フクシマ―全世界的規模で対応すべき世界的危機
- 2014年 2月 3日
- 評論・紹介・意見
- uchitomi makoto
フクシマ―全世界的規模で対応すべき世界的危機
http://www.jimmin.com/htmldoc/150301.htm
ケヴィン・ジース&マーガレット・フラワーズ(2013年10月25日『Zspace Page 』)
東京電力は18日、フクイチ3号機の建屋1階で大量の高濃度汚染水が流れていることを発表した。これは格納容器が大規模に損傷している証拠だ。そもそも、どこにあるかわからない熔けた炉心を冷やし続けるための注水が、高濃度汚染水となって増え続け、これが漏れ続けていたことを認めたのも昨年7月。未だに解決法は提示されていない。ようやく日本政府が、対策に乗り出す姿勢を示したが、日本政府に当事者能力があるのか?との根本的疑問もある。
米国の「緑の党」のなかに設置された「福島に対するグリーンシャドーキャビネット(緑の党・影の内閣)委員会」が、「全世界的規模で対応すべきだ」として、国連への要求署名活動を始めた。同委員会は、①報道管制をやめて、②東電の無能を直視し、③国際的知見を集めて事故対策を急ぐべきだ、としている。世界は福島の現状をどう見ているのか?を知る資料としても興味深い。
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人類が初めて体験した放射能危機であるフクシマは、もうあまり取り上げられなくなった。我々の警告は「狼少年」扱いされ続けたので、この報告では事実だけにとどめる。
問題を解決し、地球への悪影響を最小にするためには最高度の専門的知識・技術が必要であるが、核問題コンサルタント団体フェアウィンズ・アソシエイツのアーニー・ガンダーセンら国際科学者チームが、フクシマ危機への対応として、15項目提案を行った。私たちが所属する「緑の党・影の内閣」は、日本政府と国連に、①「15項目提案」を起草した科学者をフクシマ事故修復作業チームに加えること、②修復作業に関して完全な情報公開と自由な取材を認めること、を要求した。
事故原発について問題を3項目に要約する。《1》炉心喪失、《2》大量放射能汚染水が2年6カ月も流出し続けていること、《3》人類が創造した最も危険な物質と言える使用済み核燃料棒1万1千本が4号機に貯蔵され、取り出しを待っているが、内1533本が不安定で危険な状態にあることだ。
炉心喪失
福島第一原発1~3号機は、核燃料がメルトダウンし、圧力容器を突き破った炉心(「コリウム溶岩」と呼ばれている)は、原子炉建屋の床も突き抜けて地中へ染み込んだと考えられる。40年にわたって核エネルギー問題に取り組んできたハーヴィ・ワッサーマン博士は、「多重的メルトダウンは議論されたことすらなかったのに、現実にフクシマで起きてしまった」と、書いている。
炉心がどこにあるかわからないのに、東京電力は推測だけで放水を繰り返し、今も地面から水蒸気が時折吹き出しているのを見ると、高温の炉心が水と接していることがわかる。もし、コリウム溶岩が地下水層に接して地下水を大規模汚染すると、専門家の試算では、東京周辺地域4千万人の避難が必要になる。
また、地下のキャップロック層(油層を密閉する岩石層)の下で「高熱高圧水蒸気反応」を起こし、大規模な「水蒸気爆発」を招く危険もある。さらに、汚染地下水が海へ流れ込み、多量の放射能が海へ流れ込むことになる。
汚染水
東京電力は、汚染水海洋流出を2013年7月まで隠蔽していた。日本原子力規制委員会の田中俊一委員長が記者発表すると、フランス放射線防護・核安全研究所は、「史上最大の海洋放射性核種汚染だ」と非難した。日本政府も同年9月に事態の深刻さを認めた。推定300㌧の汚染水が毎日海へ流れ込んでいる。流出した放射能が米国沿岸に届くには3年かかるので、ニュー・サウス・ウエールズ大学の研究所は、2014年初頭に米国沿岸に漂着する、と発表した。
