これで食品表示偽装はなくなるのか (消費者庁:食品表示Gメン等の消費者庁への併任発令について)
- 2014年 1月 31日
- 交流の広場
- 田中一郎
今般,消費者庁は,ホテルや百貨店などの食材偽装表示の常態化を受けて,その改
善を図るため,下記サイトの記事にあるように,農林水産省の食品表示Gメンを当分
の間モニターとして活用していくことにしました。
●消費者庁 食品表示Gメン等の消費者庁への併任発令について (2014年1月24日)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「1.趣旨
農林水産省の食品表示Gメン、米穀流通監視官等に対し、一定期間、消費者庁の職員
として一時的に併任発令することにより、景品表示法に基づくレストラン、百貨店等
への監視業務を実施する。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●消費者庁 虚偽表示対策に農水省Gメン活用!
http://www.costdown.co.jp/blog/2014/01/post_2979.html
●「食品Gメン」らがメニュー監視 百貨店などの表示違反を調査 – 芸能社会―
SANSPO.COM(サンスポ)
http://www.sanspo.com/geino/news/20140124/sot14012413550003-n1.html
この消費者庁と農林水産省の協力による食品表示の適正化対策ですが,一見,もっ
ともらしく,よさそうに見えます。しかし実際は,その見かけに反して,この対策は
食品表示の適正化にあまり大きな効果は持たないだろうと推測しています。それはな
ぜか。
(1)食品表示Gメンの活動の根拠となっている法律は,農林水産省が所管している
JAS法です。従って,レストランなどで提供されている外食は法律の対象外です。
その対象外の食品の表示を,この農林水産省の役人であるGメンに監視させるという
のですから,根拠法がありません。一般的に役人がある行動をとる場合には,その基
礎に根拠法があるものですが,今回の場合,それがあやふやです(あえて言えば,国
家行政組織上の業務命令程度の話です)。
(2)もともと,JAS法に基づく食品表示Gメンの表示監視自体が「根拠あやふ
や」でした。Gメンの農林水産省官僚達には,食品表示を監視する上で必要となる,
一般調査権限や立ち入り調査権限,あるいは資料提出命令や業務改善命令を出す権
限,仮に悪質な業者が指示に従わなかった場合の行政処分権限や名前を公表する権
限,あるいは厳しいペナルティを課す権限など,およそ食品表示を監視する上で必要
となる様々な法的な権限が,一切と言っていいくらい現場に与えられていないので
す。これで適切な表示モニターができるなどというのは,まさに奇跡に近いことで
す。
(3)実際,だいぶ前のことですが,農林水産省食品表示Gメンが,どのように食品
の偽装表示を見抜くために動いているのかをTVのドキュメンタリーニュースでやっ
ているのを見たことがありますが,まさに「スパイ大作戦」のようなことを,現場の
職員が身を粉にしてやっているのです。気の毒という他ありません。そして,仮に偽
装や不正を見つけたとしても,悪質業者に居直られて,質問にも答えてもらえず,口
頭で注意をしてすごすごと引き下がらざるを得ないような雰囲気のシーンが何度か
あったように思います。表示偽装の調査は,いわゆる「お願いベース」で悪質業者に
対して行われていて,法的な権限がほとんどない現場の役人Gメンがやっているので
すから,こうなるのも当然のことでしょう。
(4)そして,私がけしからん,と思いますのは,当の農林水産省にしても,食品表
示を司る消費者庁にしても,厚生労働省にしても,現場にはいない幹部クラスの役人
達は,そうなるのを重々承知の上でやっている・やらせている様子がうかがえること
です。つまり,一方で,役所はしっかり食品表示を監視していますよ,監視する体制
をとっていますよ,というポーズを消費者・国民に対してとりながら,他方では,本
音で,こんなものは大した効果などありはしない,業者の方がずっと上手で,偽装表
示の大半はすりぬけてしまうだろう,それなら,業界からこのGメンの表示監視につ
いての苦情も,おそらくはたいして来ることはないから,一石二鳥である,くらいの
考えでいるのではないかということです。要するに,アリバイ政策・対策だ,という
ことです。そして,この政策の被害者は,我々消費者・国民であるとともに,農林水
産省の現場役人であるGメン達でもあるのです。
(5)その一つの証拠に,これだけ悪質な食品表示偽装が何年も前から発覚して,数
年おきにマスコミや週刊誌を騒がせているというのに,それを一掃するための厳しい
罰則付きの法律はいつまでたっても制定される気配はありません。それどころか,
「即罰化問題」というものがまだ解決しない=つまり,偽装という悪事を発見したら
ただちに行政処分で罰するということさえ,いまだに実施される様子はありません
(口頭指導,文書による改善指導と業者名公表,行政処分の三段階)。
