etc
∴ 経済学は政策理論へ――「最終課題は政府が裁量的に採用し得る諸変数を選ぶこと」
GTの政策理論は,「現在の経済体制の全面的崩壊を回避するための唯一の手段」 注意・成功
=資本主義体制の全面的崩壊を回避するための唯一の手段=英・米 経済学史上最も強い危機意識
∴ 社会科学的な広がり(関連)をもった経済学はケインズで終結 以後経済学は政策理論に変身
= マーシャルの体系化の努力(3部作)は「致命的欠陥」 silly
「体系」構想はスミスにまかせて,経済学者はモノグラフを書きまくれ =重商主義期の特徴
ケインズは『一般理論』で有効需要創出による雇用政増進政策を主張したが,諸国の実際の諸政策は諸国の政治事情に任せた.(cf.D.Winch). 彼は福祉政策を応援したが,重商主義に倣って言う.(Petty;「娯楽,豪華な催し物,凱旋門,etc」.Steuart;「豪華な宮廷,多数の軍隊,壮麗な競演,ピラミッドの建設」.)Keynes; 「ピラミッドの建設,地震,戦争でさえ」).彼はイギリスでは国有化に反対したが,ルーズベルトには鉄道の国有化をすすめた.∴戦後の北欧,西欧諸国やアメリカの多様な諸政策は,多少ともケインズに結び付けられて展開された.
★市場と国家 違い=スミス(資本主義の形成・発展のため)vsケインズ(その崩壊を回避するため)
同質構造=Sm =Mill= Marsh=Keynesほとんど同じ文章=→体制改変のテコ
私的企業を損ねないで,私的企業ができないが社会にとって有用なことを.
=市場と国家の相互作用の進化で資本主義は修正・持続 資本主義の構造
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⑥ アメリカ経済学.対照的な英米事情
イギリス――1873~96 great depression,第1次大戦,20年代不況,30年代不況.第2次大戦.
アメリカ――19世紀末発展,20年代長期ブーム,30年代も景気循環的に,第2次大戦後の発展
1)1945-60sアメリカ経済順調・国際的支配力――経済学の主流はアメリカへ.
P.Samuelson,Economics, 1948~1980.新古典派総合 折衷的
有効需要不足時にはケインズ的マクロ理論を,そうでなければ新古典派の長期均衡論的ミクロ理論.
現代=資本主義と社会主義の中間形態=mixed economy. (cf.J.S.Mill)
2)30s 不況はケインズ的には解決せず.ケインズ→60sインフレ.70sスタグフレーション.
Chicago School F. Knight, 『不確実性とリスクと利潤』,1921. ケインズ『確率論』と同年出版.
ケインズと対照的にマーシャルを継承・発展.(risk=費用.Uncertainty→利潤.)
フリードマン 管理通貨制前提〔←ケインズ〕 ケインズ主義=多様な国家介入反対
規則的貨幣管理に絞る(マネタリズム).アメリカ的自由主義経済へ.
ルーカス 労働組合組織率は20%しかない.∴ケインズの前提を破棄.自由主義市場を主張.
長期の期待理論=新古典派的.Representative agent を想定して数学化.合理的期待.
新古典派ミクロ理論の長期均衡論を基礎にマクロ政策を基礎づけ.
⑦ ニュー・ケインジアンズ Stiglitz,43~,Krugman,53~,(Mankiw,58~ )
植民地解放後新興国の発展・旧社会主義の市場経済化.先進諸国ととの賃金格差.
先進資本主義国の過剰資金と金融市場の自由化. 先進諸国の国債累積とliquidity trap.
ケインズの直接応用困難. →2%インフレターゲット
ミクロ経済自体が不均衡化(金融市場も不均衡化) (ミクロもマクロも不均衡化) 折衷論克服
∴国家介入は不可欠. ∴ケインジアンを自称
○ 日本の経済学史とスミス論について一言
戦後,軍事的半封建的国家統制経済に反対→スミスの個人的自由・平等な同市民関係(『道徳感情論』)
と自由な等価交換を基礎とする経済論(『国富論』)との統一体系に注目.
しかし経済構造は,上記のように国独資的に発展し,同市民的倫理との接合は困難になる.
∴スミス市民社会論は,経済理論を離れて,倫理的,政治的な思想運動の度を強めざるを得ない.
しかし,経済的に国家介入の度が強まっているからこそ,倫理的,政治的,市民的な批判の必要度が
高まっているのが現状.(イギリス経済思想史にも,こうした市民的批判の伝統がくみ取れる.
スミス=反封建,反重商主義.リカードとミル=議会の民主化運動.マーシャル=「人民が統治者を統治する」)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study604:131207〕
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