事故の一ヵ月後、米国食品医薬品局(FDA)は、太平洋で捕獲した魚類の放射能テスト中止を発表したが、独自調査で、カリフォルニア沖で捕獲した黒マグロがすべて放射能汚染されていることを確認している。
海洋生物学者ニコラス・フィッシャーも「どのマグロからもセシウム134とセシウム137がかなりの濃度で検出された」と語っており、濃度が減少していないことから、放射能の海洋放出が続いていることを示している。韓国は日本から魚類輸入を禁止した。
セシウムは海底に沈殿しないので、遊泳魚がこれを吸収。その魚を食べる人間は、細胞損傷を受け、悪心、嘔吐、下痢、出血の症状がでる。症状は個人の抵抗力や接触時間の長さや放射性物質の濃度によって差がある。
汚染水流出が止まる見込みは、たっていない。WHOは、「流出による海洋汚染濃度はWHO安全基準よりも低いので、健康への影響は限定的」と主張しているが、疑問を持つ専門家は多い。
現在、「国連原子力放射線影響科学委員会」が、レポートを作成中である。完成すれば、放射性物質の放出状況や量、陸海空への広がり状況、環境や食物や人間の健康への影響などに関する最新情報の総合的研究報告になるだろう。
前出のワッサーマン博士は、「希釈拡散は解決にならない」と警告している。太平洋の広さは放射性物質の半減期を変えるものではない。水中放射性物質は海洋植物が吸収、それを小魚が食べ、さらに大型魚が食べるという食物連鎖が続き、人間に届く。
汚染水問題はこれだけではない。アジア・太平洋ジャーナルは、①東京電力は1000個の地上タンクに33万トンの汚染水、地下貯蔵タンクには測量できない量の汚染水を蓄えている、②汚染水は増え続けており、絶えず貯蔵タンクの新設が必要で、2016年までには80万個が必要となる、と報道した。
ワッサーマン氏の「地震や台風で、タンクが壊れる恐れがある」との警告も付け加えた。「現在汚染水問題には解決法がない」というのがアジア・太平洋ジャーナルの結論だ。
2013年10月、東電は観測井戸の放射能レベルが6500倍の濃度に急上昇したことを発表した。これはストロンチウムなど放射性物質が地下水に浸透していることを示しており、トリチウムの高濃度地下水汚染も認めた。
危機的4号機核燃料プール
福島原発は操業40年で、1万1千本の使用済み燃料棒が、野ざらし状態になっている。特に危機的なのは4号機4階のプールにある1533本の燃料棒だ。これらに含まれる放射能は、ヒロシマ原爆の1万4千発分。4号機が収納されている建屋が大破したので、東電は緊急補強工事をしたが、あちこちが崩れ、沈下しており、台風や地震で崩れ落ちる可能性もある。建屋の土台や周辺は水浸しで、建物の腐食を招き、次第に傾き始めている。ワッサーマン氏は、「冷却液が不足すると発火する恐れがある。…燃料棒が破損したり、ぶつかり合うと、発火または爆発する」とも説明している。
使用済み核燃料棒は非常に不安定である。プールで火災が起きれば、放射能大量放出となり、連鎖反応を起こして、制御不能となる。「そうなると、作業員全員撤退しかないだろう」とワッサーマン氏。高濃度放射能のために、コンピューターも機能しなくなる。安全装置が皆無となり、何がどうなっているのかわからないまま、ただ推移を見守るしかない。福島撤退だけではすまず、「東京周辺住民が疎開しなければならなくなるだろう」ともワッサーマン氏は語る。
燃料棒の撤去は緊急課題だが、核燃料集合体製造にかかわった経験があるアーニー・ガンダーセンは、「燃料棒撤去は非常に困難」と言っている。彼はラジオ・インタビューで「核燃料棒が入っている容器をタバコの箱に例えると、そこから一本ずつ抜き取るのですが、箱がぐしゃぐしゃに歪んでいるのです。抜こうとすると、ちぎれるか破れるかします。燃料棒の場合、セシウムやキセノンやクリプトンなどの放射性ガスが放出するので、近い将来、大量の放射能が放出され、全員撤退というニュースが流れるのではないか」と語った。
