米中ロ関係に振り回される日本、出口の見えないこの国の行方は?
- 2010年 11月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎領土問題
2010.11.1 週末、信州大学経営大学院グリーンMOT国際シンポジウムに出てきたので、半日遅れの更新。幸い台風にはぶつからず、信州の紅葉を味わうことができました。BRICsの一角ブラジルの大統領選は、左派のルラ現大統領の推すジルマ・ルセフ元官房長官が、女性で初の大統領になることが決まりました。フランスでは年金改革法に反対するストライキがさらに続きそうで、ギリシャの財政危機はEU版IMF創設へと向かっています。そして、明日の米国議会中間選挙では、「ティー・パーティ」原理主義運動に推された共和党の躍進が予想され、民主党オバマ大統領の政治運営は、新たな困難を抱えそうです。そんな中でロシアのメドべージェフ大統領は初めての国後島訪問、日本は「領土問題」で、南の尖閣列島に続く衝撃です。この間の日中関係のぎくしゃくを、日本のマスコミは、あたかも中国の内政事情のとばっちりのように書いていますが、海外の報道を追いかければ、より長期的で深刻な問題をはらんでいることがわかります。Japan News、Japan Today、Japan News Reviewでは、日本発ばかりではない英文ニュースが読めます。中国側の人民網日本語版で「釣魚島」問題が特集されているのは当然としても、「竹島=独島」問題を抱える韓国の中央日報、東亜日報、朝鮮日報などの報道を見れば、いまや日中関係が、たんなる二国間関係ではなく、東アジア全体の問題であり、 BRICs台頭、世界経済危機下の米中関係によって大きく規定された、21世紀世界の構造的再編の一環となっていることがわかります。このことは、より本格的な英文での論評、Japan Focus, H-Japan, H-Asia Discussion Network,などを見れば、いっそうはっきりします。「尖閣列島も国後島も日本固有の領土」という主張は、国内向けにはともかく、国際的には論議さるべきイシューとして扱われており、それも、近代日本の歴史全般とのからみで問われているのです。
尖閣問題では中国の指導者世代交代や反政府運動をおそれる国内事情、ロシア大統領の北方領土視察も次期大統領選をにらんだ国内問題と関連づけるのが、日本マスコミの内向き報道のパターンです。それならば、同じ事情は、日本国内にもアメリカにもあることを、見ておくべきでしょう。つまり、現在の民主党菅・仙谷内閣は、党内で「反小沢」を掲げて政権に到達し、外務大臣に前原誠司という強硬な反中国・日米運命共同体論者を配することによって、鳩山「東アジア共同体」から訣別し、2009年政権交代マニフェストの「国民生活が第一」「主体的な外交戦略」は言うに及ばず、2010年参院選マニフェストの「第3の道」「北東アジア地域の非核化」「日米地位協定の改定」からも遠く離れて、国際社会の中で迷走し、翻弄されているのです。日本の官邸と外務大臣・外務省の齟齬、検察司法と官邸外交の関係、中国側のインターネット普及と共産党と軍の関係、地域格差増大と大卒就職の困難などの要因もありますが、ベーシックな問題は、世界の構造変動に連動した米中関係の再編です。つまり、日中関係は、米中関係のアメリカ側カードの一つにされて、円価格が元・ドル関係にリンクされ、レアアースから観光産業まで、中国政府と市場の動きに振り回されています。そのうえ「領土問題」については、アメリカは、決して日本側の主張を全面的に認めることはなく、むしろ対中・対ロ関係での戦略的交渉に利用するでしょう。そのとばっちりで、11月中旬の予定だった私の訪中計画も延期になりました。この意味では、まもなく始まるソウルでのG20サミット、横浜APECでの日中・日ロ首脳会談の有無よりも、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への態度、日米首脳会談、そして月末投票の沖縄県知事選挙が、今後の流れを方向付けるでしょう。日本という国の、大きな岐路です。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
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