3年目の3・11 を前に、政府の原発再稼働計画を許していいのか?
- 2014年 2月 16日
- 時代をみる
- NHK加藤哲郎原発都知事選
◆2014.2.15 安倍首相の靖国神社参拝、ダボス会議での日中関係を100年前の英独関係にたとえた非常識、公営ならぬ「国営」放送会長の従軍慰安婦容認発言、国際社会は、いっそう厳しい目を、日本に向けています。なにしろ第二次世界大戦後の世界秩序、たとえ建て前であっても、国際連合を中心とした対話と協調の原理そのものに、挑戦しているのですから。 韓国・中国からだけではありません。アメリカ、ヨーロッパはもちろん、インドやタイまでが、注視しています。週刊ポストの見出しを借りれば、「親日国のメディアからも安倍批判の嵐が吹き荒れ」て「「日本の右傾化と軍国主義の台頭」が危惧されている状態。そこに、スウェーデン国家並みの規模の東京都知事選で、安倍首相が街頭で応援した自公政府支持派の勝利、分裂して二分した脱原発派候補を足した投票数をも上回ったばかりでなく、むしろ安倍首相の立場・歴史認識により近い右派候補が、20代・30代の若者を中心に60万票を得ていて、事態は深刻です。東京都知事選への私のAP通信へのコメント「原発ゼロ派の戦略的失敗」を、「反原発は都知事選の公約として主張するには戦略的に正しくなかった」と、誤って日本語で報じているサイトがありますが、投票数日前の電話インタビューで、舌足らずだったとはいえ、The Guardianが伝えているように「The public has been worried about safety after the meltdowns at the Fukushima Daiichi plant. Protesters have periodically gathered outside government buildings and marched in parks, demanding an end to nuclear power.Tetsuro Kato, professor of political science at Waseda University in Tokyo, said the anti-nuclear vote suffered because voters could not agree on one candidate. He said: “This could have worked as a key vote on nuclear power, not just about city politics. But those pushing for zero nukes failed in their strategy.”」つまり、本サイトで一貫して主張してきたように、脱原発派が候補者を一本化できなかったこと、そのため原発ゼロを基本争点にできなかったことを、「戦略的失敗」と述べたものですので、誤解のないように。
◆実は、このインタビューで、比較的多くの時間を割いたのに、英語ニュースでは報道されなかった問題があります。それは、日本のマス・メディアの責任の問題で、公共放送NHKの会長発言、経営委員の極右候補応援演説、NHKラジオでの原発問題への言及の封殺ばかりでなく、公示後の選挙報道での、都政の争点は原発だけではないという拡散と誘導、有力候補者の街頭演説風景で応援演説や集まった聴衆の数を映さない報道協定風「自粛」、世論調査でのアナウンス効果等々の問題で、上記安倍内閣に対する諸外国の批判についての国内報道が弱いのと同様に、特定秘密保護法制定から改憲問題まで、日本のマスコミが、ジャーナリズムの権力監視機能を弱め、萎縮しているのではないか、という点です。外国通信社は了解しているようでしたが、残念ながら、このポイントは報じられませんでした。その代わりに、国際的ジャーナリスト団体、「国境なき記者団」の恒例「報道の自由度ランキング・2014」で、日本は2010年11位から11年22位、東日本大震災・フクシマ原発事故で問題が知られ、昨13年53位から今年59位と、とても「先進国」とはいえない凋落です。世界「報道の自由度ランキング」は、世界各国・地域の報道の自由度を順位付けしたもので、検閲の状況、法的枠組み、透明性、インフラなどの項目で、世界180カ国・地域を対象に採点するものです。日本の59位は、台湾(50位)、韓国(57位)を下回ります。その下落の理由は、特定秘密保護法の成立により、「調査報道、公共の利益、情報源の秘匿が全て犠牲になる」ことですが、同時に、「フクシマの検閲 Censorship of Fukushima」として、「『記者クラブ』という日本独特のシステムによって、フリーランスや外国人記者への差別が増えている。『原子力村』として知られている原子力産業の複合体を取り上げようとするフリーランスの記者は、政府や東京電力が開く記者会見への出入りを禁じられたり、主要メディアならば利用できる情報へのアクセスを禁じられたりするなどで、手足を縛られている。今、安倍晋三首相が『特定秘密保護法』という法律で縛ることで、彼らの闘争は、更に危険なものになってきた」と率直に語られています。東京都知事選報道でも、「国境なき記者団」が危惧する検閲や自主規制、萎縮はなかったか、ジャーナリストの皆さんには、ぜひ検証してもらいたいものです。
◆都知事選の結果には、46%という低投票率も響いています。ハフィントン・ポストが、区市町村別にデータ分析していますが、原発ゼロ派は、ほぼ同一地域で完全に二分されていたことがわかります。大雪直後の悪条件があったとはいえ、脱原発派の分裂で自公候補者当選確実という状況が、無党派層を投票から遠ざけ、盛り上がりのない選挙にしたといえます。この点では、ITを駆使して、自分の政見を訴えるよりも市民の声を集めようとした35歳の若い候補が9万票近く集めたことが、ヨーロッパで台頭する海賊党の試みと似て、新しい政治の可能性の一端を示しましたが、政治は結果責任です。安倍首相は、都知事選で自分の政策が追認されたと自信を持ち、早速、原発再稼働に踏み込み、エネルギー基本政策の決定へ、集団的自衛権を首相の憲法解釈で変更するという、歴代自民党政権とも異なる新しい段階へと、暴走しようとしています。これが、私の言う「戦略的失敗」の帰結です。「原発ゼロ」という核心的イシューでの幅広い力の結集ができなかったために、むしろ「原発事故では一人も死んでいない」と暴言し、中韓との軍事的対決まで公言する極右候補の路線が、実行に移されようとしています。第一次大戦前もヒントにはなりますが、1933年ヒトラー政権成立前のワイマール共和制ドイツ、大恐慌と大量失業のもと極右と極左が台頭し、反ナチ勢力が分裂して内部でいがみあっている間に、泡沫と思われたヒトラーがナショナリズムを動員して急速に支持を拡大し第一党になった経験、あるいは、戦後日本では、朝鮮戦争前夜、片山・芦田の社会党入閣内閣に期待が大きかっただけに、政権交代の現実に失望した民衆が、吉田茂の民主自由党を甦生させ、占領政策の「逆コース」のもと、レッドパージから再軍備へと突き進んだ時代が、想起されます。まもなく3・11、「フクシマの悲劇」の3周年です。無論、「収束」どころか、汚染水から高濃度ストロンチウムまで、日日新たな問題が出ています。被災者の皆さんへの補償も、進んでいません。3周年に向けて、脱原発勢力の幅広い力を再結集できるか、世界から、日本人の記憶の仕方が注目されています。この間、本サイト学術論文データベ ースで時代に警鐘を鳴らし続けている神戸の弁護士・深草徹さんから、新たに「戦前秘密保全法制から学ぶ」という新稿が寄せられました。私も歴史づいていて、2月26日(水)午後3−5時に、法政大学・多摩キャンパスで、法政大学大原社会問題研究所の公開講演会「「国際歴史探偵 」の20年ーー世界の歴史資料館をめぐって」、専門的テーマでなく、世界の公文書館と歴史資料収集・解析のテクニックを話してほしいとのことで、旧ソ連秘密文書から最近のゾルゲ事件まで話します。3月2日(日)午後3−5時は、池袋で、東京自主の会主催の講演会、岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』をもとにした「日本の社会主義ーーその歴史的教訓」です。いずれも公開とのことですので、ご関心の向きはどうぞ。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2545:140216〕
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