ワッサーマンも、「海水を汲み上げて冷却水に使った可能性がある。どの程度かはわからないが、燃料棒もプールも腐食が進んでいるだろう」と推測している。プールの水がこぼれたり、燃料棒から大量の放射性ガスが放出する事態になれば、作業員は撤退し、放射能が収まった頃に、もう一度やり直すしかない。
ジャパン・タイムズ紙は、「燃料棒取り出し作業中に、落下したり、破損したり、何かのトラブルで動きが取れなくなったりしたら、最悪の場合、大爆発か、プール内でメルトダウンが起きるか、大火事になる恐れがある。そうなると、大量の放射性物質が拡散し、日本ばかりか近隣諸国も危険な状態になるだろう」。
東電は、「通常の燃料棒移動と同じで、危険はない」と言い続けているが、実際は未経験の作業技術なのだ。ガンダーセン氏は、「通常の場合、コンピューター作業で、すべて垂直に持ち上がる仕組みになっている。しかし、事故後のプール容器は歪み、燃料棒も垂直移動できる状態ではない。手動で調整しながら行う作業で、困難極まる。掴み損ねたり、弾き飛ばしたり、どうしても動かせない事態が起きても、不思議ではない」と説明する。さらに同氏は、「崩壊寸前の建屋の中で、損傷したプールの中から、ひん曲がり、崩れかけた脆い核燃料棒を、コンピューターなし、すべて手作業で取り出すという、かつてなかった作業」と要約し、「失敗すれば何億人もの人間に害を与えるのだ」と締めくくった。
急いでやるべきこと
以上述べたフクシマの3大問題は、すべて人類初経験で、人類と環境に未曾有の影響を及ぼすものだが、明確な解決法はない。ただし、フクシマ浄化と廃炉と危険性を低下させるために、急いでやるべきことはある。
第一は、報道管制をやめること。フクシマは世界の住民のほとんどに影響を与えるので、世界が関係者だ。人々が問題を知れば、解決しようという政治的意志が急速に生まれるだろう。フクシマ情報のグローバル化を望まないのは、原発で金儲けをしたがっている原子力産業だけである。フクシマ3大問題の費用に比べたら、そんな利益なんかちっぽけなものだ。
第二は、東電の無能を直視すること。上述3大危機に対処できないばかりでなく、嘘の上に嘘を塗っている。日本人の91%が東電への不信を表明し、国家介入を望んでいる。東電の対応は、『間違いの喜劇』と呼ばれている。次々と間違い、それを否定し、被害は少ないとする嘘をつく。実際、その間違いと嘘のために被害がより大きくなった。まず東電は、事故原因を「想定外の大津波」のせいにしたが、後になって、津波到来を予測していたが対策をしなかったことを認めた。
福島原発には最初から人災的要素があった。フクシマ事故を「政府、東電、粗悪な原子炉設計の間の『癒着』が生み出した『人災』だ」と結論づけた公式調査もある。これは東電だけでなく、電力業界全体の問題である。米国の原発の多くも危険な問題を隠して、操業期限を越えて、福島と同じ粗悪原子炉を運転し続けている。しかも、近くに地震断層が走っているのに、だ。
取締官や専門家は、日本でも米国でも、原子力産業と癒着し、堕落してしまっている。東電も専門家もメルトダウンを数カ月間否定し続けたし、2011年12月に政府は、「冷温停止状態」を宣言した。まったく嘘の宣言であった。
ジャパン・タイムズ紙は、東電のいい加減さを何点か指摘している。「その場しのぎの対応で、故障が絶え間ない。停電の連続、高濃度汚染水の地下水槽からの大量漏れ、ネズミが電線をかじってショートし、冷却水ポンプが30時間も止まった事件など、今年の4月以降10数件起きている。それらは、コストばかり気にして、フクシマの解決に充分な金を使わず、その場しのぎのインチキで難を逃れようとするからなのだ。ワシントンズ・ブログは、日本政府が放射性廃棄物を通常の焼却炉で燃やして放射能を日本中(さらに世界)へ拡散していることを伝えている。