食品表示偽装を行政が抑え込むには,何度も申し上げていますが,そうした悪事を
働いた業者に厳しい罰金刑を課し,食品表示偽装をすることが経済的に無意味である
こと=万が一発覚したら倒産の危機に陥ることを思い知ってもらえば,かなりの表示
偽装はなくなるでしょう(根絶は難しいですが)。しかし,農林水産省も厚生労働省
も消費者庁も,食品産業界との腐れ縁・癒着を払拭できず,かつその食品産業界と
もっともっと癒着しているゴロツキ政治家達に頭を押さえられて,きちんとした商品
表示偽装の防止対策をとろうとはしないので。まさに「南町奉行所」状態です。
(6)表示に関するルールの周知徹底も不十分なままですし,やたらに詳細で重箱の
隅を突っつくようなくだらない決まりも解消されていません。食品業者の表示担当者
が迷った時の相談窓口もいい加減です。食品表示行政の実態は「業界団体に丸投げ状
態」で,霞が関の役人達は,巷で何が起きていようと涼しい顔をしているのです。こ
れで表示偽装がなくなったら,それは奇跡というものでしょう。無責任行政の典型で
す。
(7)申し上げるまでもなく,外食を含む流通する食品に日常的に最もよく接してい
るのは,一般の消費者・国民です。その消費者・国民の協力を得て,食品表示のモニ
ター制度を,もっと幅広く,もっと適正に運営する必要があります。しかし,私がか
つてこのモニター制度の窓口のようなところに電話をした経験で申し上げれば,不正
や不適正表示を発見したとの連絡を受ける農林水産省の役人が「それは県の方に言っ
てくれ,担当は県だ」などと,「たらい回し」や「県と農政局との(美しく見苦し
い)譲り合いの精神」を発揮しているのが実態です。思い起こせば,2008年に大騒ぎ
となった「北海道ミートホープ事件」でも,北海道の農政局と道庁が,寄せられた表
示偽装の内部告発について,「担当はあんたの方だ」などと言いあって,責任のなす
り合いを演じていたことが発覚しています。要するに,偽装を発見しても,役所はま
ともにとりあげようとはしない,ということを意味しています。
(8)悪質な食品表示偽装の大半は「内部告発」によって発覚しています。つまり,
表示偽装を防ぐ最大の武器は「公益通報者保護制度」をしっかりした制度にし,かつ
その主旨を文字通り100%活かした運営がなされることです。しかし,通報を受けた
保健所や役所の人間が,その情報を,内部告発している人の名前も含めて,その悪質
業者に「たれこむ」(知らせる)という信じがたい背任行為が行われている様子がう
かがえます。内部告発者の名前を告発された業者に(こっそりと)通知することは犯
罪行為であり,やった人間は厳しい処分がなされてしかるべきですが,うやむやにさ
れて,内部告発者だけが解雇を含む被害を被るという事態が起きています(そもそも
日本の法律に,こうした背信行為を厳しく罰する規定がない)。こうしたことも抜本
改善がなされないと,食品表示偽装はなくならないでしょう。([公益通報者保護制
度」の主旨から外れた「たれこみ」をした役人を懲戒免職・刑事告発せよ)
(9)現在,先般制定された新法「食品表示法」(JAS法+食品衛生法+健康増進
法)の内容を定める作業が進められています。この法律自体がいい加減で出来そこな
いですが,しかし,それに加えて,いわゆる「法の執行」(法律に書かれていること
を守らせること)についても,上記のようにいい加減で出鱈目なのです。既に賞味期
限の切れた食品安全委員会,消費者庁,消費者委員会など,クソの役にも立たない行
政組織が乱立して,(御用学者や一部の似非消費者団体,あるいはお気楽市民運動・
社会運動などを巻き込んで),肝心なことは棚上げにしたまま,どうでもいいような
ことを多くの時間と費用を費やして小田原評定を続けているのが現実です。
(食品の偽装表示すら抑え込めない)このおぞましい日本の食品行政・消費者行政
に終止符を打つためには,消費者主権を明確に意識した正真正銘の消費者団体を消費
者・国民自身が確立するとともに,自民党や民主党をはじめとするゴロツキ・ゴキブ
リ政治家達を国会や地方政治の場から追い払う・一掃することです。そして,消費者
行政を文字通り消費者・国民のために遂行できる体制や法体系を構築していかなくて
はいけません(例えば,上記で申し上げた食品表示偽装を防ぐ実効性のある新法が必
要となります)。役人をバッシングするだけでは事態は改善しないのです。
●食品表示法の概要
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&frm=1&source=web&cd=2&ved=0
CC8QFjAB&url=http%3A%2F%2Fwww.caa.go.jp%2Ffoods%2Fpdf%2F130621_gaiyo.pdf&ei=
7qLpUrX-BcXXkAWh14DwCQ&usg=AFQjCNGISGDgRJCQNqxMjF-WMJ6nknlWog&bvm=bv.6044456
4,bs.1,d.dGI
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。