教えない人へ―知識の「盗用」を心配するより、もっと重要なことがあるだろう
- 2014年 3月 10日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
仕事を通して、あるいは個人的な努力で得た知識を周囲の人に教えない人をよく見る。偉そうな顔をしてか、涼しい顔をしてか、教えているように見えるときでも、よく見ると知識を整合立てて、相手が理解し易い、吸収し易いようには言わない。故意に知識を断片化し、ロジックの順序をごちゃごちゃにして、書類のかたちでも電子データのかたちの資料でもなく、伝承のように口頭に限って相手が吸収しにくいように配慮さえしていることがある。
なぜ人に教えないのか?その理由はほとんどの場合、身分保全以外ではないと想像している。知っていることを、知らない人を差別するための武器として使い、組織内で優位な立場に立とうとしている。実際にこの類の差別化で優位に立っている人たちも多いと思う。長年に渡ってこのようなことをしてきた人が急に周囲の人たちと知識の共有化を積極的にするようになることはないだろう。でも、そのような人たちに言いたい。知識の共有化は少なくとも次の三つの明確な利点があると。
利点の第一としてあげたいのは、知識の共有化をしている組織としない組織では、どちらが競争社会のなかでうまく生き抜いて行ける可能性が高いか?自明の理だろう。と言うことは知識の共有化をせず、妨げている人たちは利己的な保身のために自ら所属する組織や企業を今で言うところの負組み側に押し込むことをしていることになる。利己的な保身が自らを負組みの一員にすることになりかねないことを考えれば、はたして教えないことにどれほどの価値があるのか?
利点の第二として、人に教える過程で自らの知識やロジックを検証し、精緻化しうる。人に教える、説明するには、自分にだけでなく相手にも分かり易いように知識を整理し、ロジックの整合性を検証する作業をいやでもすることになる。知識やロジックを相手に説明しきれなければ、説明の仕方の問題なのか、それとも結論として導き出した知識あるいはロジックに欠陥があるのかをチェックすることになる。この過程を経ることによってのみ知識やロジックの完成度を高めることができる。相手に分かり易く説明できないというのは、その訓練が十分でないために説明の仕方が上手でないのか、それとも知識かロジックに欠陥があるかのいずれか、あるいは両方かもしれない。どちらにしても己の知識を武器と思うのであれば、その武器の性能を高めたいとは思わないのか?高めたいのであれば、人に教えることこそが高めるための最も有効な方法だということに気がついてもよさそうなものなのだが。教えない人たちはその程度のことさえ考えつかない程度の人たちなのかもしれない。
第三に、人に教えれば、こっちも教えてもらえる機会が増える。これについては今更なにも言うことはない。
ここまで分かっていても、多分教えたくないという経験が生み出してしまった精神的な負の遺産から自由になれない人も多いだろう。そこで次のように考えれば、多少は教えてもいいかなと思ってもらえるのではないかと思う。
当たり前のことだが、人に説明して納得して頂けるレベルの理解度と人に説明されて納得する理解度には天地の差がある。知識もロジックも実は結果として得られたもの以上にそれを得るまでの経験、思考プロセスに真の価値があるのであって、結果、結論だけを教えてもらうかたちで頂戴しても、ある時点である状況に対しての結果、結論ででしかない。次の時点、極端な場合、翌朝には新しい状況がでてきて、違う結論になっているかもしれない。経験と精緻化してきた、確立された思考プロセスがあるからこそ、状況が違ってもその状況に合わせた結論、結果を導きだせる。その能力こそが真の優位性で、その優位性が導き出した結論は優位性が顕在化したものに過ぎない。
人に話したらアイデアを盗まれた、案を盗用して同僚がいかにも自分が考えた案として上司に具申したと憤慨していた同僚がいた。親しい同僚からは人に話す前に案を上司に報告して盗まれないようにした方がいいと、よく忠告されもした。そんなものは、その時の、一時の案にすぎない、たいしたものじゃない、ご髄にどうぞでしかない。欲しいのは常に状況を真っすぐ見て、その案を、次の案を導きだす精緻化された、堅固でありながら柔軟な思考プロセスだと自信を持って言えなければならない。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
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〔opinion4783:140310〕
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