現場で働く作業員に関する問題も大きい。2013年10月のガーディアン紙は、作業員の志気低下、アルコール依存、不安症、孤独感、外傷性ストレス障害、うつの増加を報道している。彼らは、前代未聞の危険で困難な作業に従事しているにもかかわらず、賃金が20%引き下げられた。
作業員の苦悩は、勤務中だけではない。家が地震や津波で破壊され、日常的に被曝に脅え、健康被害を心配している。東電は最低の価格で仕事を下請けに押しつけているので、賃金は低くなる。ガーディアン紙は、日本原子力規制委員会の田中俊一委員長の「作業員のやる気のなさが、相次ぐミスの原因だ。充分に労働への動機づけがあり、優良な作業環境の中で働いておれば決して起きないような、馬鹿げた単純ミスばかりだ」というコメントを報道している。
東電の歴史を知れば、フクシマ解決をこの会社と会社から虐待を受けている作業員に任せることはできない。フクシマ危機はグローバル危機なので、グローバルな規模の取り組みが必要だ。16人の世界的核専門家が国連への公開書簡で、①フクシマ処理・浄化の仕事を国際的専門家集団に委ね、②市民委員会や東電と無関係な国際的核研究者集団、およびIAEAの監視下に置くことを、日本政府に要請せよ、と要求した。福島原発が「安定化どころか日々悪化の一途」なので、緊急課題として要求したのだ。また、16人専門家集団は、WHOとIAEAがフクシマの健康被害や環境破壊を低く算出していることも批判し、正確な評価と将来予測を得るために、広範なデータ収集と正確な算定方法を提案している。また、避難住民への待遇改善要求もした。
現実直視できない東電と日本政府
本当の問題は何か、何が災禍を引き起こすのか― 現実を直視しなければならない。東電と日本政府は現実直視を避けているから、対処能力がなく、世界の参加が必要なのだ。核産業や核エネルギー推進者は、地球と生物が受ける長期的被害という現実を直視しなければならない。米国およびその他の国々は、核エネルギーを放棄している。
フクシマ事故当時、米原子力規制委員会の委員長だったゲーリー・ジャスコは、「200年後を描いた未来映画で、世界が核分裂原子炉を動力源としていると描いたものは観たことがない。原子力は未来テクノロジーではないのだ」と語った。彼は米原子炉の多くが使用期限を越え、老朽化していることを知っていたのだ。核は、エネルギー源として非常に高くつくので、依存することはできないと思ったのだ。米では原発の新設はなく、融資する投資家も少ない。「原子力産業は消えつつある」と、彼はそっけなく言い放っている。
ラルフ・ネーダーは、核エネルギーを「不必要かつ不経済で、保険の対象にはならず、事故のとき避難不可能で、何よりも危険」で、そんなものが存在し続けているのは「原子力ロビーが政治家に圧力をかけているからだ」と言っている。「避難不可能」というネーダーの指摘は、放射能の恐怖を言い当てている。米国では地震断層の近くに多くの原子炉があり、ロサンゼルス、ニューヨーク市、ワシントンD・Cの近くにもある。福島原発を設計したゼネラル・エレクトリック社製のものが23基もある。
現実を直視すれば、自治体は避難訓練を行うはずだ。大都市の場合、必然的に避難不可能であることを知るであろう。その意味で、避難訓練を要求する市民運動は、有効な反原発戦略となる。
福島原発は震源地から120㎞離れていたが、震源地が20㎞以内だったら、発電所は完全崩壊、大惨事になっていただろう。この可能性の認識も現実直視の一つだ。
世界のエネルギーを太陽、風力、地熱、波力による発電に変えることを、多くの専門家が推薦している。二酸化炭素フリー、放射能フリーのエネルギーに基づく経済は可能であり、それに移行しなければならない。問題は、そこへ到るまでの時間と、その間にどれだけの破壊が進行・蓄積するかだ。
記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion4735:140203〕
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